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第1章 反乱軍討伐戦

ソンム星系の戦い 04

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  反乱軍艦隊はフランの艦隊に、徐々に後方に誘引されていることに気付いていたが、彼らの目的がフランの確保である以上、下手に距離を取りそのまま逃亡されては元も子もなくなってしまう。

  そのため多少危険でも、釣られて前進をして距離を保つしかなかった。
  もちろん中央深くに突出して、左右の艦隊から包囲を受けないように細心の注意を払いながら前進していた。

 少しずつ距離を詰めるのに焦れたエティエヴァンは、副官に自分が考えた策を披露し、意見を聞くことにした。
「小娘の艦の位置まで全艦で全速突撃を敢行して、捕獲するというのはどうだ?! 幸い小娘の艦はかなり前にいる。小娘さえ確保できれば…!」
  エティエヴァンは自信満々にそう語ったが、副官は冷静に自分の意見を述べる。
 
「我らが全速で突撃すれば、1万8千キロメートルの距離を詰める前に、敵も全速で後退行動にでるかもしれません。そうすれば、敵はそのまま迎撃を諦めて、エゲレスティアの国境まで逃げに徹すると思われます…」

 副官の意見を聞いたエティエヴァンは、確かにそうだという顔をしてこう感想を述べる。
「確かにそれでは、元も子もないな…」
副官はエティエヴァンに献策する。
「なので、このまま誘引されていると見せかけ、王女を捉える距離まで徐々に距離を詰めるのです」
 
「そして、一気に…だな?」
「その通りです」
 エティエヴァンと副官はそう話し合うと、距離を詰めるまでこのまま前進することを決める。

 だが、フランの方が一枚上手で先手を取る。
「今だ、全艦一斉攻撃!」
  フランは反乱軍が突撃しようというタイミングで、後退を止めて全艦に一斉攻撃を命じて、反乱軍艦隊に猛攻撃を浴びせる。

  雨のような激しい粒子砲とミサイルの攻撃により、出鼻をくじかれた反乱軍艦隊は突撃を一旦諦めて砲撃戦を開始する。

「そう簡単に正面突撃が、成功するものか…」
 フランがそう呟くと、ルイは心の中で称賛する。
(さすがは、フラン様。お見事!)

 ルイがそう思っていると、フランは矢継ぎ早に次の命令を出す。
「全艦攻撃体制から、通常攻撃体制に移行せよ。ヨハンセンの艦隊に本隊の後方1万キロメートルに移動するように伝達。補給艦隊に後方でいつでも補給できるように待機するように伝えよ」

  この世界の艦隊戦は、複数隻でローテーションを組んで砲撃戦をおこなうのが、基本となっている。

  基本は3隻で組ませ、2隻が前に出て攻撃している間に、残り一隻が攻撃やエネルギーシールドで消費したエネルギーやミサイル弾薬等を後ろにいる補給艦からおこない、その時間を乗員の休息に当てる。
  そして、補給を終えた艦と前の艦一隻がスライドして交代する。

  こうして、艦隊の継戦力を維持し時間を掛けて敵の数を減らすのが、基本的な艦隊の戦い方である。

  フランも3隻一組で運用しており、継戦力を維持させながら砲撃戦を優位に進めている。
  反乱軍も同じく3隻一組で運用しているが、彼らには補給艦がいないために後ろに下がった艦は主機から発生するエネルギーで、時間を掛けて回復するしかない。

  そのような方法で、補給体制の整ったフランの艦隊といつまでも互角に戦えるわけもなく、エネルギーの少なくなってきた反乱軍の艦は、エネルギーシールドを維持できなくなる艦が出てきて、粒子砲やミサイルの直撃を受けて爆散していく。

 少し実戦に慣れてきたルイは、フランに先程の通信の意図を尋ねる。
「そういえば、フラン様。敵に通信を送った3つ目の意図が途中でしたが、アレは後方への誘引中に、敵が我が艦隊に突撃してくるのを自重させるためですか?」

 ルイの言葉を聞いたフランは、二重の意味で満足した顔でこう答えた。
「その通りだ、ルイ。おかげで、誤差の範囲で敵を目的地まで引っ張ることが出来た。まあ、突撃されたとしても、対応策は考えていたがな」

 フランはそこまで質問に答えると、今度は自分からルイに問題を提示する。
「では、反乱軍艦隊の損害が、我が艦隊より多いのは何故だか解るか?」

 ルイは少し考えた後、このような答えを導き出す。
「それは敵艦隊のエネルギー不足です」
 彼はその理由を次のように説明する。

  まず敵艦隊はこの宙域に来るまでに、移動だけでエネルギーをかなり消費しており、それは同じ行程を移動してきたヨハンセン艦隊が、補給でかなり時間を使っている事から容易に推察できる。

  更に敵は機雷原を突破するのに、攻撃とエネルギーシールドで無駄なエネルギーを使い、回復する前にフランの艦隊の攻撃を受けて迎撃することになった。

  そして、決定的なのは補給艦を後方に置いてきてしまった事による、補給が不可能なことである。

  これは、フランが反乱軍にそうせざるを得ないように仕向けた策である。
  本来なら国王夫妻が乗る宇宙船は、戦艦ぐらい足の遅い快適性重視の船であったが、フランは高速輸送艦を改装して、国王夫妻に我慢して乗るように指示をし、温厚で娘が大好きな国王夫妻は2つ返事で従った。

  よって、ヨハンセン護衛艦隊は高速艦のみで構成されることになり、その快速に追いつくために、反乱軍は同じく足の早い艦だけで追うしかなかった。

  ルイの推察を聞いたフランは
「付け加えるなら、そのような計算もできない無能が、敵の指揮官であったということだな。だが、合格点だ。この戦いが終わったら、私の部屋に来い。25年ものの白(ワイン)を振る舞ってやろう」
フランは扇子で顔を半分隠しながら、そう言ってルイを自室に誘う。

 その彼女の発言を聞いた艦橋のオペレーター達は、こう思いながらルイの返事を待つ。
(キャー、部屋に誘ったわ)
(お二人って、そんな仲だったんだ)
(最近の若い子は、積極的ね…)
(もちろん、返事はOKですよね、少佐!)

 オペレーター達が見守る中、ルイはこう答える。
「フラン様。僕達は、未成年ですよ! お酒は二十歳からなので、飲酒は駄目です!」

(真面目か!!!)

 艦橋にいたルイ以外の者は、心の中でそう突っ込んだ。



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