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1-31 東京へ
しおりを挟む尭姫の後ろには、炯と晴明、彩花ちゃんが立っており、晴明と彩花ちゃんは俺に向かって頭を下げて謝罪している。
その理由は、今朝四人に東京転属の辞令が出たらしく、そこでその報告と一緒に東京に行こうと俺の事を誘おうとなって、どうせ行くなら四人で行こうとなったらしい。
そして、その道中に俺と尭姫の微妙な距離関係を知らない彩花ちゃんが、俺の家にホームステイしているパティという可愛い少女が居て、この間その子と一緒に買い物したことを話してしまったらしい。
当然、彩花ちゃん以外の空気は凍り、晴明に事情を聞いた彩花ちゃんとその許嫁の晴明が、現在俺に謝罪しているということである。
(四人には口外しない約束で、パティのことを話しておいたほうが良いかもしれない)
俺は4人に特に彩花ちゃんに口外しないことを約束させると、パティが魔王の娘であること、彼女が象頭のキグルミを被っていたこと、月読宮様が全て承知していること、その月読宮様が俺に監視するように命じられたことを話す。
「まさか、あの時の娘(こ)が、アークデーモンを作り出した本人で、魔王の娘だったなんてね…」
流石の尭姫も驚きを隠せないでいる。
「なるほど… だから、あれほど強かったんだね…」
晴明は顎に手を当てながら、神妙な面持ちで一人納得している様子である。
「まさか、パティちゃんが魔族だったなんて… これから、どう接すれば…」
彩花ちゃんが不安な表情で、魔族であるパティとの今後の接し方を俺達に相談してくると俺はこう答える。
「彩花ちゃん。今まで通り、普通に接してあげてくれないか。パティは魔王の娘かもしれないが、少なくとも悪いやつではない気がするから」
(まあ、俺は二度目に会った時に、パンを与えなければ美味しく頂かれるところだったが…)
だが、少なくとも最近はそんな考えはないみたいだし、何よりアークデーモン戦では俺達を助けてくれたから、あの頃より少しは心変わりしているのかもしれない。
「そうだね。よそよそしく接すれば、彼女を傷つけてしまうかもしれないね。そうすれば、せっかく彼女が僕達を友好的に見てくれていても、態度を変えてしまうかもしれない」
「そう、それ! 俺が言いたかった事はそれだ。流石だな、晴明!」
晴明が俺の言いたかったことを言ってくれたので、このリア充を許嫁の前で褒めておくことにした。
「そうですね…」
彩花ちゃんは、ややぎこちない表情でそう答える。
無理もない魔族と仲良くしようと急に言われても、心の整理など出来るはずがないのだから…
「カエッタヨー」
そうこうしているうちに、パティが買い出しから部屋に帰ってくる。
「アレ、ケイ ニ アヤカ ドウシタヨ? アソビに キタノ?」
パティは部屋の中にいる炯と彩花を見ると、少し嬉しそうにそう言ったが、尭姫の姿を見た瞬間
「ソレニ タカヒ… 」
不機嫌オーラ全開にして、尭姫を睨んで牽制し始める。
「そんな怖い目しなくても、もう帰るわよ。パティちゃん」
パティをあまり刺激しないようにするためか、そう言って尭姫は玄関に向かって歩きだしブーツを履き始める。
「じゃあ、智也。今度は東京で会いましょう。それに、パティちゃんもね」
そして、履き終わるとそう言って、いち早く退室する。
「じゃあ、僕達もこれで失礼するよ。また、今度」
そう言って、晴明も部屋を後にする。
「じゃ じゃあ、パティちゃん。私達も帰るね。また、今度東京で会おうね」
「マタネー」
彩花はパティに、別れの挨拶をすると晴明を追うように部屋から出ていった。
「では、また…」
炯もそう一言だけ言うと、部屋から出ていった。
部屋を出た尭姫は、駐屯地に向かう道を足早に歩きながら先頭を歩く。
(あと2年… いえ、あと1年すれば… この力を使いこなせる。それまでは…)
誰にも見えないその決意に満ちた彼女の目は金色に輝いていた。
その夜―
荷物を粗方ダンボールに詰め引っ越しの準備を済ませた俺は、パティに明日の予定を伝える。
「パティ、明日は早いぞ。俺が早朝から駐屯地に軽トラを借りてくるから、そこから荷物を乗せる。そして、乗せ終わったら、高速で5時間で東京だ!」
「トウキョー」
「東京はすごいぞ! 高いビルは沢山建っているし、色々な店もあるし、多種多様な娯楽もあるし、ネズミの遊園地もあるぞ!」
「ネズミの ユウエンチ?! ムシカの仲間の ユウエンチ ダッテ!」
「ちゅう~」
パティはネズミ遊園地に心踊らせ、ムシカも仲間の遊園地と聞いて嬉しそうだ。
その様子を見た俺は、心が痛くなってきてすぐさま訂正する。
「ああ…、ごめん。正確にはネズミのキグルミがいる遊園地なんだ」
「ナンダヨー! ぬか喜び サセヤガッテー」
「チュー!」
パティとムシカは、俺の訂正に文句をつけ始める。
(”ぬか喜び”なんて、言葉どこで覚えたんだ…)
「まっ まあ、とにかく色々すごいぞ! なにせ、この国の首都だからな!」
「おおー シュト~」
月読宮様の新兵器開発部門は、防衛省の防衛装備庁陸上装備研究所に間借りしていると聞いており、俺達が暮らすマンションがある場所は<八王次市>という所らしい。
大都会東京に胸躍るパティ
新天地での生活に心躍る俺
「俺、東京で活躍して退魔師として、一旗揚げたら幼馴染の女の子に告白するんだ!」
果たして、大都会東京で智也を待つ運命とは!?
それは、神のみぞ知る…
次回作
「退魔官を追放され魔王の娘と契約して、最強になった俺が山間部でスローライフを始めます!」
お楽しみに(未定)!
今回で一応最終回です。
いい話が思い浮かんだら、続きを書くかもしれません。
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