気弱剣術少女のVRMMO奮闘生活 

土岡太郎

文字の大きさ
上 下
8 / 8

その8 前衛で戦う意味

しおりを挟む




 前回までのあらすじ

 気弱剣術少女”天原彩音あまはらあやね(17)P.Nアカネ”は、幼馴染で腐女子ゲーヲタの”川山陽かわやまはる(17)P.Nハルル”に、その性格を治すためというそれらしい理由で、フルダイブVRMMO【トラディシヨン・オンライン】をプレイすることになる。

 姉とその同僚の変態紳士となんやかんやしてから、ゲーム内でなんやかんやして、ツノウサギの角攻撃をお腹に受けてしまった。

 #########




「町に帰って、私もハルルちゃんみたいに、遠くから攻撃できる武器にする!」

 角攻撃ですっかり心が折れたアカネは、町で遠距離武器を購入する事を主張し始める。

 彼女の言う通り、ゲーム開始時に貰える所持金500ドルドルがあれば、初期の拳銃か攻撃魔法の”魔力の矢”は購入できるだろう。

 だが、それは前衛職が欲しくてアカネを誘ったハルルにとっては避けたいことであり、彼女はそのためその事を伏せて、町の外まで連れ出したのだ。

(やはり、早くも心が折れたか……。だが、そんな事は長い付き合いから想定内…。故にこの私… 陽には抜かりはない。ちゃんと事前に彩音ちゃんに前衛職を続けさせる詭弁… もとい説得する材料は用意している)

 このままではダブル後衛職となり、戦闘が不便になってしまうので、ハルルはアカネの説得を始める。

「アカネちゃん… 本当にそれで良いのかしら?」
「良いよ! だって、怖いし…… 」

「私はこのまま長年の修行で得た天原の剣術を活かして、剣を振るって敵を屠ったほうがいいと思うけどね」

「どうして…?」

(想定通りに喰い付いたわね…)

 ハルルは内心で自分の計画通りになったことを喜びつつ、表情には出さず説得を続ける。

「このゲームが世界中の多くの人がプレイしているのは知っているよね?」
「うん」

「アカネちゃんが、天原天狗流あまはらてんぐりゅうを活かして戦って活躍すれば、その姿を見た人達、特に外国人さん達はこう思うよ! <Oh、ジャパニーズ武道、素晴らしい! 私も習いたい!>と!!」

「な、なるほど…… って、なるかな…?」

 ハルルはここが勝負所と見極めて、一気に畳み掛ける。

「なるよ! 日本の古流剣術や武術を学びに来ている外国人さんの映像を、私はテレビや動画でたくさん見たことがあるからね!」

「確かに… 私もテレビで見たことあるかも… 」

「でしょう!? つまり! アカネちゃんが活躍すればするほど、道場の門下生が増えるかも知れないってことなんだよ!!」

「な、なんだってー!」

 アカネの脳内には、テレビで見たような稽古着を着た外国の人達によって、自分の道場が賑わっている様子が思い浮かぶ。

 それは天原天狗流あまはらてんぐりゅうが、世界で有名になることを意味しており、そうなればきっと祖母と母、そしてご先祖様たちも喜んでくれるだろう。

 まあ、実際外国の人が学びに来た時、英語で対応できるのか? という問題は置いておいて……

「私、剣で頑張るよ!!」

 先程まで乗り気でなかったアカネは、ハルルの熱く語る説得により俄然やる気を出す。そしてその瞳からは迷いが消え去り、天原天狗流と道場を有名にすることへの意欲で爛々と輝いていた。

「ええんやで。わかってくれれば、ええんやで」

 アカネの思考回路を上手く誘導することに成功したハルルは、何故か関西弁になる。
 ネットの影響だろうか?

 ハルルの言っていることは、全くのデタラメではない。効果があまり望めないだけで。これなら、有名な動画配信に技を実演した動画をあげた方が、まだ有名になって門下生増加の見込みはあるだろうというだけで…

「とはいえ、このナイフじゃあ不安だよ」
「じゃあ、これを貸してあげるよ」

 ハルルは「メニューオープン」と言って、メニュー画面を表示させると収納ボックスボタンを押して収納ボックスを出現させると、そこから刀身が少し湾曲した曲刀を取り出して、アカネに手渡す。

「これはシミターと言って、刀と同じ技量で攻撃力補正が入る武器だよ。直剣よりは形が刀に似ているから、扱いやすいんじゃない?」

 銃を扱うには命中が最優先で、そのため技量が重要な項目である。
 その技量を活かすためにハルルは技量補正武器であるシミターを所持していたが、装備の総重量制限の問題からまだ装備できないので、アカネに貸し出すことにする。

 アカネは手渡されたシミターを左の腰に差すと、まずはオプション画面から戦闘アシストを外す。そして、鞘から抜いて片手や両手で持って、色々な角度に斬撃を行ってみる。

「刀とはバランスが違うけど、ナイフよりはいいかも。それにやっぱりアシストが無い方が、斬撃が自由に繰り出せて戦いやすいよ」

 一通りの素振りを終え感触を試したアカネは、シミターを納刀する。

「良かった。それなら問題無いかな?」
「今度はもうあんな無様な姿は見せないよ!」

 意気揚々と答えるアカネを見て、ハルルはその頼もしい言葉に

(フラグかな……)

 とフラグを感じてしまう。

 すると、二人の背後から新たなツノウサギが現れる。

「ひゃぅ!? びっくりした! 私に気配を感じさせないなんて… このうさぎちゃん… 出来る!!」

 現れたツノウサギに対して、アカネは再び動揺する様子を見せるが、先程とは違ってすぐにシミターを抜いて構えを取る。

「そんなに慌てなくて大丈夫だよ。この辺りのモンスターはこちらから手を出さない限り、襲ってこないから」

 この辺りの魔物は、初心者向けなので発見されても向こうからは襲ってこない。当然先に進めば襲ってくる魔物も増えてくる。

「本当だ~。襲ってこないね~」

 ツノウサギはアカネの近くまで、ぴょんぴょんと飛んでくるが攻撃は仕掛けてこない。
 そうなると角さえ気にしなければ、大きなウサギなので可愛く見える。

「角が怖いけど… もふもふでかわいいかも」

 そのため可愛いモノが大好きなアカネは、近づいてシミターを握る右手とは逆の空いている左手で、ツノウサギの頭を撫でてしまう。

 すると―

「キュウ!!」
「あうぅ!?」

 突然ツノウサギが大きな鳴き声を上げ飛び掛かり、アカネは再び角でお腹を突かれ地面に倒れてしまい、早々にフラグを回収してしまう。

 どうやら、撫でたことが攻撃判定とされ戦闘開始となったようだ。

(フラグ回収が早すぎでしょう…… この娘は……)

 呆れ果てたハルルであったが、先程の攻撃で地面に倒れたところを

「キュウ! キュウ!」
「やめて~ やめて~」

 ツノウサギに角で突かれて、難儀をしているアカネを助けるために、再びマジックライフルを発射する。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...