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序章

狂い始める人生 03

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 フランは洋扇で、自分の顔を緩やかに仰ぎながら校長に話しかける。

「校長、もう下がっていいぞ。あとは私がこの者に話をする」
「ははっ!」

 校長は彼女に一礼すると、そのまま一刻も早くこの危険地帯から逃げ出したいといった感じで、校長室から早々と出ていった。

 その校長の様子を横目で見ていたフランは、冷ややかな笑みを浮かべながら

「【兵は神速を貴ぶ】というが、その点において流石は士官学校の校長と言ったところだな」

 校長をそう評した。

 どう考えたって碌な話ではないと思ったルイも校長の後を追って、自然に部屋を出ていこうとしたが

「オイ!(怒)(怒)(怒)」

 フランは半ギレ気味で声を掛け、そのルイの退出を阻止する。

 ルイは校長室の下座のソファーの横で硬い床の上で、正座の刑を受けていた。

「どうだ、ルイ。そのセイザなる罰は、足が痛いだろう? 私の誕生会に来なかった罪と先程逃げ出そうとした罪への罰だ」

 確かにこのセイザなる罰はきつい、まだ五分くらいしかこの体勢を取っていないのに、足が痛くなってきた。

 ルイは少しずつ痛くなってきている足から、尻を浮かせたりしながらフランに尋ねる。

「あのフランソワーズ様……、誕生日会の事は王女様ジョークだったのでは?」
「何を言っている。校長には謝ったが、オマエには謝っていなかったはずだが?」

 フランはそう答えると<peace(平和)>と書かれた洋扇の裏表を、ひっくり返すと再び扇ぎ始める。

 そして、そこには<love(慈愛)>と書かれていた。

 確かにそうだと思いながら、ルイはその洋扇の言葉を見て

(あの洋扇に書かれている言葉は座右の銘ではなく、こうなりたいっていう願望だな……)

 無慈悲な罰を自分に課している眼の前の少女に対してこう思った。

 フランは洋扇で扇ぐのをやめて、それで口元を隠すとルイにこう話しかける。

「ルイ、知っているか? 実はそのセイザなる罰は、オマエが今おこなっている状態はまだ
 手始めであるということを……」

「なん…だと…」

 ルイはその驚愕的な事実を聞かされ、絶望を覚える。

 そして、<きっとあの洋扇で隠している口元は、悪い笑みを浮かべているに違いない>と、
 確信するのであった。

 フランはセイザの全貌を語り始める。

「このセイザの本当の形は、そのように座らせた後に太ももの上に重量物を載せるのだそうだ。」

「!?」

 ルイは、どうして自分がそんな酷い罰を受けねばならないのか解らなかった。

 そして、色々考えた結果、ルイは一つの答えに辿り着く。

(そうだ、小説で読んだことがある…。理不尽な目に合わされて、そこから主人公が力をつけて、復讐を果たして、“ざまぁ”する話を……。それか!)

 ルイがその様に考えていると、フランが彼の太ももに背を向けてちょこんと座った。

「??!」

 ルイは何が起こったか理解できずに驚いていると、

「ここには重量物がないから…な。仕方ないから私が代わりを務めるとしよう。しかし、これでは、<お仕置き>ではなく<ご褒美>になってしまうな…」

 フランは前を向いて、洋扇で顔を隠しながらそう言った。

 確かに美少女が膝に座るシチュエーションは、ある一定の人間には<ご褒美>かもしれない。

 だが、ルイはそのような上級者ではないので、只々足が痛いだけだった。
 でも、膝の上に座る少女からは、とてもいい匂いがしたので彼は少しドキドキした。

 フランは後ろに振り向くと、先程までと違って嬉しそうな表情で話し出す。

「このセイザなる罰は、この前我が国に極東の国【ヒノマル皇国】から使節としてきた者に聞いたものでな」

 彼女は使節が正座しているのを見て、珍しいので話を聞いてそこから昔はこの正座を使った拷問<石抱>の話しを聞かされ、それと混同しているようであった。
 
 まあ、石抱の拷問の話をする使節もどうかと思うが……

 彼女の洋扇に文字が書いてあるのも、その使節が持っていた扇子の影響であり、その扇子には<常在戦場>と書かれていた。

 彼女はルイの膝の上で、ご機嫌な感じで話を続ける。

「そうそう、知っているか? あの国は今あの大国【オソロシーヤ帝国】と戦っているのだそうだぞ。小国なのに大国に挑むとは無謀なことするものだな。それで、我が国と【エゲレスティア連合王国】に講話の仲介を頼みに来たと言っ―」

 フランがそこまで話すと、ルイが彼女の話を遮って彼女に呼びかける。

「フランソワーズ様…」

「ルイ…。二人だけの時は、<フラン>でいいと前にも言ったであろう?」

 フランが少し不満顔で、そう返すとルイはそれどころではないと言った感じでこう言ってくる。

「フラン様…、足がもう限界です…」
「そうか…。それは残念だ……」

 フランはルイのギブアップ宣言を聞くと、少し残念そうに太ももから立ち上がり、彼の足を開放する。

 フランはソファーに座ると、地面で足の痺れに苦しんでいるルイにも、ソファーに座るように促し、彼は横に設置されているソファーに床から腕だけで、なんとか座ることができた。

 フランはルイがソファーに座るのを見ると、今回の訪問の理由を話し始める。
 決してイチャつきに来ただけではなかった。

「では、本題に入ろう。実は私は今度【エゲレスティア連合王国】の王立士官学校に入学する事になった」

【エゲレスティア連合王国】の王立士官学校は、名門士官学校で友好国の軍人を目指す王族や貴族が教育を受けにくる名門である。

「フラン様は、軍人になるつもりですか?!」

 この時代一般人や普通の貴族なら女性でも軍人になることは珍しくないが、王族でしかも次期女王となる彼女が軍人になると言うのだから、ルイが驚くのも無理はない。

「ああ、私は次期女王だからな。戦争と成れば兵を鼓舞するために、戦場で指揮をせねばならないからな。そうしなければ、兵と民からの真の忠誠心を得ることは出来ないであろう」

「国の上に立つ者として、立派なお心掛けです」

 ルイはフランの王女としての心構えに感銘する。

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