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第3章 北ロマリア戦役

北ロマリア戦役終結 03

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 マントバ要塞から約6週間をかけて、首都星パリスに戻ってきたフランは、凱旋パレードをすることもなく王宮に帰ってきていた。

 凱旋パレードは、予算の都合上ヨハンセン達が帰還した時に一緒に執り行う事にして、彼女は自分が留守にしていた間に滞っていた政務を処理することを急いだ。

 フランは、そのチートな才能で次々と政務を完璧に処理して過ごしながら、ドナウリアとの講和も進めており、彼女はまずロマリア王との会談の場を設けるが、両者とも戦後処理で忙しく超光速通信で行われた。

 会談はガルビアーティ大将と決めた内容を確認するだけのものとなり、一時間も掛からずに終了する。

 こうして、フランはドナウリアとの講和条約を行うために、彼の国に派遣する外務大臣を執務室に呼び出していた。

「貴公を呼び出したのは、他でもない。ドナウリアとの講和条約を締結するために、貴公には使節団を率いてドナウリアに行ってもらう」

「はっ、お任せください」

 そう返事をしたパトリス・ヴァランタンは53歳で、その老練な外交手腕には前政権時から、定評がありフランの新政権でも続けて外務大臣を務めている。

「貴公には『魚に泳ぎを教えるな』となるが、敢えて言っておく。今回の講和条約締結にはあまり時間を掛ける訳にはいかない」

「解っております。締結を引き伸ばされれば、その間に敵に戦力を整える時間を与えることになり、講和の条件を飲まないどころか戦闘続行となる可能性がありますからな。そうさせないためにも、迅速に講和条約を飲ませて見せます。ですが、そのためには― 」

 彼が講和を円滑に進めるための要求を出す前に、フランは全てを理解しておりこう答える。
「ヨハンセンには、圧力をかけるためにいつでも出撃できるように命じてある。無論、私の艦隊とサルデニアに駐留中のレステンクール(リュス)少将の艦隊にもな」

 その答えを聞いたヴァランタンは、改めて目の前にいる若い指導者の才能を認識して、心配が1つ減り安堵の表情でこう述べる。

「さすがは殿下…。私こそ『魚に泳ぎを教えるな』でしたな…。では、私はこれより使節団を率いて、ドナウリアに向かいます」

「よろしく頼む」
 ヴァランタンは目の前で椅子に座るフランに一礼すると、彼女の執務室を後にする。

 こうしてヴァランタンは、講和条約締結の為に使節団を率いて、ドナウリアに向けて出発した。

 講和条約会議は、北ロマリアの東にあるフリウーリ星系カンポ・フォルミドで、各代表使節団によって話し合われることになる。

 ヴァランタンはその老練で巧みな外交術と老獪な交渉術、自国の武力をちらつかせて、約2週間でフランの要求通りの講和条件をドナウリアに飲ませ見事『カンポ・フォルミドの和約』を締結することに成功する。

 こうして、ドナウリアは北ロマリアの西をガリアルム、東をロマリアに割譲することになり、旧サルデニア領に新たに建国される衛星国『ピエノンテ公国』を承認するという屈辱的な結果を受ける事になった。

 だが、この条約はあくまで休戦条約のようなものであり、時が来ればいずれ戦争になると三国の為政者達は認識していた。

 衛星国の王位にフランは叔父に要請したが、シャーリィの予測通り彼に辞退されてしまう。

 そこで、フランは『公国』にすることにして、ガリアルムの五指に入る大貴族であるレステンクール家の現当主で、リュスの父親であるジョゼフ・レステンクール公爵を任じることにした。

 本来なら五公爵家筆頭であるエティエヴァン家が務めるところであるが、かの家は約1年前の反乱によって、当主は戦死しており家はその罪で断絶している。

 そこで、白羽の矢が立ったのが次席のレステンクール家で、現当主のジョゼフは温厚で誠実な人柄で領民から慕われており、統治者として問題がなかった為に選定されたと公式文書には記されている。


 だが、フランはその前に実は1人の人物に王になるように要請していた。

 時はヴァランタンを呼び出した5日前―
 フランはロドリーグ公爵を執務室に呼び出していた。

「約5年ぶりだな、ロドリーグ公爵」
「お久しぶりでございます、フランソワーズ殿下」

 フランとロドリーグ公爵が最後に会ったのは約5年前、そうルイが父親から士官学校に入るように暗に告げられた日の数日前である。

 もうおわかりだと思うが、ルイが士官学校に入る事になったのはヤンデレ黒ゴスロリ姫の策である。

 その目的は、ルイを軍人にして功績をたてさせ元帥の地位を得させて、自分に相応しい身分にしてから結婚するためであり、そのために彼の父親である公爵と密かに会って、ルイを士官学校に入れるように仕向けさせたのである。

 だが、彼女の計画はルイの士官学校での成績が落ちた事により頓挫しかかるが、彼女はそれなら自分が軍人となって大活躍して、誰も自分の結婚相手に文句を言えないようにする計画に変更する。

 そのために、本来ならルイが指揮をするはずであった内乱討伐と、その後に続く戦いの指揮を自分がする事になったが、本人はそれで良かったと思っている。

 自ら戦場でその身を危険に晒して、兵士達と共に戦う―

 それは初代から王家に受け継がれてきた家訓『ノブレス・オブリージュ(高貴さは義務を強制する)』に、相応しい行動だからである。

 そして、この『ノブレス・オブリージュ(高貴さは義務を強制する)』は、王家だけの訓ではなく、貴族達にも受け継がれてきた教えでもある。

 こうして、ガリアルム王家は『ノブレス・オブリージュ』を実行することで、民の信頼を保ち長年に渡る王政を維持することができた。

 フランは、ロドリーグ公爵にルイを士官学校に入るように仕向けた事への礼として、『ピエノンテ公国』の王位を与えようとしたが、彼からはこのような理由で辞退される。

「殿下には息子ルイを代将にまで引き立てていただき、更に今回中将に昇進させて頂くとのこと。それに加えて今度は私が国王となれば、世間はロドリーグ家への贔屓だと不満の声を上げるでしょう」

 その意見にフランは、すぐさまこのように反論する。

「ルイはマントバ要塞を味方の被害を最小限に抑え、要塞砲を無傷のままで攻略した。更にその後の戦いで、見事な指揮を見せて勝利に貢献し中将に相応しい働きをした。何も恥じることはない」

 確かに彼女の言う通り今回の戦いのルイの功績は大きいが、中将昇進までかというと正直な所贔屓が入ってはいると言わざるを得ない。

 例えフランがそう考えていても、世間が納得しなければフランへの不信感を募らせることになる。

 彼女の新政権が国民に支持されている理由の一つは、権力者のコネや世襲などを排除する公平性を打ち出しているからであり、功績を上げたルイはともかくロドリーグ公爵まで王位につければ、世間からは公平さを欠いた贔屓の人事だと疑われるであろう。

 そうなれば、せっかく国を立て直そうと善政を行っていても、不信感を抱いた国民はそれを受け入れないかも知れず、国家改造に遅れを生み出すかも知れない。

 ロドリーグ公爵はそこを懸念して、王位を辞退したのであった。








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