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第3章 北ロマリア戦役
マントバ要塞攻略戦 05
しおりを挟むルイの要塞攻略が開始されたその頃、要塞内では―
「隕石を盾にして、要塞主砲を防ぎつつ我が要塞に接近するつもりというのは儂にも解る。だが、報告では艦隊の前にある隕石の直径は手前が約5km、後方が約6kmだということだ。あの程度の隕石では、要塞砲を防ぐことはできないぞ」
偵察艦から最後の報告を受けたマントバ要塞防衛司令官ラトケ中将は、自分の考えを述べた後に、参謀のサムデレリ准将に意見を求める。
「敵はこちらの要塞砲の正確な情報を得ておらず、甘く見積もっているのかもしれません。もしくは、敵の目的は連続的な隕石攻撃による飽和攻撃なのかもしれません」
「すると、貴官は敵には隕石はまだあると?」
「あくまで、可能性の一つですが…」
参謀がそう答えた後に、オペレーターが慌てた感じで報告を行う。
「レーダーに敵艦隊後方より、高速で接近してくる物体を補足、数は2。約13分後に要塞に衝突します!」
「何!?」
その隕石二つは、速度を出すために艦隊の遥か後方に配置していたもので、二つはスラスターで加速を続けながら、ルイの艦隊の上下を通りに抜けた時には、速度は最高速に達しており、約30万キロを約10分で到達する超高速で要塞砲目掛けて飛んでいく。
「流石に速いですね…」
「戦闘艦の最大船速より、更に速い速度で飛んでいますから」
ルイがモニター越しに、自艦隊の側を通り抜けていった隕石を見て、感想を述べると参謀のシャルトー大佐がそう述べた。
宇宙船も広大な宇宙を航行するために、かなりの船速を出すように製造されている。
だが、あくまで人が乗っているために、必然的に船速は加速のGや急停止時の慣性を現在の慣性制御装置で打ち消すことができる速度になる。
だが、隕石にはそのような配慮は必要ないために、超高速で航行させることができる。
「隕石、要塞主砲射程距離に入りました! どちらを狙いますか!?」
「どちらでも構わん! 要塞主砲、撃てぇーーーー!」
ラトケ中将がどちらでも構わないと言ったのは、要塞砲は強力ではあるが、充填に約15分の時間を要するために、10分で着弾するもう一つの隕石に次射が間に合わないからである。
要塞防衛司令官の発射命令の後に、オペレーターが要塞砲を上の軌道で飛んでくる隕石に向けて発射させる。
要塞砲から発射された高出力ビームは、直径3キロの光の柱となって隕石目掛けて、高速よりやや遅い速さで進んで行き、直径約5kmの隕石の中央部に着弾して、その高温で表面を溶かしていく。
やがて、隕石は中央から溶かされて、形を保てなくなり爆散する。
その光景をモニター越しで見ていたルイは、士気に関わるので誰にも聞かれないように小さな声でこう呟いた。
「凄い威力だな…」
だが、もう一つの隕石は、要塞目掛けて航行を続けている。
ラトケ中将は、残りの備え付けの迎撃兵器群に射程圏内に入り次第、攻撃を行うように命令を出すが、通常兵器では直径約5kmの隕石にそれなりのダメージを与えることしかできず、破壊することは出来なかった。
「隕石の直撃来ます!!」
オペレーターが、そう叫んだのと同時に隕石は、ルイの艦隊のいる要塞の南側に衝突する。
だが、要塞に張られていたエネルギーシールドによって、大きな被害は出ていない。
「ENシールドによって隕石衝突は防がれましたが、南側のシールドはENを消耗して、しばらくは使えません。あと砕けた隕石破片によって、迎撃兵装の一部が損傷を受けて使用できません!」
「では、直ちにENを充填しなおせ!」
「閣下。それでは、要塞主砲のEN充填の時間が伸びてしまいますが、よろしいですか?」
熱くなって要塞砲のEN充填を忘れていた司令官に、参謀のサムデレリ准将は指摘する。
「くっ…。上層部の奴らが、再三の新型動力炉への換装を無視しなければ…!」
要塞の動力炉換装には莫大な費用がかかり、それは上層部の懐に入れる金が減ることを意味する。
次の世代がするだろうという歴代の軍高官達の楽観的思考によって、マントバ要塞の動力炉とEN貯蓄装置などの設備は後回しにされ80年以上換装されていない。
それでも、駐留艦隊と連携が取ることができれば、充分な戦果があげることができるのだが、その駐留艦隊もその上層部によって今はこの要塞にはいないのは、この要塞にいる者達にとっては悲劇としか言いようがない。
「ENシールドの再展開は無いようですな」
「諜報部の情報は、正しかったようですね」
ルイとシャルトーは、光学望遠の観察からENシールドが展開されない報告を受け取ると、そう意見を言い合うが、続けてルイは思わずこのような事を言ってしまう。
「ですが、この事は他人事ではありません。我が国の要塞の多くも同じ原因で同様の事になっています。今、フラ― 大元帥閣下が、予算の許す範囲で重要な要塞から改修を進めていますが…」
「……」
ルイは”敵が攻めてくる前に間に合うかどうか”とは、他の兵士達の手前なので敢えて言わなかった。
シャルトー大佐もそれは、わかっていたのでそれ以上話を続けなかった。
「では、続けて第二波攻撃開始!」
ルイの命令と共に、艦隊の天頂方向に配置していた隕石のスラスターが点火され、要塞に向かって突進を開始する。
直径約5kmの隕石は30万キロを約15分で進む速さで、斜め上の軌道から要塞砲目掛けて航行していく。
要塞の手前約三万キロの地点で、要塞砲の充填が完了して、隕石は要塞砲によって破壊されてしまう。
だが、その破壊された隕石は氷で出来ており、破壊される時にビームの高温で蒸発して、大量の水蒸気や水を生み出していた。
ルイの艦隊は三個目の隕石が破壊されたと同時に、手前に配置した二つの隕石と共に前進を開始する。
ルイの艦隊は最大船速で前進しているが、要塞砲の死角に辿り着くのに約20分かかり、充填を完了した要塞砲の攻撃を15分進んだ地点で受けることになる。
そのためルイは、少しでも要塞砲の威力を減衰させるために、氷隕石蒸発によって射線上に水蒸気や水を展開させたのであった。
「やつらの目的は氷の隕石の蒸発によって、要塞砲の射線上に水蒸気や水を発生させる事だったのか!」
「確かにビームは水蒸気や水によって、威力が減衰します。ですが、あの程度の量なら、要塞砲の高主力ビームを減衰させるのは、微々たるものです」
「だが、奴らの艦隊の前には、盾となる隕石が二つもある。しかも、あの隕石が両方とも氷の隕石ならどうだ!?」
ラトケ中将の予想通りに、盾の二つの隕石は氷隕石である。
参謀はすぐさまオペレーターに、この状況で要塞砲が敵艦隊を撃破できるかコンピューターで計算をおこなわせる。
5分後にコンピューターの計算結果が報告される。
「コンピューターの計算では、90%で要塞砲が氷隕石二つを破壊して、その後で縦列隊形でいる敵艦隊を破壊できるとなっています」
その報告を受けて、参謀が更に意見を進言する。
「閣下も御存知の通り、ビームは発射されて進めば進むほど、少しずつ威力が減衰します。よって、万全を期すためにできるだけ目標を引きつけてから、要塞砲を撃ってはどうでしょうか?」
「そうだな、貴官の言うとおりだ! できるだけ、引きつけてから、要塞砲を発射せよ!」
参謀の意見を取り入れ、司令官ラトケ中将はそう判断を下す。
ルイの文字通り運命を懸けたマントバ要塞攻略の山場が迫ってきていた。
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