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第3章 北ロマリア戦役

補給遮断作戦 05

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 ガリアルム艦隊はボローナから、その南にある火星サイズの岩石惑星サッソ・マルコーニまでの通常行程約二日をワープで短縮移動すると、通常航行でENを回復させながら、陣形は縦四列の行軍縦隊で、南西方面にある木星サイズの巨大ガス惑星フォンタナに向かって、進軍していた。


「ステルス偵察艦の報告によると、敵艦隊は我が艦隊の後方約四万キロを維持しながら、追跡してきているとのことです」
「そうか、ボローナ駐留艦隊は追ってきたか」

 ボローナ駐留艦隊が作戦通りに、自艦隊の追跡を開始した報告をフランが受けたのは、自室でルイに新メニュー”本日もシチュー フランより愛(激重)を込めて”を、彼に振る舞っていたところであった。

 ルイはここ二週間ほど、ほぼ毎晩夕食にフランの今の所の唯一のメニュー”シチュー”を、食べていた。

 中の具材が違うとはいえ、正直少し飽きてきたので断ろうと思ったのだが、それをチート能力で先読みしたフランに、軽い監禁を受けた後に今日も大人しく食べていた。

 自分が美味しそうに食べていると、彼女はとても嬉しそうにしているので、
(まあ、頑張って作ってくれているし、喜んでいるのでいいかな)
 そう思って食べていた。

「フラン様の作戦通りに、ボローナ駐留艦隊が追跡したようですね」

 食事をしながらルイは、フランと恒例の今回の戦略についての問答がおこなう。

「今回は奴らが、ボローナから出てくる確率は高かった。我らの南下を放置すれば、侵攻部隊が挟み撃ちに遭うからな。それに、上手くやれば、我らを逆に挟み撃ちにできるからな」

「フラン様は、敵侵攻部隊が挟み撃ちに遭うという危険と、我らを逆に挟み撃ちできるという利による二つの餌で敵を釣ったわけですね」

「そういうことだ。だが、我らもそれなりのリスクを負っている事は知っているな?」
「はい、補給ですね?」

 後方を追撃してくるボローナ駐留艦隊に、補給路を遮断されているために、補給のできないガリアルム艦隊の物資には、実のところそれほど余裕はない。

 ボローナ駐留艦隊参謀ベッカーは、ロマリアに逃げ込むと推察したが、ロマリアとはそのような話し合いをしていないために、補給を受けられるかはわからないし、国土を三分の一も侵攻されているロマリアにそのような余剰な物資があるとも限らない。

 フランがそのようなリスクを負ってまで、南下した目的は駐留艦隊を簡易とはいえ、浮遊砲台を設置して守りを固めている場所から引きずり出したかったというのもあるが、一番の目的は別にあった。

「今回の作戦の一番の目的は、我々が戦いの主導権を握るためだ。敵は追撃するという受動的立場にたった事で、こちらの行動に振り回されることになる。そこを我らは、こちらの優位な戦場まで奴らを誘引して撃破する」

 二人の会話内容はとてもディナーで、恋人達がする内容ではない。
 まあ恋人ではないから問題ではなかった。

「さあ、ルイ。私との素敵なディナーの時間は終わりだ! 約半日後には、楽しい戦いの時間が始まるぞ!」

 フランのその言葉を聞いたルイは、気持ちが引き締まる気がしたのと同時に、戦いを楽しい時間と言った彼女に少し怖さを感じた。

 岩石惑星サッソ・マルコーニから、ガス惑星フォンタナまでは約五時間、そこから次の巨大ガス惑星ラーマ・ディレノまでは同じく約五時間の行程である。

 ボローナ駐留艦隊の司令官アルタウスと参謀のベッカーは、ガリアルム艦隊がガス惑星フォンタナ方面に向かうことに対して議論をしていた。

 通常ならボローナから南下してサッソ・マルコーニから、そのまま更に南下してフィオレンツァに向かい、そこから更に南下してロマーノに向かうのが定石であり最短の行程である。

 フォンタナ方面に向かうのは、いわば脇道に逸れ更に進軍距離が伸びる行為で、時間と物資を余計に浪費してしまう行為である。

「敵はどういうつもりだ?」

 司令官アルタウスの疑問も当然であるが、脇道に逸れるという事は、何もマイナス面だけではない事を参謀のベッカーが述べる。

「脇道に逸れれば、我軍の警戒網を避けることができます。敵の目的はそれではないかと…」

 現状のドナウリア侵攻部隊の戦力では、占領地全ての航路の監視をするには、人員も偵察艦の数も監視基地をつくる余裕もない。

 そうなれば、自分達が補給路とする主要航路だけになってしまう。
 ボローナからフィオレンツァ航路は、まさしく彼らの主要補給路であり、偵察艦や簡易の監視基地が設置されている。

「ガリアルム艦隊の目的が、侵攻部隊の背後を突いての奇襲なら、遠回りしてでもその監視から逃れるのは不思議では無いということか」
「はい」

 アルタウスはベッカーの筋の通った推察に納得するが、その教科書どおりとも言える推察に一抹の不安を感じる。

 この敵の司令官が果たして、彼の推察通りの教科書通りの動きをするのかと…
 実は敵は我らの追撃に気付いており、我らを誘引しているのではないかと…

 だが、自分達は四万キロ後ろを追跡している、敵が振り返ってこちらに襲ってきても、それに対応する時間は十分にある。

 問題があるとするなら、例のステルス艦隊の奇襲であるが、偵察艦を周囲に展開させ索敵させているため、早期発見できれば数はこちらが有利なために、それも対応できるはずである。

 彼は自分の計算を信じて、艦隊に追撃続行を命じる。

 約六時間後、木星より一回り大きな巨大ガス惑星ラーマ・ディレノまで、到達したガリアルム艦隊の進軍速度が巡航速度から微速にまで落とし始める。

「奴らはどうして、速度を落としたのだ?」

 ガリアルム艦隊のいる前方には、偵察艦の発見を恐れて出せないために、光学望遠でしか様子を窺うことができない。

 しかし、光学望遠では四万キロ離れている敵艦隊の姿は、最高尾近くの艦しか観測できないため、速度を落とした詳しい理由を調べることができない。


「理由は、色々考えられます。機関にトラブルの発生した艦の修理が終わるまで、速度を合わせているのか…、EN消費を抑えてワープに備えているのか…。どちらにしても、我らも艦の速度を合わせて、距離を維持すべきです」

「そうだな…、全艦微速前進せよ」

 自分の疑問に答えた参謀の意見を聞いたアルタウスは、敵の真意を測りかねながら、全艦に速度を微速まで落とさせる。

 半時間後、ガリアルム艦隊は惑星ラーマ・ディレノの側を微速で抜けると、何事もなかったかのように、艦の速度を巡航速度まで上げて進軍を再開する。

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