上 下
13 / 154
第1章 反乱軍討伐戦

反乱勃発 02

しおりを挟む


 国王夫妻は二人の為にそれなりに改装された船室に通されると、クレール・ヴェルノン大尉が部屋に入ってきて、ひざまずくと国王夫妻に説明を始める。

「国王陛下、及び王妃殿下。緊急事態ゆえに、このような部屋で申し訳ございません。本艦はこれより予てよりの計画通りにソンム星系の惑星ア二アンへと向かいます。それまでの間どうかご辛抱のほどを…。隣の部屋に一緒につれてきた使用人二人が控えており、世話はその者達が行いますのでご安心ください」

 クレールの説明を聞いていた国王は、彼女に質問をする。

「フランの予想通りに、反乱が起こってしまった……。そして、この脱出の手際の良さ…、ヴェルノン大尉…この反乱自体があの子によって、起こるように仕向けられたものではあるまいな…?」

 国王のこの疑問はこれまでの事と、そして今の今状況は鑑みれば当然であり、その疑問はあながち間違えではなかった。

「非才な小官の説明では、国王陛下に誤った解釈をさせてしまう恐れがありますので、フランソワーズ殿下に直接お聞きください」

 クレールは国王の問いかけにそう答えると、敬礼して部屋から出ていった。

 その頃、主星パリスの地上部隊から、国王夫妻が逃亡した報告を受けた反乱軍艦隊司令官エティエヴァン公爵は猛り狂っていた。

「地上部隊の奴らめ、肝心な国王夫妻を逃がすとは何を考えているのだ! 国王夫妻を取り逃がせば、我らは反逆者だぞ!」

 エティエヴァン公爵は、地上部隊の不手際をモニター越しに叱責していると、部下が進言してくる。

「公爵、今はそのような話よりも、逃亡した国王夫妻を全速で追跡致しましょう」
「そうだな。全艦に追撃命令を出せ!」

 部下の意見を聞いたエティエヴァン公爵が命令を出すと、モニターから地上の反乱部隊から切実な通信が送られてくる。

「我々は今、地上の守備部隊に攻められている! 我々を艦に収容してくれ!」

「自分達のミスであろう! せいぜい我らが、貴様たちが取り逃がした国王夫妻を囚えるまで持ちこたえるのだな!」

 エティエヴァン公爵は、そう言って通信を切ると追跡を開始する。
 正直公爵には、地上部隊がどうなろうが知ったことではなかった。

 その頃、ソンム星系の惑星ア二アンへ向かう宇宙船の中で、ルイはフランの部屋のソファーに対面で座り今回の計画のあらましを聞かされていた。

 フランは部屋に入ってきたルイに対して、自分の座っているソファーの横を畳んだ洋扇で叩いて、隣に座れとアピールしたがルイは対面のソファーに座った。

「では、国王ご夫妻は主星を脱出して、惑星ア二アンへ向かっているのですね?」
「そうだ。クレールの報告では、計画どおりに無事脱出して向かっているらしい」

 そう答えながらフランは、机を挟んで対面に座るルイのスネあたりを机の下から足を伸ばして、つま先でツンツンと突いている。

「反乱軍は死に物狂いで、父上達を追跡しているであろうな。奴らには大義名分がないから、民と軍から支持を得ていない。父上を捕らえて、自分達を認めさせねば反逆者として、いずれ正規艦隊に討伐されるからな」

 洋扇で扇ぎながら説明をするフランを見ながら、ルイはこのような疑問が頭をよぎる。

(この反乱は、フラン様が仕組んだものなのですか?)

 だが、彼はその疑問を彼女にすれば怖い答えが帰ってきそうなので、別の質問をすることにする。

「これからは、どのような計画なのですか?」

 フランは洋扇を畳むと、机の上に置いてあるコンソールを操作して、この国の星系図を表示させる。

 そして、洋扇で現在地を差しながら説明を始める。

「まずは、周辺に駐留している守備艦隊の集結する惑星ア二アンへ向かう。そこにいる艦隊で父上達を追撃してくる反乱軍艦隊を迎撃し殲滅する。どうだ、至極シンプルな計画であろう?」

 フランは洋扇を広げて、これから行われる戦いを前にして、緩む口元を隠しながらそう答えた。

 彼女は戦いを求めていた、自分の才能を試すために、そして野望を叶えるために。

 反乱勃発から二週間後、フラン達は国王夫妻より先に惑星ア二アンへ到着すると、惑星周辺には戦闘艦艇が既に400隻程集結していた。

 そして、ルイ達を乗せた宇宙船は集結している戦闘艦艇の合間を縫って、白を基調とする一際目立つ新型艦に近づいていく。

「宇宙に白色とは、目立つ艦だな…」

「私が命じて造らせた新型艦だ。フフフ…、私の見た目と同じだから、私の乗艦としてぴったりであろう?」

 ルイの感想に、肌が透けるように白い少女は、その色素の抜けた白に近い銀色の長い髪を指で梳すきながらルイにそう言った。

「フラン様……」

 ルイはフランが自分自身を卑下していると思い心配そうに見ていると、彼女もそれを察して、こう彼に答える。

「ルイ、そのような顔をするな…。別に卑下して言っているわけではないのだから。それに、今の私は自分の容姿を気に入っているからな」

 フランはそう答えた後に、

(オマエが神秘的で素敵だと言ってくれたからな…)

 そう思いながら広げた洋扇で、赤くなった顔を隠す。

 今のフランには元が白すぎるから、照れて赤くなると目立つのだけが困りの種であった。

 新型艦に横付けすると、ルイ達は連絡艇でその虚空の中でその白色を更に際立たせている艦に移乗して、それぞれ割り当てられた部屋に案内され、そこに用意されていた軍服に着替えブリッジに移動する。

 ブリッジに着くと、そこには艦のクルー達が忙しそうに出航の準備をしている。
 クルーの多くはフランが座乗する為か女性が大半を占めており、艦長も女性であった。

 艦長は敬礼すると、自己紹介をおこなう。

「フランソワーズ王女殿下、わたくし本艦の艦長を務めさせていただきます、オーロル・ユレル大佐です。よろしくお願いします」

「よろしく頼む、ユレル大佐」

 フランはそう言って答礼すると、部屋で待機していたリン・マリヴェル博士が手に鞄を持って艦橋にやってきた。

 マリヴェル博士は、さっそくフランに自信作の感想を尋ねる。

「フランソワーズ殿下、どうですかこの新型艦の感想は?」
「なかなかいい艦だな。あとは実戦でどれだけ使えるかだな」

「もちろん、使える艦に決まっているじゃないですか。この艦は最新技術が使われているのですよ? あと十年は前線で戦えますよ!」

「そうあってもらいたいものだな。ところで博士、この艦の名前は?」

 フランのこの問にマリヴェル博士はこう返す。

「それは、殿下がお決めになってください」

 ユレル艦長はフランに命名権の説明をする。

「旗艦級の命名権は国王陛下にあり、今は緊急時なので殿下にあると思われます」
「そうか……」

 フランは、艦長の説明を聞くと艦名を考え始める。

 そして、少し考えた後に命名する。

「この艦の名はブランシュ(白)としよう」
「素晴らしい艦名ですね…」

 ユレル艦長は実に優秀な軍人らしく空気を読んだ言葉を発する。

「ブランシュ(白)って、そのままの艦名ですね……」

 艦橋のクルー一同が思っていても、空気を読んで誰も言わなかったことを、空気を読まないマリヴェル博士がそう発言して、艦橋の空気が一瞬にして凍りつく。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

The Outer Myth :Ⅰ -The Girl of Awakening and The God of Lament-

とちのとき
SF
Summary: The girls weave a continuation of bonds and mythology... The protagonist, high school girl Inaho Toyouke, lives an ordinary life in the land of Akitsukuni, where gods and humans coexist as a matter of course. However, peace is being eroded by unknown dangerous creatures called 'Kubanda.' With no particular talents, she begins investigating her mother's secrets, gradually getting entangled in the vortex of fate. Amidst this, a mysterious AGI (Artificial General Intelligence) girl named Tsugumi, who has lost her memories, washes ashore in the enigmatic Mist Lake, where drifts from all over Japan accumulate. The encounter with Tsugumi leads the young boys and girls into an unexpected adventure. Illustrations & writings:Tochinotoki **The text in this work has been translated using AI. The original text is in Japanese. There may be difficult expressions or awkwardness in the English translation. Please understand. Currently in serialization. Updates will be irregular. ※この作品は「The Outer Myth :Ⅰ~目覚めの少女と嘆きの神~」の英語版です。海外向けに、一部内容が編集・変更されている箇所があります。

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

SMART CELL

MASAHOM
SF
 全世界の超高度AIを結集した演算能力をたった1基で遥かに凌駕する超超高度AIが誕生し、第2のシンギュラリティを迎えた2155年末。大晦日を翌日に控え17歳の高校生、来栖レンはオカルト研究部の深夜の極秘集会の買い出し中に謎の宇宙船が東京湾に墜落したことを知る。翌日、突如として来栖家にアメリカ人の少女がレンの学校に留学するためホームステイしに来ることになった。少女の名前はエイダ・ミラー。冬休み中に美少女のエイダはレンと親しい関係性を築いていったが、登校初日、エイダは衝撃的な自己紹介を口にする。東京湾に墜落した宇宙船の生き残りであるというのだ。親しく接していたエイダの言葉に不穏な空気を感じ始めるレン。エイダと出会ったのを境にレンは地球深部から届くオカルト界隈では有名な謎のシグナル・通称Z信号にまつわる地球の真実と、人類の隠された機能について知ることになる。 ※この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています。  https://www63.atwiki.jp/analoghack/

銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~

まきノ助
SF
 高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヒットマン VS サイキッカーズ

神泉灯
SF
 男が受けた依頼は、超能力の実験体となっている二人の子供を救出し、指定時間までに港に送り届けること。  しかし実戦投入段階の五人の超能力者が子供を奪還しようと追跡する。  最強のヒットマンVS五人の超能力者。  終わらない戦いの夜が始まる……

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

処理中です...