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第2章 サルデニア侵攻戦

サルデニア侵攻開始 03

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 一月二八日
 自身の執務室に呼んでおいたルイと共に諜報部より、サルデニアの国内の報告を受けたフランは、数日前に見た【サルデニア王国】の会見を見た自分の感想をルイに話す。

「欲に支配された権力者は、自分の権力を守るために国家を救うためと詭弁を弄して、平気で国民を切り捨てる。それが自分達と国家を支える柱を切っているとも考えずに」

 そして、その柱が弱り外圧に耐えられなくなって倒れるか、自然に倒れるまでその愚行に気付かない。
「今回の彼らの判断がまさしくそうなのですね」

 ルイの意見をフランは肯定しながら、自分の意見を述べる。
「そうだ。奴らは自分達の浅はかな策の責任を、守るべき国民に押し付けたのだ」
「それにより、国民から反感を受けるとわかっていてですか?」
 
 彼の疑問に、彼女は嘲笑しながらこう答える。
「奴らは国民の反感など意に介してはいないからな」

 それは、国民など不満を口にするだけで何もしない、例え暴動を起こしても武力で鎮圧できると思っており、最悪自分達で対処できない時には、【ドナウリア帝国】の力を借りればいいと考えているからである。

 そして、その考えが今回のガリアルムへの策略実行を決定した一因でもある。
 策が失敗して、最悪ガリアルムが攻めてきても、ドナウリアを頼って撃退すればいいという楽観的な考えである。

 その楽観的な思考は、長年ドナウリアという強国の傘の下で、平和を享受してきた権力者達と国民に蔓延しており、長い平和は外敵の驚異を薄れさせ、権力者達を腐敗させ国を少しずつ弱体させる。

 そして、腐敗した組織には欲と狡知と保身に長けた人材が多くなり、そのような者たちが有事の際に役に立つはずがない。

「だから、このような愚策を平気でおこなう。我らとしては、有り難いことだ」
 それ故にフランは、自国のそのような人材を多少強引な手で全て排除した。

 二月一五日
 フランは軍高官を軍本部の会議室に集めると、遂に開戦する事を伝えサルデニア侵攻作戦の計画を伝える。

「サルデニア侵攻作戦への参加艦隊は、第一艦隊4500隻、第三艦隊3000隻、第四艦隊1500隻の合計9000隻とし、第五艦隊1000隻は本国の防衛の任とする」

 侵攻ルートは主星パリスを南下して、サルデニアとの北の国境にあたるロール=アルプ星系の惑星リオムまで約四週間の行程を進軍して、東に進軍し国境を越えて惑星ジャンベリを経由して、サルデニアの主星トリーノのあるピエノンテ星系に入り、トリーノを目指す約三週間の行程で合計約七週間の行軍となる。本来なら……

 サルデニアへの宣戦布告は、艦隊が国境に到着した時となり、艦隊の出動は明後日の二月一七日と定められた。

 そして、二月一七日ガリアルム艦隊9000隻は、総司令官フランソワーズ・ガリアルム大元帥に率いられ、惑星パリスを出撃すると南にある惑星リオムに向け進軍を開始する。

 だが、ガリアルム艦隊は約四週間掛かるリオムの行程を、僅か約二週間で進軍する。
 しかし、この情報は情報封鎖とガリアルム艦隊が国境沿いではなく内部を進軍している事により、サルデニアとドナウリアには進軍していることすら伝わっていない。

 フランは惑星リオムの周辺宙域で、艦隊が度重なるワープで消費したエネルギーを補給している時間を利用して、再度の作戦会議を各艦隊の高官を集めておこなうと、その後に兵士達に向けて演説をおこなう。

 各艦のディスプレイ・スクリーンに映し出されたフランは、黒いゴスロリ服を基にした彼女用の軍服を着用しており、その黒いゴスロリ軍服は彼女の異常に白い肌と銀髪を更に際立たせて、彼女の存在を特別にしている。

 彼女は少し間を取った後に凛とした表情で演説を始め、最初はゆっくり話だし、最後は激しく以下のような演説をおこなう。

「勇敢なる兵士諸君。遂に我らの祖国をその不敵な野心によって、混乱に陥れたサルデニアに罪を贖わせる時が来た。この戦いは先祖からの悲願である彼の国に奪われた領土を奪還する戦いでもある! 我らの怒りを晴らし、先祖の悲願を果たす! そして子孫達の未来を勝ち取る! この全てを果たせるかどうかは、諸君達の奮戦に掛かっている!」

 フランの演説により、士気の上がったガリアルム艦隊は補給を済ませた後、ここから東の国境に向けて進軍を開始する。

 リオムを進発して星々の海を約二日行軍して、ガリアルム艦隊は国境近くまで到着する。パリスに超光速通信を送ると、国王シャルルから正式にサルデニアへの宣戦布告がおこなわれる。

 その報告を主星から超光速通信で受けたフランは、艦隊に進軍の命令を出して国境を越えて惑星ジャンベリを目指す。

 サルデニアはガリアルム艦隊が国境監視基地を攻撃した報告を受け、ようやくガリアルム艦隊の存在と場所を知り、サルデニア王は急ぎドナウリアに援軍の要請をする。
 ここで、ドナウリア政権はフランが国境近くで宣戦布告するつもりであるという、ミハエル大公の読みが正しかったことを知り、援軍の艦隊7000隻を本国から派遣する。

 しかし、ドナウリアの主星ヴィーンのあるヴェアン星系から、トリーノまでは約十週間の行程を要し間に合わない。

 そこで、皇帝フリッツ2世はエミニア=ロマーニ星系の惑星ボローナに、ロマリア侵攻の予備部隊として配置してある6000隻の艦隊を先にトリーノに向かわせ、その代わりに本国からの援軍をボローナに駐留させることにした。

 ボローナからトリーノまでは約2週間半、ジャンベリからトリーノまでの行程も約2週間半であるため、援軍の艦隊は間に合う計算になる。

 だが、惑星トリーノのあるピエノンテ星系に先に着いたのは、ガリアルム艦隊であった。
 理由は簡単で、指揮官の統率力と艦の動力炉の性能の差であった。

 ガリアルム艦隊は一日早くトリーノまで進軍すると、サルデニア艦隊と三万キロの距離で行軍を停止して、交代で兵士達の休息とエネルギーの回復をおこなう。

 サルデニア艦隊は、大軍であるガリアルム艦隊に挑む危険を冒さずに、ドナウリアからの援軍を思考停止で待っていた。

 半日後にロイクの艦隊が、進軍の航路上にあった基地の撃破を終えて合流を果たす。

 更に半日後に、遂にドナウリア援軍艦隊6000隻が到着して、サルデニア艦隊3000隻の左翼に展開する。

 対するガリアルム艦隊は、右翼にフラン艦隊4500隻、右翼にヨハンセン艦隊3000隻、後詰めとしてロイク艦隊1500隻を右翼後方に配置している。

 こうして、新編ガリアルム艦隊9000隻対サルデニア・ドナウリア連合艦隊9000隻が、激突する『ピエノンテ星系の戦い』が始まる。
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