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序章

迫りくる戦火 01

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 軍事技術研究所所長リン・マリヴェルは、この国随一の科学者であるが研究より縫いぐるみづくりという性格にやや難があったため、今まで日の目を見ることがなかった。

 その才能を買ったフランが新兵器開発の為に、父親の国王シャルル・ガリアルムに手を回して軍事技術研究所所長に大抜擢させたのであった。

 そして、同じく才能のあるクレール・ヴェルノンを参謀本部から、自分の元に出向させ、色々な裏工作をさせているのである。

 もちろんクレールがルイに声を掛けたのも、フランの指示で彼女の卓越した分析能力でルイの能力を客観的に評価させるためである。

 その結果ルイがクレールに見惚れてしまって、フランが嫉妬してしまう事になるのは皮肉としか言いようがない。

 クレールの分析能力は、わずか15歳のフランのその類まれなる才能を見抜いた。

 だが、優れているのは、分析能力だけではなくその分析をおこなえる頭脳であり、彼女はそれ以来フランに忠誠を誓って、彼女の手足となって動いている。

 クレールの評価は、<凡人では無いと思われるが、データが足りないために今回は“良”とさせていただきます>となっていた。

【ガリアルム王国】主星パリスから【エゲレスティア連合王国】主星ロンデンまでは、ワープドライブを使用しても四週間は掛かる。

 その間ルイは世話をしてくれる乗務員を見ては、フランのヤンデレ目に晒される事になる。

 四週間後、遂にルイはこの銀河の二大強国【エゲレスティア連合王国】の主星ロンデンに到着する。

 ロンデンの宇宙港に到着した王族専用宇宙船は、国賓用ドッキングベイに誘導され係留される。

 ドッキングブームが宇宙船に接続されると、船のハッチが開きルイ達は低重力のブームを通って、宇宙港内部に入る。

 内部に入ると、重力制御装置によって重力は1Gを保たれており、地上のように普通に歩くことができる様になる。

 ルイ達は、国賓扱いによる外交特権で、入国の煩わしい手続きをせずに、VIP専用通路と専用軌道エレベーターを使用して、地上に降り立つとエゲレスティアが用意した護衛付きの国賓接遇用の車が待機していた。

 車はルイ達を載せると護衛に守られながら、この国の女王が住む王宮に向かう。
 王宮に着いたルイとフランは、女王トリア・エゲレスティアと謁見する。

「よくきたわね、フラン。暫く会わない内に、また大きくなったわね。それに美人にもね」

 トリアは玉座から立ち上がると、フランに近づいてきて気さくに話しかける。

「伯母様こそ、相変わらずお元気そうで何よりです」
 
 フランの方は、礼節に乗っ取り完璧な挨拶を行なう。

 トリア・エゲレスティアは、フランの母アン・ガリアルムの姉で、フランにとっては叔母にあたる。

 その性格は大国の女王だけあって豪胆で、見た目からも女傑と言うに相応しい印象を受ける。

 トリアはフランのことも昔から奇異の目では見ずに、むしろ可愛がってくれたので、フランも彼女には信頼をおいている。
 
「しかし、フラン。自ら士官学校に入学して軍を率いなくても、優秀な軍人を婿にしてその者に軍を率いさせればよいのではないか?」

 トリアは姪であるフランが自ら戦場に立つ事を心配して、彼女にそのような提案をしてくる。

 すると、フランは後ろで控えているルイを少しチラミすると

「私もそのように考えていたのですが、そのような優秀な者がおらず、自分で軍を率いる事としました」

 フランの計画では、ルイが士官学校を優秀な成績で卒業して、戦いで活躍し出世して、自分の夫になって軍を率いるというものであった。

 フランの読み通り彼は一年までは優秀であったが、ルイが公務員になりたくて前線に出て戦死したくないために、成績をわざと落としたために計画は頓挫し、別の人物と結婚するのも嫌なので彼女自身が軍を率いる事を選んだ。

「そうですか、アナタのお眼鏡にかなう者がいなかったのですね。では、フラン。なにか困ったことがあったらいつでも言ってちょうだい」

「はい、お心遣いありがとうございます。では、伯母様。一つお願いしたいことがあるのですが……」

 フランはトリアの助力の申し出に対して、さっそく力を借りることにする。

「何でも言ってちょうだい」
「私とルイ…、後ろの者を寮からでなく、我が国の大使館から士官学校へ通わせてください」

「別に構わないけど、王立士官学校の学生寮の警備は万全だから、心配しなくてもいいわよ?」

「警備を気にしているわけではありません。寮からでは、本国への通信をするのに何かと面倒なので……」

 フランの理由を聞いたトリアは

(フランもまだ15歳。きっと、両親と好きな時に通信がしたいのね……)

 そう考えて、彼女の願いを聞き届ける。

「わかりました。関係者には、その様に私から話を通しておきましょう」
「ありがとうございます、伯母様」

 フランはトリアに礼を述べた後、少し会話をして謁見を終えた。
 その後ルイ達は再び車に乗り込むと、大使館に向かう。

 車の中でルイは

(フラン様もまだ15歳。きっと、両陛下と好きな時に通信がしたいんだな……)

 と思いながら、しっかりしていてもまだまだ子供だなと思って、彼女を微笑ましく見ている。

 すると、それに気付いたフランがルイを流し目に見ながらこう言ってきた。

「フフフ……。その顔は“私が寂しさのあまりに両親に通信するのだな“と、考えているのであろう?」

 ルイは自分の考えを読まれて、驚いていると彼女はこう続ける。

「私がそんな子供であるわけないだろう? 通信の目的は別にある……」

 フランはそう言い終わると、窓の外に目をやって流れる風景をぼんやりとした感じで眺めていた。

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