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第3章 北ロマリア戦役

北ロマリア戦役終結 04

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『カンポ・フォルミドの和約』締結によって、ガリアルムには平和が訪れていたが、先を見る目のある者にはこの平和が長く続かないことは解っており、フランもその一人である。

 そのため彼女は、束の間の平和を謳歌することもなく、内政と軍備増強に力を注いでいた。

「その昔、『条約が守られるのは、武力と国益が調和している間だけだ』と言った者がいたが私も同感だ。力のない相手との約束を守る律儀な国家が少ない事は、歴史が証明しているからな」

 フランはルイと親友のメアリーとの夕食の席で、今週5回目のシチューを振る舞いながらそう語る。

「そして、ドナウリアも戦力補充と周辺国との同盟か不戦条約が決まれば、迷わず攻めてくるであろう。それに対抗するには、こちらもそれ相応の武力を持たなければならず、今の我が国にはその為の充分な武力があるとは言えない」

「では、フラン様はどれぐらいまで戦力を増強するつもりですか?」
 ルイの形式的な質問に、フランはこう答える。

「そうだな…。最低でも2万隻は揃えないと話にならないだろうな」

 その数はあくまで最低数であり、ドナウリアが同盟国と攻めてくれば、余裕を持って迎撃する為には3万隻は必要となってくるであろう。

「また、戦争になるんですね…」

 メアリーが暗い表情でそう意見を述べると3人の間に少し沈黙が続く。

 フランの沈黙の理由は、その戦争を結果的とはいえ引き起こすきっかけを自分が作った事で、ルイはそれが解っていながら、黙って従っていた事への後ろめたさで、メアリーの理由は友達である二人が危険な戦場に行くのが心配だからである。

 ルイはその沈黙と空気を変えるために、このようなことを話し始める。

「まあ、前回と同様にこちらが優位に戦うための準備を、フラン様が整えてくださるから油断さえしなければ問題はないよ」

「それもそうですね」

 ルイのメアリーの心配を払拭するための言葉を聞いた彼女と彼が、その本人を見るとフランは水を一口飲んでからこう答える。

「ああ、準備を怠るような真似はしない。数千万将兵の命が掛かっているからな」

 フランが自信に満ちた顔でこう答えると、メアリーは安堵の表情でシチューをその小さな口に再び運び始める。

 そして、メアリーの視線が自分から逸れた事を確認したフランは、”ルイ…、私の目の前で、何を他の女と楽しそうに話をしているんだ?”というような、瞳孔の開いたヤンデレ目でルイを見つめ(威嚇し)てくる。

 そもそも、大好きなルイと親友であるメアリーと一緒に食事したいという理由で、フラン自身が開いたこの欲張り食事会なのに、そのような態度をしてくる目の前のヤンデレお姫様の目に怯えながら、ルイは心の中でこう思っていた。

(理不尽すぎる…)

 メアリーの手前、ああは言ったフランだが前にも言ったとおり、前回の戦いでガリアルムが完勝できたのは敵の不備を突いたからであり、次の戦いではあのような楽な戦いはできないであろうと考えている。

(軍備増強の準備はあらかた済んだ。あとは、時間がどれだけ味方をしてくれるかだな…)

 フランはそう考えながら、残りのシチューを口にする、自分の前で他の女と話をしていたルイを見つめながら…

 その頃、ドナウリア帝国では―
 今回の屈辱的な講和条約の責任は、政権と軍上層部にあると国民が糾弾し始め人事の刷新を訴えていた。

 そのために皇帝フリッツ2世は自分の権力が瓦解しないように、国民の意を受けて現政権と軍上層部の担当者達を罷免して、新たな者達を就けることにした。

 しかし、高官の中で一族の者達は切ることは出来ず、残留させることになり完全なる刷新とはいかなかったが、この人事刷新によって一人の男が、外交官に抜擢される事になる。

 その男の名はクラウス・メーリヒ、その卓越した外交手腕によって、後に帝国の宰相にまで上り詰める人物である。

 新たな政権では、早速今回割譲した領土奪還の為の計画が話し合われ、前政権よりややマシになった新政権の立てた作戦計画は、自国だけではガリアルムと戦うのは難しいので、周辺国と同盟を結び共同で攻めるというフランの予測したものである。

 そのためには少なくとも、国境を接している【プルーセン王国】【オソロシーヤ帝国】【オットマン帝国】とは、何としても同盟を結んで戦力をガリアルムに向ける事が理想であるが、今迄何度も国境争いをしてきた相手だけに難航するであろうと考えられる。

 そして、その同盟交渉を任されたのがクラウス・メーリヒであった。

「お任せください、陛下。必ずや、各国との同盟を締結してみせます」

 彼は御前会議で、皇帝に同盟締結成功を公約すると皇帝と帝国の期待を背負って、特使として使節団を伴って外遊の旅に出かける事になる。

 メーリヒは宇宙船の窓から、自分がこれから国家間の移動で長い時間を過ごすことになる星の海を見ながらこう考えていた。

(あの白いお姫様は勝ちすぎた。今回のやつらの見事な勝利は、周辺国に潜在的な恐怖を与えたであろう。そこを刺激し増幅させれば、きっと各国はこの同盟に乗ってくる。やつらは自分達で自分達の首を締めたのだ)

 彼の予想通り、各国との同盟締結は成功することになる。

 その頃、その白いお姫様はというと―

 ルイを返した後に、シャーリィを呼んで『お泊り女子会』をおこなっていた。

「なあ、メアリー、シャーリィ。好きな人の名前を言い合おう。お泊り会では定番なのだろう?」

「あっ、結構です。好きな人はいませんから(だって、私はフラン様が好きな人解っていますから)」

「私も、結構ですわ。まだ、その様な殿方はいませんから(だって、私はフラン様が好きな人存じ上げていますから)」

 まだ年頃の二人は、自分達にしかリスクの無いこの遊びを拒否する。

「では、何をするのだ? 私は『お泊り女子会』なるものを満喫したいのだ! そうだ、枕投げでもするか!」

 フランが嬉々として、枕を持って立ち上がるとシャーリィが冷静な顔でこう言ってくる。

「そんな子供じみた事をするのは、どうか― っ!?」

 そう言いかけたシャーリィの顔面に、フランの投げた枕が命中するお約束的な展開が起きる。

「いくら、フラン様でも嫁入り前の女の子の顔に枕をぶつけるなど、許されませんわよ!」
 顔面に枕を当てられたシャーリィは、そう言って怒りに任せて枕を投げる。

「あぅ!」

 ―が、フランが回避して、その様子をあわあわして見ていたメアリーに命中する。

 こうして、このあと3人で無茶苦茶枕投げした。
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