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第4章 第一次対大同盟戦
協同作戦 02
しおりを挟む「しかし、エゲレスティアが援軍を送ってくれるでしょうか?」
現在ネイデルラント方面のエゲレスティア艦隊は、ドナウリア領ネイデルラントを自国領にするために攻略中であり、艦は一隻でも多く欲しい状況である。
ゲンズブールの懸念通り自軍の作戦行動を優先して、何かと理由をつけて援軍を送ってこない可能性は十分ある。
「確かにその可能性はある。だが、オソロシーヤ後続艦隊の存在は、彼らにとっても他人事ではなく驚異ではあるんだ」
ヨハンセンがそこまで説明すると、ロイクが続けて説明をする。
「我々が戦って敗北、もしくは戦わずに撤退すれば、オソロシーヤ艦隊12000隻はネイデルラントへの援軍に向かうであろう。そうなれば、エゲレスティアはネイデルラント防衛艦隊とオソロシーヤ艦隊の両方を相手にしなければならない」
ロイクの説明を聞いて、ヨハンセンは肯定の意味を込めて頷くと、再び自身で説明と推察を話はじめる。
「ノルトホラント星系惑星アムルテルダム宙域は、地形を利用した強固な防塞線が構築されており、守りに徹せられると攻略には時間が掛かる。当然防衛艦隊は、防塞線を利用して援軍が来るまで降伏せずに堅守するだろう。そうなれば、力攻めでは攻略するのは難しいだろう。そして、そこにアングレーム中将の言う通り、オソロシーヤ艦隊が来援すれば攻略どころではなくなるだろう」
「だが、援軍が来ないとなれば話は変わる。防衛部隊の士気は下がり、降伏も早まると… だから、エゲレスティアは援軍を送って我らと“共同でオソロシーヤ艦隊が防衛艦隊と合流する前に叩く”と、総司令官のおっしゃりたい事はそういうことですね?」
説明を一通り聞いたウィルが自身の意見を話すと、ヨハンセンは頷きながらこう答える。
「そのとおり。エゲレスティアの司令官が、この戦役の全体の流れが見える人物なら、援軍を了承してくれるはずだ」
ウィルには楽観的にそう答えたが、
(エゲレスティアに充分な戦力と増援があるなら、そうとも限らないが…)
ヨハンセンは頭の中では、そのようなことも考えている。
「実は私はこの援軍要請を今回の戦いの後に、敵の後続艦隊が撤退しなかった場合に依頼すると既に惑星ランヌで本国を通じて打診しており、これより正式に本国を通して要請するつもりだ。もちろん、殿下の許可もいただいている」
「なんと!? 司令官閣下はそれ程前から、今回の作戦の準備をしておられたのですか?」
ゲンズブールが総司令官の行動の早さに感嘆すると
「まあ、打てる手は打っておこうとしただけだよ」
彼はひけらかす訳でもなくそう普通に答える。
今回の作戦はエゲレスティアが援軍要請を受けなければ、ヨハンセン艦隊は動きようがないため、作戦会議はここまでとして各司令官は乗艦に戻り、損傷した艦の修理の指示などの艦隊の立て直しを行うことになる。
だが、ヨハンセンはロイクだけ会議室に残すと、彼に今回の作戦への意見を聞くことにする。
二人だけの話し合いにしたのは、彼の懸念している内容が艦隊の士気に関わるものであった場合を想定していたからである。
「中将。今回の作戦、貴官はどう思う?」
「小官には一つ懸念があります。それは、エゲレスティアの増援を得た場合、その増援艦隊と共にドナウリアの防衛艦隊が付いてこないかということです。奴らとしても、オソロシーヤ艦隊が自分達の命運を握っている以上、エゲレスティアが増援艦隊を差し向けると知れば、それに対抗できるように許せる限りの援軍を送ってくるでしょう」
「それは、あるだろうね。ただ、事前の情報によるとドナウリアの防衛艦隊の数には、さほど余裕は無いはずだから、こちらの連合艦隊を大きく上回る事はないと思うよ」
「では、あと一つ。あの性悪― 殿下が、エゲレスティアへの援軍要請を素直に認めたことです。あの方は後の事を考えて、他国に借りをあまり作りたくない考えの筈ですが…」
ロイクの言う通り、フランは今までの戦いでエゲレスティアに防衛は依頼しても、直接戦闘への要請はしてこなかった。
それは、今度自分達の余力がない時に、援軍を申し込まれた時に断りやすくするためである。
「今回は状況が状況だから、だと思うよ…」
ヨハンセンがこのように歯切れの悪い返しをしたのは、次のような事を考えていたからである。
(今回は殿下の方も今までと違って、苦しい戦いになり華々しい戦果をあげられないかもしれない…。そこで我々がそれを上回る戦果をあげてしまえば、相対的に殿下の評価が下がってしまう… だが、エゲレスティアと協同戦なら、勝利した場合の我々への功績を半分と評価することができる)
フランの事をヨハンセンより知っているロイクは、更にこう推察している。
(ルイ君を引き上げたい性悪姫としては、自分の居ないところで俺達にあまり功績を立てさせたくないといったところか…)
最後に両者は同じ考えにたどり着く。
(だが、どちらにしても、今回は援軍が無ければ、こちらの被害も増大するから仕方がない…)
こうして、両雄は話し合いを終えるとロイクは敬礼をして、会議室を後にする。
ロイクは、乗艦に戻るために連絡艇が待機している格納庫に向かうために、船内の廊下を歩いていると前から白いゴスロリ服を着た可愛らしい小柄な少女が歩いてくる。
(ん? あの白いゴスロリ軍服… アレが噂の白ロリ様か)
彼がそう思っていると、シャーリィはロイクに気付くと踵を返して、先程までと違って明らかに足早に歩きこの場を去ろうとする。
それに気付いたロイクは、嫌な気がして早足で彼女を追いかける。
すると、シャーリィもスカートを持って走りやすく裾を上げるとダッシュで逃げ始め、明らかにロイクから逃げている事がわかる。
「おいー!! どうして、俺を見て逃げるんだ!!?」
ロイクがダッシュで追いかけながら、彼女に問いかけると白ロリ様は
「だって、フラン様が飢えたアナタに近寄ったら、セクハラされるとおっしゃっていましたから~!」
「あの性悪黒ゴス姫、何とんでもないこと言いふらしてるんだ!? 違うから! そんなことしないから!!」
ロイクはよせばいいのに、誤解を解こうと更に追いかける。
艦の廊下を必死に逃げる可憐な少女と、それを追いかけるサングラス男―
事情の知らない者が見えれば、どうなるかは火を見るより明らかである。
「確保だ!」
艦内の平和を守る警務科に、御用(捕縛)されてしまうロイクであった…
※後で無事に誤解は解けました。
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