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第2章 サルデニア侵攻戦

ピエノンテ星系の戦い 05

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 挟撃を受けたドナウリア艦隊は、何とか艦隊の陣形を変更して前方のフラン艦隊側に約3800隻、後方のロイク艦隊側に約900隻を配置して、前後衛の間に撃沈を免れた数十隻の補給艦を配した。

 フラン艦隊は約4300隻と援軍のワトー艦隊約400隻を併せて4700隻であり、後方ロイク艦隊約980隻である。
 数の上では、ほぼ互角である為に挟撃を受けたとはいえ、ドナウリア艦隊は二十分の間、砲撃戦を何とか持ち堪えていた。

 ロイク艦隊は少しずつ水平に移動しながら、ドナウリア艦隊の後方右翼から左翼に移動を始める。
 当然ドナウリア艦隊の後方を守っている艦隊も、前衛艦の後方を守るために右翼から左翼に移動していく。

 だが、ドナウリアの残った補給艦の数は少なく、艦隊全ての補給を賄う事は当然できずに、次第にエネルギーの不足した艦から撃沈されていく。

 自艦隊の被害が増加してきているにも関わらずに、自己の保身と名誉のために撤退を受け入れない司令官アーベントロート中将に、参謀カウン准将は遂に業を煮やして最後の進言をおこなう。

「閣下、このままでは殲滅されてしまいます。撤退の指示を!」
「まだだ…、まだ…、退くわけにはいかん…!!」

「このままでは、将兵に無駄な犠牲が増えてしまいます!」
「栄光あるドナウリア軍人が、このような一方的にやられたままで、撤退などできるものか!」

 その司令官の言葉を聞いたカウン准将は、目を瞑って嘆息を漏らすと、腰の銃を手に取りアーベントロート中将に向けてこう言い放つ。
 
「閣下が撤退しないのは、自分の名誉と自己保身のためでしょう! 我々が貴方のそのような勝手に付き合って、死なねばならない理由はない!」
「貴様!! そのような―」

 カウン准将はアーベントロートの発言を最後まで聞くことはなく、銃の引き金を引いて頑迷な上官を射殺する。

 銃をホルスターにしまうと、カウン准将は全艦隊に撤退命令を下す。
「アーベントロート中将は、名誉の戦死をなさった。これからは私が指揮を引き継ぐ。これより全艦撤退を開始せよ!」

(これでよい。生きてこそ次の機会を得られるのだから)
 カウン准将は、自分にそう言い聞かせながら、撤退の指揮をおこなう。

「ほう…。ようやく撤退か…。だが十分、いや、五分遅かったな…」
 フランは指揮官席で戦況が映し出されたモニターを見ながら、<Destruction(撃滅)>と書かれた洋扇で口元を隠しながらそう呟いた。

「右翼後方より、敵艦隊の攻撃です!」
「何!?」
 撤退指揮をしていたカウン准将に報告が入る。

 ドナウリア艦隊は撤退を始めようと、ガリアルム艦隊の居ない右翼後方へ逃走を開始した所を、正面と側面から無数のビームによる攻撃を受けて、シールドエネルギーを無くしたものから、船体を引き千切られ爆散していく。

 それは、サルデニア艦隊と交戦していたヨハンセン艦隊約2500隻によるビーム砲攻撃であった。

 包囲攻撃を受けていたサルデニア艦隊は、残り300隻まで撃ち減らされた所で降伏しており、ヨハンセンは400隻にその処理を任せて、白ロリ様の艦隊運動によって素早く陣形を再編する。

 そして、迅速にドナウリアの右翼後方まで移動すると、撤退する敵艦隊に砲撃を開始する。

 約8100隻に包囲され補給もままならず、撤退行動により戦闘意欲も低くなったドナウリア艦隊は、ガリアルム艦隊のビームやミサイルによって次々と爆発しては、乗員の命と共に宇宙に散っていく。

 天頂方向や天底方向に逃げようとした敵艦は、駆逐艦部隊の追撃によりにより、各個撃破されていき、包囲開始から僅か10分でドナウリア艦隊は2000隻以下にまで減る。
 艦隊数に差ができ始めたために、各司令官は更に包囲を縮めながら、天頂方向や天底方向にも艦隊を配置して、包囲をより完璧にしていく。

 完全包囲してしまうと敵が死兵となるために、ソンム星系の戦いと同じように包囲に一つだけ態と逃げ道を作り、そこを出た艦は駆逐艦部隊の追撃により撃沈される。

 包囲開始から20分が経った頃には、ドナウリア艦隊は既に1000隻を切っていた。
「この包囲では、もう脱出は無理だな…ここまでか…」
「参謀閣下…」
 カウン准将は艦橋で、戦況モニターを見ながらそう呟く。

 そして、通信士にこのように命令を下す。
「これ以上の抵抗は余計な犠牲を増やすだけだな…。全艦に攻撃中止命令を出せ。そして、敵艦隊に降伏すると通信を送れ……」
 
 その頃、ガリアルム艦隊総旗艦「ブランシュ」の艦橋では、総司令官フランソワーズ・ガリアルム大元帥とその参謀クレール・ヴェルノン大佐がこのような会話をおこなっていた。

「勝ったな…」
「十中八九は、勝利は我軍のものかと」

「では、ルイ…・ロドリーグ代将の旗艦を後方に下げさせて、破損した艦の修理の指揮をさせよ」
 フランがそこまで指示を出すと、クレールが冷静な表情で報告する。
「その任には、既に別の者がついております」

 その報告を受けたフランは、冷静な顔と声で彼女に新たな指示を出す。
「では、その者と交代させよ、参謀」
 

 クレールは、表情を崩さずに立言する。
「冗談は、その軍服だけにしてください、恋愛脳ゴスロリ殿下」

 フランも冷静な表情は一切崩さず、こう言って彼女の立言を退ける。
「私は冗談では言っていないぞ、この鉄仮面参謀」
 
 表情と声は冷静なままだが、二人の会話の内容は明らかにヒートアップしている。
「冗談でないなら、余計に質が悪いです、このお花畑大元帥」

「なんだと、この鋼鉄女。そんなことだから、未だに彼氏の一人もできないのだぞ」
「余計なお世話です。それに自分だって、恋人いないではないですか」

 そのクレールの冷静なツッコミを受けたフランは、そんなことはないとばかりに、このように少し恥ずかしそうに反論する。
「わっ、私にはルイが…」

「今は一方通行ですよね」
 だが、クレールの正確なツッコミが決まる。
 
「なにをー!」

 フランがクレールに飛びかかろうと席を立とうとした所に、オペレーターから敵艦隊の攻撃が止まったと報告を受ける。

 敵艦隊の攻撃が止まったのを確認したフランは、各司令官に攻撃中止命令を出すと、そこに敵艦より降伏するとの通信を受ける。

「どうなさいますか?」
 クレールの問いに、フランは勿論こう答える。
「もちろん、受け入れる。我が艦隊も正直余力はないのだからからな」
 フランはドナウリア艦隊に、降伏を承諾する通信を送らせ、艦隊に攻撃停止命令を出す。

 


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