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第3章 北ロマリア戦役

新たなる戦いへ 01

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 ルイは降伏勧告受諾の通信を受けるために、モニター越しに敵将と会話をするために、艦橋の正面モニターに通信を繋げさせる。

 サムデレリ准将は、モニター越しの若い指揮官を見て一瞬驚いた表情をするが、すぐさま敬礼すると、礼節にのっとり降伏勧告の受諾する旨を伝える。

「小官は要塞司令部参謀のサムデレリ准将です。我々は直ちに戦闘を停止し、貴軍からの降伏勧告を受諾する」

 ルイは相手が司令官でない理由を瞬時に察して、その事には触れず答礼した後に、礼節にのっとり降伏勧告受諾の受け入れる返答を行う。

「私はガリアルム艦隊司令官ルイ・ロドリーグです。降伏勧告受諾を受け入れます。では、そちらの武装の放棄を確認しだい、我軍に攻撃中止命令を出します」

「了解した」

 そして、ルイとサムデレリ准将はお互い敬礼した後に、通信を終了させる。

 そして、通信を終えたサムデレリ准将が吐息を漏らした時、部下から司令官の自室から銃声がしたとの報告を受ける。

 その報告を受けた彼は少しだけ黙祷すると職務を遂行する。

 何故なら今の彼には、上官の死をゆっくりと悼む暇は無くすぐさま降伏勧告の受諾と停戦命令、武装の放棄を要塞内にいる兵士達に伝えなければならないからである。

 こうして、要塞内の戦闘が開始されて約5時間、要塞占拠戦はガリアルム軍の勝利で幕を閉じることができた。

「総司令部に連絡してください。我、敵要塞攻略に成功せり、と…」

 ルイは通信オペレーターに、そう指示を出すと参謀のシャルトー大佐に疲れた表情でこう話しかける。

「大佐、申し訳ないですが、後を任せてもいいですか? 少し疲れてしまったので、一休みしたいのですが…」

「了解しました。後は、事前に打ち合わせた計画通り、小官が処理しておきます。なので、ごゆっくりお休みください」

 シャルトー大佐は、この若すぎる上官が今回の作戦の重圧に必死に耐えて、任務を遂行しているのを知っていたので、作戦が成功した事で緊張の糸が切れて、疲れが一気に襲ったのであろうと考え、休ませる事にしたのであった。

「ありがとうございます。では、何かあったら、呼び出してください」
 ルイは敬礼すると、信頼するシャルトー大佐に後を任せて、自室で休むことにする。

(まあ、休めるとは限らないが…)

 彼はベッドに寝転んだが、自身の予想通り自分の作戦で多くの人間が死んだ事が、頭をぐるぐる回り、中々寝付けずにいた。

 こうして、勝者は少しの眠りにつき、敗者は永遠の眠りについた。
 だが、次に戦いでは、自分が永遠の眠りにつくことになるかも知れない。

 そして、ルイがようやく睡眠についた時、彼の携帯端末の着信音が鳴り、彼を微睡みから呼び戻す。

 着信音は『Jeg elsker Dig』、この世界のグリーグにあたる人物が作った曲で、和訳で「君を愛す」という題名である。

 曲のタイトルからも解る通り、着信相手はフランである。

 もちろん、これはルイが設定したものではなくフランが設定したもので、着信画面は言うまでもなく彼女の自撮り写メである。

 因みに、待受も彼女の自撮り写メ別verである。
 更に記述すると、彼のアドレスからは、フランとメアリー、クレール以外の女性の番号は消去されている。

 ルイが携帯端末を通話にすると、着信画面の自撮り写メが本人の映像に切り替わるが、フランは横を向いて、久しぶりに彼に会う前に鏡でもう一度自分の前髪を整えていた。

 そして、通話状態になった事に気付くと、彼女は嬉しそうな顔と声で会話を始める。

「ルイ、よくやった! 要塞攻略成功もそうだが、何より生きていることがだ!」
「フラン様、ありがとうございます」

 彼がそう答えると、彼女はさっそく本題に入る。

「話したいことは山のようにあるが、それはオマエが帰ってきた時にしよう。今、そちらに艦艇50隻を向かわせている。明日には、到着するであろう。その艦隊と陸戦部隊にマントバ要塞の後処理を任せて、オマエの艦隊は至急惑星ボローナに帰還せよ」

「ロマリア侵攻部隊が、北上してきているのですか?」

「そうだ。オマエがラーマ・ディレノを進発した8日前に、ロマリア王国から侵攻部隊が撤退を開始したと超光速通信が入った。コンピュータの計算によると、奴らは今惑星ロマーノから北東にあるウンブリイ星系惑星ペルージア付近にいると出た。私もそう推測している」

 更にコンピュータの計算によると、エミニア=ロマーニ星系南東外縁部にある惑星チェセーナに到達するのは約7~8日後となっている。

「奴らが惑星チェセーナに到着する前に、ボローナに到着せよ」
「了解しました」

「では、一週間後にボローナで会おう」
「はっ」

 ルイは返事と共に携帯端末に向かって敬礼する。
 すると、フランは答礼して通信を切ろうとするが、彼女は中々通信を切らない。

 ルイは通信をこちらから切るわけにもいかないので、敬礼したままフランが通信を切るのを待っているが、彼女はかれこれ5分程通信を切るボタンに指を伸ばしたまま、ルイとボタンを交互に見ている。

 その顔は名残惜しそうな表情をしていたが、次第にルイを見る時間のほうが長くなり、そして、表情も”もう、スイッチ切らなくてもいいか”というふうに変わってくる。

 ルイは敬礼をやめて良いのかわからないので、画面に向かって続けているが正直腕が辛くなってきていた。

「いつまで、通話を切らずにいるのですか。名残惜しくて切れないのなら、僭越ながら小官が切ってあげます」

 そう言いながら、画面左からクレールが現れるとフランを体で画面右に押しのけて画面に現れる。

「それでは、ロドリーク提督。期限までの到着をお願いします。では、失礼します」
「なっ!? 勝手なことをするな! この鉄仮― 」

 そう言いながら、クレールがルイに右手で敬礼すると空いている左手で、通話終了ボタンを押して通信が切られる。

 ルイは5分近く敬礼してだるくなった右腕を軽く回しながら、先程のフランとの会話をこのように考察していた。

「いつもなら、もう少しフランクな感じで会話してくるのに、やけに他人行儀で事務的かつ端的な会話だったのは、すぐ側にクレールさんがいたからか」

 ルイは通信中のフランに違和感を覚えながら、彼女と会話していたが最後にクレールが現れた事で合点がいき、彼はそのようなことを考えている内に、いつの間に睡魔に襲われ眠る事ができた。




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