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第3章 北ロマリア戦役
ラーマ・ディレノの戦い 03
しおりを挟む戦いは最終局面を迎える。
ロイク艦隊が、その機動力で天底方向に移動するボローナ艦隊の更に下に回り込み、攻撃を開始する。
これは、船速の速い艦で構成されたロイク艦隊だからこそできる芸当であり、ロイクが態々下方向に回り込んだのは、ヨハンセン艦隊と上下で挟み撃ちするためと、反撃を受けにくいからである。
ヨハンセンはすぐさま攻撃を前方に切り替え、ロイク艦隊と上下から挟撃して、ボローナ艦隊の前方の艦隊を撃破していく。
ボローナ艦隊はビームやミサイルによって、上下から船体を引き裂かれ、残骸に姿を変えていき、その残骸は前進を続ける友軍のシールドに当たって、少なからずシールドに負荷を与えEN消耗を促し、更に犠牲者を生み出していく。
戦術モニターに映し出される敵艦隊が、上下から攻撃を受けて艦を減らしていく様子を見たクレールは、フランに報告をおこなう。
「敵艦隊は残り2000隻を切りました。このまま何も起きずに戦闘が推移すれば、あと30分とかからずに敵は殲滅するでしょう」
「では、敵艦隊数が1000隻を切ったところで、降伏を呼びかけよ」
自艦隊が秒単位で数を減らしていく光景をモニターで見ながら、指揮官アルタウスは自分が逃げの一手で活路を開くという賭けに負けたことを認めざるを得なかった。
逃げ切れないとなれば全滅は時間の問題であり、そうなると彼は指揮官として最後の判断を下さねばならない、このままドナウリア帝国軍人として、華々しく玉砕するか、それとも不名誉な降伏をするか…
「これ以上、兵士達の命を無駄にするわけにはいかない。敵に降伏する…」
彼の判断は軍人としては過ちかもしれないが、人間としては正しい判断であると思われる。
「降伏ですか?」
「そうだ、降伏だ!」
参謀のベッカーは帝国軍人として、司令官の降伏命令に反対する。
「ですが、閣下。軍上層部からの命令は、『ガリアルム艦隊を、命に変えて必ず撃破せよ』です。それを命欲しさに降伏というわけには…。ここは最後まで抵抗して、敵を一隻でも多く撃沈するのが、我らの使命ではありませんか?」
その参謀の軍人としての正論を聞いたアルタウス激昂して、このように反論する。
「そもそもこのような結果になったのは、その上層部の連中が原因ではないか! 自分達の私腹を肥やすために事費を掠め取り、そのため新型艦を揃えずに老朽艦で数を揃えたように見せかける。我が艦隊が老朽艦でなかったら、少なくともこのような一方的な戦況には陥らなかった!」
アルタウスの追跡中の判断も適正とはいい難いが、彼の言う通りそもそも艦隊が老朽艦で構成されていなければ、もう少しまともな戦闘になっていたのは間違ってはいないであろう。
「閣下…」
「その上層部のやつらが主星で温々と過ごしているのに、何故我らがこの冷たい宇宙で、奴らの尻拭いで死なねばならんのだ!?」
「……」
参謀は沈黙する、参謀として軍人として、司令官の判断に反対意見を出してはいたが、彼自身も本心ではそう思っていたからである。
艦隊が1000隻を切ったところで、ガリアルム艦隊からの降伏勧告を受けたアルタウスは、すぐに降伏勧告受諾の返信を送らせる。
「終わったな…」
「はい」
「全艦に攻撃中止命令を出せ!」
フランはクレールに命じて、艦隊に攻撃中止命令を出す。
ルイの艦隊が四万キロを引き返して来て、戦場に到着した時、丁度全艦隊に戦闘中止の命令が下されることになり、彼はまたしても大した活躍もできずに戦いを終えることになる。
こうして、巨大ガス惑星ラーマ・ディレノ宙域で行われた戦いは、ガリアルム艦隊9400隻の内、中破18隻、小破33隻の損害。
対するボローナ駐留艦隊は8000隻の内、撃沈5628隻、大破1359隻、中破217隻、小破96隻、拿捕(降伏後運用可能)約700隻の損害を出し、ガリアルム艦隊の完勝で幕を閉じることになった。
フランはルイとヨハンセン、ロイクに投降してきた敵兵の処置を任せると、自室に戻って暫く休憩を取ることにする。
ヨハンセン艦隊旗艦「パンゴワン」の艦橋では、白ロリ様ことシャーリィが優雅に紅茶をいれて、ヨハンセンとクリスに振る舞っていた。
「今回は味方艦への被害が少なくて、良かったですわ」
「そうですね。次もこうだといいのですが…」
ヨハンセンは、シャーリィにいれてもらった紅茶を飲みながら、投降してきた艦への処置と工作艦への被害の出た艦への修理指示を出していた。
(相手は補給が滞っているとはいえ、侵攻部隊1万隻…。数の上ではほぼ互角だから、まともに戦えばこちらもそれなりの被害が出る…。私に作戦を任せてくれるなら、今回だけの策があるのだが…)
そして、シャーリィとクリスの会話を聞きながら、こう思っていた。
ロイク艦隊旗艦「エクレール」の艦橋では、ロイクが優秀な参謀ゲンズブール准将に、投降艦の処置を丸投げして、指揮官席を倒して天井のモニターに移る星空をぼーっと見ていた。
そんな彼に、ゲンズブール准将が質問してくる。
「閣下。次の目標はマントバ要塞になると思いますが、また我らに御下命が下るでしょうか?」
「それはないだろう。今回の戦いで、我が艦隊もそれなりに被害も損耗もしているからな。被害の出ていない適任な艦隊に下るだろうな…」
(まあ、あのゴスロリ姫はルイ君単独の出撃には渋るだろうが、あの合理主義のヴェルノンが上手く丸め込むだろう…。無理なら俺達に回ってくるかもしれんな…)
彼は参謀にはそう答えたが、ゴスロリ姫の依怙贔屓次第で自分達に回ってくる予想は黙っておくことにした。
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