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第2章 サルデニア侵攻戦
新体制 03
しおりを挟むフランが語る<メアリーガリアルム移住>作戦、その内容はこうである。
フランはルイの提案で、超光速通信を使って外交ルートでメアリーに連絡を入れた時には、彼女が既にこちらに向かっていることを、彼女の両親から聞かされる。
フランは、メアリーが自分達を心配して向こうからやって来ることに、彼女の自分への友情に熱いものを感じる。
(やはり自分の目に狂いはなかった! メアリーはやはり計画通り親友として自分の側に居させる!!)
そして、彼女はメアリーの気持ちを無視してルイとの話の中で思いついていた<メアリーガリアルム移住>の話を進める。
フランの中では、メアリーも一緒に居たいと思っているというヤンデレ思考を発動させているので、彼女もそう思っていると疑ってはいない。
そこで彼女は、まず叔母である女王トリア・エゲレスティアに連絡して、自分に初めてできた親友を自分の側に置きたいと、涙目で叔母に懇願する。
もちろん、目薬である。
すると、その涙ながらに親友と一緒に居たいと願うフランの姿を見た叔母は、可愛い姪の頼みならと士官学校に話をつけてメアリーを飛び級卒業させてしまう。
彼女が優秀な成績であった事も、それができた要因である。
そして、メアリーの両親にも話をすると、彼女の両親は王女様のお気に入りになったのなら他国とはいえ出世は間違いなしと思って、娘の【ガリアルム王国】移住を快く承諾する。
こうして、メアリーは本人の預かり知らぬ所で、【ガリアルム王国】移住が決まってしまったのであった。
ルイとフランの関係を、『蛇に睨まれた蛙』と喩えたのはロイクであるが、メアリーを小動物みたいだと喩えたのはそのルイであり、蛇が小動物も大好物だというのは奇妙な偶然ではないのかも知れない。
メアリーは、ルイと同じで長いものには巻かれるタイプであり、フランの側にいることも嫌ではないので、側にいることを受け入れることにした。
そうこうしている内に、八月最終の週にルイは卒業試験を受けて、見事合格し晴れて士官学校を卒業することができた。
次の日から、ルイはフランの指示でヨハンセンの元で、戦術の授業とまではいかないが、彼が戦史研究で得た知識を彼の仕事の合間に教えてもう事になる。
ヨハンセンは人に教えるのが得意ではないが、オタクというのは得た知識を披露したいという性分を有しており、彼もまたそうで自分の知識をルイに嬉々として話した。
フランは始め女性の副官のいるヨハンセンの所ではなく、男だらけのロイクの元へ向かわせようと思ったが、アイツの所に行かせてもあまり意味がないなと考え直し、ヨハンセンの元に向かわせることにした。
そして、それが終わるとルイはフランの執務室に呼ばれるという生活を送っていた。
その日も、ヨハンセンの執務室を出て軍本部の廊下を出口に向かって歩いていると、目の前からフランとは対照的な白いゴスロリ服を身につけ、髪もフランの銀髪で長い髪とは対照的な肩までの綺麗な金髪で、肌は白く青い目の小柄な美少女が歩いてくる。
彼女はお嬢様といった感じの優雅な歩き方で、ルイに近づいてくると彼の1メートル手前に立ち止まる。
(この娘どこかで…)
ルイが目の前のお嬢様に、見覚えがあると思って思い出していると、彼女の方から声を掛けてくる。
「貴方がルイ・ロドリーグ様ですね? このように、直接お話するのは初めてですわね。はじめまして。わたくし、シャルロット・ドレルアンと申します。シャーリィとお呼びください」
シャーリィと名乗った少女は、両手でスカートの裾を掴んでカーテシーで丁寧に挨拶をしながら自己紹介をしてくる。
(シャルロット・ドレルアン!?)
ルイはその名を聞いて、慌てて敬礼して自己紹介をおこなう。
「シャルロット様、失礼しました。ルイ・ロドリーグです」
ルイが驚いて慌てて敬礼したのは、彼女シャルロット・ドレルアンの父親は現国王シャルル・ガリアルムの弟王アンリ・ドレルアン(現オレルアン公)であり、つまりは王族である。
フランにとっては従姉妹にあたり、彼女と同じ17歳であるが小柄な見た目により、実年齢よりも幼く見える。
シャーリィは同い年ではあるが、フランのその神秘的な姿と優れた才能に心酔し敬愛しており、彼女が白いゴスロリを着ているのは、その憧れのフランの真似をしているからである。
ルイは以前王宮の晩餐会で、遠目で彼女を数回見たことがあったが、近くであったことがなかったために、思い出すことができなかった。
フランが従姉妹である彼女をルイに紹介しなかったのは、勿論可愛らしい彼女に合わせたくなかったためである。
シャーリィは緊張しながら敬礼しているルイをまじまじと見ると、彼に聞こえないぐらいの声でこのような感想を呟く。
「この方がフラン様の……。顔は良いと思いますが、覇気がないと言うか何というか…。少なくとも軍服を着ていなければ、軍人には見えませんわね…。まあ、人は良さそうですが…」
ルイは彼女に品定めされているとも知らずに、王姪の彼女がこのような場所で何をしているのか尋ねてみる。
「シャルロット様は、このような場所に何か御用なのですか?」
彼の質問にシャーリィはこう答える。
「わたくし、フラン様からの言いつけで、ヨハンセン少将に会いに来ましたの」
「ヨハンセン少将に?」
ルイがどのような用件か聞こうと思ったら、シャーリィは何かを思い出し慌て始める。
「いけない、もう面会時間ですわ。遅れては大変なので、わたくしはこれにて失礼いたします。それではルイ様、ごきげんよう」
そう言って、彼女はルイに頭を下げるとルイの横をスタスタと小走りで抜けると、ヨハンセンの執務室に向かう。
ルイは彼女の姿が遠くなってから、敬礼を止めてから大きなため息を吐くと、自身もフランの執務室に向かう。
彼がいつものようにフランの執務室の扉をノックして、彼女の入室を促す言葉を聞いてから部屋の中に入り、部屋の主に対して敬礼しようとすると、彼女の姿は部屋の中には無かった。
(あれ? いない? いや、ちゃんと部屋の中から「入れ」という声を聞いたから、居ないはずは…)
ルイが不思議がっていると、背後から気配を感じ振り返ると、そこには瞳孔が開いて瞳からハイライトの消えた<ヤンデレ目>のフランが立っていた。
しかも、ご丁寧に彼の背後に立つことで、入室してきた扉を防ぐ形となり、返答次第では無事にこの部屋から出られないという状況を作り出す。
その状況でフランは、低いトーンでこう質問してくる。
「どうだった、私の従姉妹のシャーリィは? 小柄で人形みたいで可愛かっただろう? どう思ったか正直に話してみろ。但し内容次第では、オマエの最後の晩餐は昼食に食べた食堂のガレット定食になるかも知れないがな…」
フランはそう言いながら、ヤンデレ目のままルイにジワリジワリと近づいてきて、彼は自然と恐怖であとずさる。
(怖い! 目も怖いし、言っている事も怖い! あと、当然の如く僕の昼食の内容を知っている事も怖い!)
こうして、ルイの一日は過ぎていった。
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