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第4章 第一次対大同盟戦
ベシンゲンの戦い 03
しおりを挟むウィルの艦隊は大きく迂回する為に、レズェエフ艦隊と同じく巡洋艦と駆逐艦でのみ構成されており、残った戦艦がヨハンセン本隊であり、レズェエフ艦隊と同様に戦闘能力はあまり高くはない。
そのため、攻撃力の低いウィル艦隊にとって鶴翼陣は諸刃の剣であり、敵を削り切る前に中央突破を許すことになるが、今回は敢えて中央を薄くしている。
その理由は、レズェエフ艦隊に中央突破を促すためである。
「全艦、前方の艦隊中央に突撃せよ!!」
前後からの挟撃を受けたレズェエフ少将は、全艦にその薄い中央部に突撃命令を下す。
罠の可能性も高いが、上や下に逃げて通り抜けても、ウィル艦隊が艦首をそちらに向けて砲撃すれば、レズェエフ艦隊は砲塔の仰角の問題で一方的に攻撃を受けてしまう。
中央に突撃した場合、中央突破によって左右に寸断された敵は、同士討ちを恐れて攻撃を緩めねばならず、それに加え前の艦が邪魔で後ろの艦は攻撃できないなどの事態に陥る可能性が高い。
中央が薄いのが罠にも見えるが、中央の艦を減らしてその分相手との接敵の早い両翼に艦を回して、その攻撃力を上げるためと推考すれば納得はできる。
レズェエフはこの場から逃れるため、中央突破に命運を掛け、ウィル艦隊の中央に突撃を開始する。
「敵の攻撃をまともに受ける必要はない。予定通り中央の艦を中心に左右に分かれて、敵艦隊の攻撃を受け流せ」
レズェエフ艦隊が中央に到達する前に、ウィル艦隊は中央から左右に分かれ、鶴翼の∨の時から、左右に分かれた縦陣となると各艦は正面から90度回頭して内側を向く。
そして、左右に別れた艦隊は、突入してくるレズェエフ艦隊に攻撃しながら後退を行い、お互い充分な距離を取ると同士討ちしないように抑えていたビームの威力を戻して、その攻撃力を遺憾なく発揮して、中央突破を図る敵艦隊にその代償を払わせる。
「やはり、罠であったか!!」
突入と同時に見事に陣形変更を完了された為に、レズェエフには突入するしか選択肢は無く、彼の艦隊に出来ることは回転砲塔を敵に向けて必死に反撃して、少しでも生存率を上げる事と祈ることだけであった。
事前にヨハンセンから指示を受けていたとはいえ、これほど見事に陣形変更をおこなって見せたのは、ウィルの冷静且つ優秀な艦隊司令官としての手腕があってのことであろう。
左右からの激しい攻撃とロイク艦隊による後方からの攻撃によって、レズェエフ艦隊は瞬く間に数を減らしていき、突破を終えたときには約1000隻近くまで撃ち減らされており、そのうち無傷の艦は半分にも満たなかった。
しかも、レズェエフ艦隊はあくまでウィル艦隊の中を抜けただけで、ロイク艦隊からは逃げ切れていない。
ロイク艦隊は縦3、横3の縦陣で追撃しており、攻撃で物資を消費した先頭の艦は、天頂天底方向にそれぞれスライドして後方に下がり補給を受けるという、まるでロケット鉛筆のような艦隊運動をおこなって継戦能力を持続させていた。
「敵との距離は、どれくらいだ?」
「19万キロといったところです」
「そうか、ならあと10回といったところか…」
だが、ローテーションを繰り返しているロイク艦隊は、逃げに徹しているレズェエフ艦隊に少しずつ距離を空けられており、15万キロまで近づいていた両艦隊の距離は19万キロまで開いてしまっていた。
ウィル艦隊も抜けられてすぐに90度回頭して、ロイク艦隊の左右をその高速を活かして追走して一緒に攻撃をしているため、レズェエフ艦隊の後方に位置する艦を撃破しているが、遂に両艦隊は20万キロまで引き離されてしまう。
「ここまでだな。全艦微速前進、補給を行いつつ総司令官の艦隊が追いつくのを待つ。あと、兵士達に交代で休息を与えよ。バスティーヌ少将にもそう伝えろ」
ロイクは、追撃中止命令を下すと艦の補給と兵士達には交代で休憩を取らせ、ゲンズブール准将に次のような指示を出すと自身も次の戦いに備えて休憩に入る。
「あと偵察艦を先行させて、索敵させよ。おそらく敵の本隊が迫ってきているはずだからな」
彼の予測通り、プリャエフ大将率いる5000隻が、こちらを目指して行軍中であった。
ロイク達が補給を行っていた頃、プリャエフ艦隊は敗走してくる約700隻まで撃ち減らされたレズェエフ艦隊と合流していた。
「貴様は何をしていたのだ!!」
預けた5000隻を約700隻まで損害をだして、おめおめと敗走してきたのだから、プリャエフが激怒して、モニター越しにレズェエフを叱責したのも無理はない。
そして、この損失による失態はレズェエフに指揮を任せたプリャエフにも負わされることになり、彼は自らの地位を守るために何かしらの成果をあげて、<名誉挽回>しなければならない。
例えば、<会戦で勝利を得る>など…
そこに、先行する偵察艦より報告が入る。
「前方40万キロ先に、敵艦隊発見。数はおよそ6000隻!」
それは、彼にとって悪魔の誘惑のような内容であった。
報告を受けたプリャエフ大将は、次のように推察する。
6000隻という事は、レズェエフの報告にあった巡洋艦と駆逐艦の構成された艦隊だけであり、戦艦がまだ合流していないということである。
恐らくレズェエフ艦隊追撃に夢中になって、戦艦部隊との距離が空きすぎて合流できていないのであろう。
高速戦艦が1000隻ほどいるらしいが、純粋な戦艦に比べれば火力防御力に劣る。
それが意味するところは、すなわち今度は自分達が逆に戦艦の火力で、敵艦隊を蹂躙できるということであり、敵の戦艦部隊が合流する前に撤退すれば被害をあまり出さずに、彼が欲している<名誉挽回>が出来るということである。
「閣下、どういたしますか?」
「全艦最大船速で前進! 敵が戦艦部隊と合流する前に、一戦して損害を与える!」
参謀のコリヤダ少将の行動方針を問われたプリャエフ大将は、このように即答するとレズェエフには惑星バルトドルフまで戻って艦を修理するように命じて、全艦に最大船速で前進するように命令を下す。
こうして、それぞれの思惑を胸に、ベシンゲンの戦い後半戦が行われることになる。
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