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第4章 第一次対大同盟戦

第二次ロマリア戦役 02

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 リュスの後に、今度はルイが作戦への疑問を発言する。

「ドナウリア艦隊がミナノではなく、ロマリアに南下した時はどうしますか?」

「それはないと考えている。先程入った情報では、ゲルマニア諸国連合艦隊8000隻が南下しているそうだ。艦隊規模から目的はロマリアであると思われる。その艦隊にロマリアと戦わせ、ドナウリアは我が領土に攻めてくると私は推察している」

 先の戦いで消耗したロマリア艦隊はまだ8000隻までしか回復しておらず、ゲルマニア諸国連合艦隊が迫ってくれば、ガリアルム艦隊の援護はできないであろう。

 よって、フランは先程の作戦の説明にロマリア艦隊を戦力として計算して語っていない。

 ドナウリアが、諸国連合と一緒にロマリア艦隊を叩くという可能性も考えられるが、その可能性は低いと考えられる。

 その理由は、そうなればロマリア艦隊は撤退して、領土深くまで両艦隊を誘い込み、前回と同じ様にその間にガリアルム艦隊が、後方を遮断するのは明白であり、結果も同じことになるであろう事は容易に想像がつき、そのような愚は元帥号を持つ指揮官が犯すはずがない。

「以上のような理由から、私はドナウリア艦隊がトリーノまで侵攻する確率は高いと推測している」

 そうなると、自ずと別の問題が浮上する。

「では、補給はどうしますか? ミナノに出れば敵の補給路を遮断できますが、逆を言えば我が艦隊も本国とトリーノからの補給路が途切れることになります」

 作戦の当初から、補給路が伸びるために、補給の一部はロマリアから受ける手はずになっており、ルイや諸提督は危険なシンプロン航路を通ってくる補給部隊では、補給が滞る為にそのロマリアの補給を当てにしていた。


 だが、ロマリアが敵艦隊と交戦するなら、補給を彼の国に頼ることは難しいと考えその疑問をぶつける。

「ロマリアからの全ての航路が、封鎖されるわけではないし、我が軍が敗れれば次は自分達であることは、ガルビアーティ大将なら十分理解しているはずだから、何としても補給をしてくれるであろう」

 フランは更に諸提督に説明を続ける。

「それと北ロマリアに展開している我が軍の補給艦は、マントバ守備艦隊の半分で護衛させながら、ロマリア領に退避させるつもりだ」

 それ以上反対意見が出なかったため、フランによる作戦決定が伝えられ、各提督は解散して自分の乗艦に戻っていく。

 フランは会議室に残ったクレールに、暗号通信でマントバ要塞とトリーノにはこれからの作戦行動をスイッス連邦には軍事通行の報告をロマリアには補給の要請を送るよう指示する。

 クレールが指示を実行するために会議室から出ていくと、フランは最後に残ったルイに少し不安そうな顔で質問してくる。

「この作戦、上手くいくと思うか?」

 提督たちの前では毅然とした態度で作戦決行を推し進めたが、例え天才的な頭脳で計算した作戦であっても、まだ19歳という若い彼女にはそれを裏打ち出来るほどの経験がなく不安は残る。

 だが、総司令官が不安そうな態度をとれば部下まで不安になるために、フランはルイにだけ不安な表情を見せる。

 そして、彼もそれを察してこう答えることにした。

「このまま正面決戦を行うよりは、敵の背後を突くというのはいい作戦だと思います」
(そこからの対処を誤らなければ、だが…)

 ルイはその懸念を口にしなかった、不安で自分に相談しているフランを迷わせると思ったからである。

(それにフラン様なら、そのようなミスはしないだろう)

 ルイは、フランを不安にさせたくないという気持ちと彼女の才能を妄信するあまり、この作戦のあらゆる状況への討論を先送りにしてしまう。

「そうか」

 ルイから肯定的な返事を聞いたフランは、今回の作戦に自信を持ち、迷いを振り払う事ができた。

 その頃ドナウリアでは―

 ドナウリア最高の知将、ミハエル・フォン・ライヒ=テシェル(ミハエル大公)の艦隊が、この2年間で新造された艦隊に北方方面艦隊の任務を引き継がせ、ライン方面に出撃するべく首都星ヴィーンに駐留していた。

 ミハイル大公は、兄である皇帝フリッツ2世に出撃の挨拶を済ませると、直ちに首都星のあるヴェアン星系からライン方面に進軍を開始するが、彼の艦隊が星系外縁部に差し掛かった時、首都星から緊急通信が入る。

「閣下、首都星より緊急通信です! オットマン帝国が、ガリアルムと単独講和を結び停戦したとのことです」

「何!?」

 これは開戦前に派遣されていたヴァランタンの外交手腕によるものであり、オットマン帝国の停戦は、すなわちドナウリアと彼の国との国境付近の脅威が復活するという事であり、現状戦力で回せるのはミハイル大公の艦隊だけである。

 そのため軍本部は、彼の艦隊のライン方面進軍を急遽中止して、国境防衛の任務を与えることにしたのであった。

「どういたしますか?」

 副官の問いに、ミハイル大公は当たり前のようにこう返す。
「どうもこうも、こうなっては命令通り国境に向かうしかないだろう」

(まあ、おそらくオットマンは攻めてこないだろうが…)

 彼の予測通り、オットマンが攻めてくるなら、ガリアルムとの戦いで疲弊した後であろう。

(やるな… あの白いお嬢さん。オットマンが遠いガリアルムより、隣国の我が国に脅威を感じていることを見抜いて、『自分達の次は貴国だぞ』とでも言って、交渉したのであろう)

 ミハイル大公は、フラン達の交渉内容を看破した後に一人こう呟いた。

「前回の宣戦布告タイミングといい、食えないお嬢さんだ…」

 こうして、フランは結果的にドナウリア最高の知将を、今回の戦いから排除することに成功する。




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