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第2章 サルデニア侵攻戦
ピエノンテ星系の戦い 06
しおりを挟む君主は戦争を決断すれば、少しでも有利になるように戦いが始まる前から情報を集め戦略を練り、戦力を揃え、充分な兵站を用意しなければならない。
そして、いざ戦いが始まれば指揮官は戦いの主導権を握り、戦術を駆使して戦況を優位にしなければならず、同兵力同士の戦いならなおさらである。
だが、サルデニアはドナウリアに頼りきり、そのドナウリアは大国故の慢心と油断によってそれを怠った。
その差が今回の戦いの勝敗に繋がることになった。
フランはヨハンセンとロイクに降伏した敵艦の処遇を任せると、彼女は【サルデニア王国】主星トリーノの占拠をルイと共におこなった。
当初トリーノ市民は、侵略者の『略奪や暴行』に対して抵抗を試みようとしていたが、フランによる市民への『略奪や暴行』をしないという宣言とその実行により、政府関係以外からは抵抗を受けなかった。
これは、市民達が今の腐敗したサルデニアの為政者達より、改革が行われているガリアルムの支配のほうがマシではないかという世論が少なからず広まっていたからである。
もちろん、これはフランが占領をスムーズにおこなうために、事前に諜報部を使って風聞を流させていたからである。
トリーノ占拠があらかた済んだ三日後、フランとルイは主だった部下達を引き連れてサルデニアの王宮にやってきていた。
その王宮の廊下を歩きながら、ルイはフランに話しかける。
「こちらの諜報活動があったとはいえ、意外と国民からの抵抗はありませんでしたね」
「それだけ、以前の支配者層が国民の支持を得ていなかったということだ。国民からすれば、『略奪や暴行』『不当な差別や弾圧』がなく自分達の生活が脅かされなければ、支配者の名義が変わるだけだからな」
フランはそう説明して、更にこの豪華な調度品に囲まれた王宮の廊下を見渡しながら、話を続ける。
「この王宮の調度品を見ても、その理由がよく解る。恐らく逃げる時に、持てる分だけ運び出しているはずなのに、それでもこれだけ残っている。やつらがどれだけ国民から不当に搾取していたかわかるであろう。国民の心が離れたのはこういうことの積み重ねであろう」
ルイは高価な調度品を見ながら、確かにと思った。
「報告によると、他の権力者達の豪邸にもかなり高価なモノが残っていたそうだ。やつらが艦隊をすり潰してでも守りたかったわけだ」
フランは振り返って、自分を追従する臣下達に向かってこう言った。
「本来なら、これら権力者達の持つ高級品は、我らを迎え撃つ戦闘艦であったはずのものだ。だが、愚かなサルデニアの支配者共は、その資金を役に立たない高級品や自分達の財産に変えてしまった。だが、これは油断すれば、我が国にも起こりうることだ。諸君はこの事を肝に銘じて、これからも職務に国家に尽くして欲しい」
「はっ!」
ここに居並んだ者達は、フランの言葉を聞いて、一層心を引き締める。
過去にこのような言葉を残した者がいる。
<軍備をおろそかにし、軍費を出し惜しみする国家はその見返りとして、最も高い代償を支払うことになる>
この言葉通り、サルデニアは支配者達が私腹を肥やすために、軍費を削減し『敗北』と『領土の消失』いう高い代償を払うことになった。
フランはクレールに命じて、この王宮と権力者の豪邸の内部の様子をサルデニア国内に報道させて、前政権がいかに国民から不当な搾取をおこなっていたかを知らしめ、前政権を批判させて、ガリアルムの支配を受け入れる空気を作り出させる。
本国からリュス艦隊1000隻と今回の作戦中に、新たに造船された艦艇600隻、更に輸送船団がトリーノに到着する。
本国の現有戦力は0であるため、フランは同盟国エゲレスティアに本国防衛の援軍を依頼した。
女王トリア・エゲレスティアは、可愛い妹と姪のために援軍を快く引き受け、名将ホレス・エリソン中将率いる7000隻にガリアルム防衛を命じた。
フランは、その新造された600隻を今回の戦いで損傷して、修理の終えていない各艦隊の補充として再編成すると、艦隊の出撃準備を始める。
その目的は、北ロマリアに進出して【ロマリア王国】を侵攻するドナウリア艦隊の後方を
扼して、ロマリア艦隊を間接的に援護するためである。
この行動は当初からの計画であり、連戦になるが【ロマリア王国】が降伏する前に素早く北ロマリアに進出して、ドナウリアの兵站を圧迫しなければならない。
フランは再編成した艦隊の内、フラン艦隊4600隻、ヨハンセン艦隊3000隻、ロイク艦隊1800隻を北ロマリア侵攻軍として、リュス艦隊800隻には修理の終えた艦を逐次合流させて旧サルデニア領の守備と統治を任せることにした。
乗艦の指揮官席でフランはクレールの報告を受ける。
「予定通りロイク艦隊は本隊の進発より一日早く出撃しました」
「そうか。当面の敵はボローナ星系に駐留している7000隻であるが、ヤツの艦隊が上手くやってくれれば、その7000隻と優位な条件で戦うことが出来る」
今回の戦いは今までと違い、時間が足らずに事前に策をあまり打てなかった。
フランはそのことに少し不安を持っていた。
「今回は前回前々回と違って、事前の策略はあまりできなかったからな。打てる少ない手を確実に成功させなければな」
「そうですね。味方の犠牲を増やさない為にも…」
二人はモニターに映った星々を見ながら、次の戦いに備えて思考を巡らせていた。
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