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第2章 サルデニア侵攻戦
新体制 04
しおりを挟む九月の初旬、フランは政務の合間にランベール・バリバールと面会をおこなっていた。
バリバール家は、この【ガリアルム王国】で有数の財閥であり、彼はその現当主である。
ランベール・バリバールはとても優秀な商売人で、優れた経営者でもあり、彼の代でバリバール財閥は、この国のから世界の有数財閥へと成長している。
バリバールの先天的に持っていた先読みと危機管理能力は、今迄の商売で磨きあげられており、その彼の先読みの能力が富の独占を嫌うフランがいずれ、何かしらの大義名分をつくって、自分達財閥から力と富を奪うか、財閥そのものを解体すると予測する。
そこで彼は先手を取ってフランに面会し、自分から資金援助を申し出て彼女の協力者となることによって、破滅から逃れようとする策を実行する。
そして、彼にはこの策が上手くいく自信があった。
何故ならば、彼は商売人であるために経済と金の流れに強いため、今この国の財政がサルデニア侵攻の予算で逼迫していることに気付いており、自分からの資金援助はフランにとっては喉から手が出るほど欲しいものである事を予想していたからであった。
バリバールはフランの執務室に通されると、執務をおこなうデスクに座る彼女の前にそのデスクを挟んで背筋を伸ばして立つ。
目の前に座る少女は、映像で見るより更に神秘的な容姿をしており、その整った顔は人形のような印象を受けるが、その少女が放つ覇者の雰囲気は海千山千のバリバルールを持ってして只者ではないことを感じさせる。
少し気押された彼は、気持ちを立て直すと一礼してから自己紹介を始める。
「お初にお目にかかります王女殿下…、今は宰相閣下とお呼びしたほうが、よろしいですかな?」
「どちらでもよい」
冷たい感じで返事をする彼女に、バリバールは自己紹介を続ける。
「私はバリバール家当主のランベールと申します。まずはこれをお収めください…」
バリバールはアタッシュケースから、手土産として持ってきた物をデスクに置くと、彼女の方にスッと差し出す。
「これは?」
目の前に置かれた金色の像を見たフランが、彼にコレが何かを尋ねる。
「<金のプーレちゃん像>です」
それは、手のひらサイズではあるが、見事な彫金技術で作られた純金のガリアルム軍マスコット<プーレちゃん>の像であった。
その説明を聞いたフランは、<金のプーレちゃん像>を手にとって、まじまじと像を見た後に彼にこのように述べる。
「これは見事だな。軍本部のエントランスホールにでも、飾らせておこう。だが、どうせ寄贈してくれるなら、現金による寄付にしてくれれば国庫に納められたのにな」
もちろんこれは、バリバールがフラン個人に送った所謂、<賄賂>であったが当然<賄賂>は犯罪であり、そのため彼女はこれを国への寄贈としたのであった。
「今回宰相閣下の前に参上いたしましたのは、我がバリバール財閥は閣下の覇業に資金面でお助けしたいと思ったからです」
彼がフランを宰相と呼んだのは、生まれ持った立場の呼称より自らの才で得た役職の呼称で呼んだほうが、彼女のような気高い人物は気分を害さないと、経験上知っているからであった。
「資金援助をしてくれると?」
「さようでございます」
バリバールとのやり取りの後に、フランは冷静なまま彼に資金援助の対価を尋ねる。
「それで、その見返りに其方は何を求めるのだ?」
フランのその質問にバリバールは、今日はご機嫌だけ取って帰ろうと考えていたが、自分の返答を待つ彼女の自分を見るその淡い瞳が、冷徹な光で満たされていることに気付き、自分の心の全てを見透かされているような気がした。
バリバールは、ここは腹の内を正直に話すべきだと直感で感じ、自分の求める資金援助の対価を求める。
「我が財閥の財産安堵の保証と、その事を明記した公文書を戴きたく存じます」
「公文書を…」
「私は商人ですので、契約は書面に残すことにしているのです」
フランは暫く考えた後に、バリバールに返答する。
「いいだろう…、三日以内に渡せるようにしておこう」
二人は資金援助の見返りに、財産安堵の確約をして会談を終える。
「よろしかったのですか? 財閥の力は削いでおくべきだと思いますが…」
クレールの懸念にフランはこう答える。
「財産安堵というのは、どのくらいを保証すれば良いのであろうな?」
フランは公文書に敢えて、<財産の安堵>という曖昧な表現にして、どれくらい安堵させるかまでは明記せずにバリバールに送った。
「資金援助が期待ほどでなければ、法人税で取ればいいし方法はいくらでもある。まあ、やつは計算のできる男だ。あの内容の公文書を送れば、暫くはこちらの納得する資金援助をしてくるだろう」
フランは、財閥の力を削ごうとしていた自分の考えにいち早く気付いて、自分に会いに来た彼の才幹と自分の腹の探り合いではなく正直に話せという雰囲気を感じて、正直に対価を求めてきた直感を評価し、恐らく自分の役に立つと思って期待している。
そして、フランの予測通りにバリバールは、彼女が納得いく資金援助をおこない、それによりフランの軍備増強の大いなる助けとなった。
メアリーはその工学の才能を活かすために、リン・マリヴェル博士の助手として、教えを請うていた。
その彼女が新年は実家で過ごすと言って、【エゲレスティア連合王国】に帰省するのを聞いたルイは、自分も新年を久しぶりに実家で過ごそうと思いたつ。
彼は年末に荷物を持って軍の官舎の入口から外に出ると、そこには黒塗りの高級車が停まっており、ルイは突然左右から現れて屈強な男達に両腕を掴まれると、有無を言わさずその高級車に押し込められて、王宮のフランの部屋まで強制連行されてしまう。
私服の黒のゴスロリ服を着用して部屋で待っていたフランは、ルイが来ると洋扇で扇ぎながらこのようなことを言ってくる。
「来年のサルデニア侵攻の話をしようと思ってな。その話が長くなって、2~3日掛かって新年を一緒に向かえることになっても、それは仕方がないことだ」
彼女はルイと新年を一緒に迎えたいということを、この鈍感スキル持ちに遠回しに伝えた。
(つまりは親友のメアリーが帰省して寂しいから、僕と一緒に新年を迎えたいということか…。相変わらず、寂しがり屋さんだな)
ルイは鈍感スキル持ちをフル発動させそのように解釈すると、サルデニア侵攻の話をしながら彼女と新年を迎えることにする。
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