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1-7  アークデーモン

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「俺がここから時計周りに移動しながら、銃を撃って注意を引くから、尭姫はこの子を階段近くの柱まで連れて行ってくれ」

 俺は尭姫に指示を出すと少女に、地面に身を屈めるジェスチャーをして彼女が真似て身を屈めるのを確認するとアークデーモンの周りに漂う白煙が晴れる前に、身を屈めたまま2つ先の柱に移動する。

「配置についた」
「私もいつでもいいわよ」

「僕もいつでもいいよ」

 俺達が配置についた時、アークデーモンの周りの白煙は晴れてきており、視界は確保されているだろう。

「煙が消えてきているけど、またさっきの手榴弾投げなくていいの?」

 尭姫の疑問に、俺は今回発煙手榴弾を使用しない説明をする。

 アークデーモンが霊力探知である以上、俺の低い霊力より探知術を使用する晴明の霊力に目標を変更して、攻撃するかもしれない。

 先程のように白煙で奴の周りを覆えば、向こうからこちらは見えないが、こちらからも奴は見えない。

 それは、つまりアークデーモンの魔力ビームが一旦途切れても、それが晴明に攻撃目標を切り替えたのか、魔力ビーム切れなのかは解らない。

 なにより、晴明に攻撃する為の動作もわからず、晴明は術使用中に突然煙から放たれた魔力ビームに対応しなければならず、身体強化の血筋で反応速度が上がっている俺や尭姫と違い魔力極振りで身体能力が並の晴明では、反応できずに消し飛んでしまうだろう。

「……」
「ごめん… 智也…」

 俺の説明を受け尭姫は黙ってしまい、晴明は申し訳無さそうに謝ってくる。

「俺もお前には弾倉に霊力を溜めて貰って、世話になっているから気にするな。親友なんだから助け合えばいいじゃないか」

「智也、ありがとう…」
「礼なんて、言わなくていいさ。お互い様だからな」

 柱の影からアークデーモンを監視しながら、そう言った俺はアークデーモンの周囲の白煙が消えるのを確認すると作戦決行を合図する。

「よし、いくぞ!」

 俺は柱の影に隠れながら、弾倉に左手をあてて霊力を込めるとアークデーモンは俺の低い霊力もきっちり探知して、掌をこちらに向けると例の魔力ビームを発射する。

 俺はその発射を合図に(よーい、ドン!)と次の柱を目指して、両手で持った銃に霊力を込めながら走り出す。

 魔力ビームに追われながら、外壁の近くの柱まで走るとそこを直角に曲がって、次の柱まで移動するとようやく弾倉に魔力が溜まり、俺は先程と同じでサイトを覗いて狙っている余裕がないため銃床を腰に当て腰だめ撃ちをおこなう。

 アークデーモンは部屋の中央で、動かずに魔力ビームを放っているため、日々の射撃練習で磨いた射撃技術を持ってすれば、腰だめ撃ちでも命中させることができる。

 霊力が込められた7.62×51mm弾のストッピングパワーは強力で、低級の魔物なら十分制圧できる威力だがS級のアークデーモン相手では、掠り傷程度のダメージしか与えられない。

 魔力ビームから逃げながら、床に倒れている死体をジャンプで越え、柱の影を走り、銃を撃って注意を引く事5分、2つ目の壁近くの柱を曲がった頃、ようやく二人から通信が入る。

「こちら、尭姫― 」
「こちら、晴明― 」

 報告が重なった二人は、お互い報告を止めるが逃げるのが限界だった俺は奴の視界から消えるために、スライディングして柱の影に滑り込むと即座に地面に背中を付けると死を運ぶ魔力ビームは、その上を柱と壁を破壊しながら通過していく。

 床に倒れた状態の俺は、体を回転させて匍匐状態になると近くの姿が隠せる柱まで匍匐前進で進み、コートから取り出だした弾倉をできるだけ音を出さないように交換しながら二人の報告を聞く。

「こちら、尭姫。智也、大丈夫? こっちは、女の子を階段近くの柱まで連れてきたわ」

「こちら、晴明。探知の術による施設内の生命感知の結果、生存者なし。恐らく魔物召喚の後に殺されたか、先程の戦いに巻き込まれて死んだか…」

 そう言った晴明の声は、悔しさと哀しみが混じっており、

「せめて、この子だけでも助けないと!」

 尭姫は側にいる少女を見ながら、民間人を助けるという退魔官としての義務を力強く口にするが、そうなると問題が1つ増えてしまう。

「問題は私達だけならともかく、この子を連れて遮蔽物の無い階段まで、移動するのは難しいわね…」

 俺達は血統によって、身体能力が民間人よりも高いために、あの魔力ビームから逃げ切れるだろうが、晴明と少女の身体能力では難しいだろう。

 そのため少女を無事に逃がすためには、先程と同じ事をすればいい。

「俺がさっきと同じように注意を引くから、その間に二人はその子を連れて、階段から降りて脱出してくれ」

「アンタはどうするのよ!?」

「俺は今反対側の外壁付近の柱にいるから、どっちにしても時計回りでアークデーモンに攻撃されながら移動しないといけない。それに、奴の魔力は落ちてきているから、心配はいらない」

 人間から変化して間がないアークデーモンは、まだ完全体でなく魔力は本来の最大値より少なく、隊長や隊員達との戦闘から魔力を大量に消費し続けており、智也が逃げ切れているのも魔力ビームの威力が最初よりかなり下がっているからである。

「それに俺達退魔官は、民間人の安全を優先しないといけないだろう?」

「それは… 」

「智也の言う通りだね。でも、無理はしないでくれよ」

「心配するなって、俺は逃げ足だけは特級だからな!」

「だから、それ自慢にならないって… 」

 イヤホンからいつものように尭姫のツッコミが聞こえてくるが、その声にはいつものような元気は無く心配な思いが強く感じる小さな声であった。

 逃げ回るためにできるだけ身軽になりたい俺は、命中してもどうせ大したダメージの出ないバトルライフルを投棄する為に、先程の魔力ビームで壊れた目の前にある外壁の穴にアークデーモンに見つからないように柱を背にして匍匐前進で向かう。

「無くしたら始末書だからな…」

 そこからバトルライフルを投棄して、柱の影まで戻ると腰のホルスターの副兵装<Desert Eagle.50 AE>型の魔力銃を取り出すと二人に合図を出す。

「準備はいいか?」

「ええ…」
「うん…」

 二人の返事からは、俺を心配しているのが伝わってくるが、

「いくぞ!」

 俺は手に持った魔力銃に霊力を込めると、アークデーモンはこちらを向いて魔力ビームを発射してくる。

 アークデーモンの魔力ビームに追われながら、柱を5本ほど走り抜けた後、気休め程度にハンドガンを撃つが、バトルライフルで掠り傷程度なのだから、あまりダメージを受けている様子はない。

 尭姫は柱の影からアークデーモンの注意が智也に向いているのを確認すると、少女の手を握って階段を指差して

「えーと… R∪N…? GO…? MO∨E…?」

 知っている英単語で話しかけるが、

「コトバ… スコシ… ワカル。アソコ… ハシル」

 少女からは、片言ながら理解したと返事が返ってきた。

「じゃあ、行くわよ!」

 尭姫は少女の手を握り階段まで走り、その二人の後ろを晴明が呪符を手に持って殿を務める。

 すると、アークデーモンは尭姫達に気付いたのか俺を無視して、彼女達の方に振り向く。

 恐らくそれでなくても霊力(魔力)の低い俺が、霊力を消費して攻撃を続けた為に、抑えている二人のほうが魔力感知で大きく反応したのであろう。

 もしくは、俺達が2階に上がってきた時に攻撃を受けた事から、階段付近は常に注意を払っているのかもしれない。

 どの様な理由かは解らないが、解っていることはアークデーモンが尭姫達の方を向いて、魔力ビームを発射しようとしていることである。


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