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その1  彩音、親友に誘われる

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 平行世界「地球」―

 他の技術レベルは同じだが、フルダイブ型VRの技術が確立され実用化された世界
 その理由は、エロル・シコルスキーという一人の天才科学者が、熱い情熱で完成させたのだ!

 2021年
 シコルスキー博士は完成発表時のインタビューで、完成させた目的をこう答えている。

「もちろんフルダイブエロ動― 人類に新たなステージを用意したかったからです。(以下中略) ――世界の人々に仮想現実空間を体感してもらい、楽しんで貰いたいですね。世界中の人々の笑顔が僕にとっては、何よりの報酬ですよ。ハッハハハハ…… 」

 博士には“ノーベル賞”と“イグノーベル賞”が与えられたのは言うまでもない。

 2023年 日本 S県R町

 周囲は山に囲まれ緑が目に優しく空気が美味しい田舎町で、主人公“天原彩音あまはらあやね”が生まれ育った場所である。

 彼女の家は住宅密集地から離れた場所にあり、辺りには民家は2~3軒しかない。
 彩音の家は代々剣術道場を営んでおり、門下生もそれなりにいて祖母と母が指導にあたっている。因みに祖父は農業をしていて、父は会社員として働いている。

 彩音は17歳の高校二年生で身長155cm、黒い髪は肩までのセミロングで剣術の稽古の時はポニーテールにしている。瞳の色は茶色で肌の色も白く、顔立ちは非常に整っている美少女だ。

 剣術の腕前は、8歳からの修行と運動神経の良さからかメキメキ上達し、今では奥伝まで伝授されている。

 だが、彩音の性格はやや気弱で引っ込み思案なところもあるので、その剣術の腕が活かされることはなかった。

 だが、真面目な性格なので剣術の鍛錬は祖母や母の言いつけどおりに毎日こなしており、高校へも体力と筋力作りとして、バスや電車を使用せずに自転車で登校している。

 また、彼女は読書が好きで、特にファンタジー小説を好んで読んでおり、中でも魔法が出てくる作品が好きなのだ。

 特にヒロイン達が格好良く活躍する作品が好みで、いつか自分もカッコよく活躍したいと思っていて、それが厳しい鍛錬継続の原動力となっている。

 その容姿から、男子に告白されることがあり本人も恋愛に憧れはあるが、上記の性格から異性との交際に不安と戸惑いを感じていて、今のところ全て断っていた。

 そんなある日、近くに住む幼馴染で親友の”川山陽かわやまはる(17)”が、彩音の部屋にやってきてこのようなことを提案してきた。

「ねぇ彩音ちゃん。一緒にフルダイブ型VRMMOの【トラディシヨン・オンライン】をしない?」

 ちなみに陽は、彩音と違い性格も明るく社交的で、オシャレにも気を使っており頭の回転も速いので友達もそれなりにいる。容姿は長めの少し茶色い髪、顔立ちは彩音よりやや劣るがそれでも可愛い部類に入る。

 だが、彼女にも彼氏はいない。その理由はオタクだからである。正確に言えば男性二人がいれば、そういう目でしか見れない腐った娘なのである。

「えっ? 陽ちゃん。ぶいあーるえむえむ… おー? って何?」
「知らないの? 今話題沸騰中の超人気ゲームだよ?」

「ごめんなさい。私、そういうこと疎くて……」
「じゃあ、私が教えてあげるよ」

【トラディシヨン・オンライン】は、シコルスキー博士が完成させ流通させている【フルダイブ用∨Rヘッドセット】【ArksVR】に対応した多人数参加型のオンラインゲームで、彼の会社が半年前にサービスを開始させた世界初のフルダイブ型VRMMORPGでもある。

 剣と魔法、そして銃を扱って戦うファンタジーの世界が舞台となっており、プレイヤー人数は100万人とも言われている。

 博士は当初18禁のフルダイブゲームを計画していたが、会社内部と各種団体からの猛反対を受けて断念したという逸話があるとかないとか……

「へぇ~そうなんだ~。凄いね~。でも、それなら私なんかより、もっと上手な人と一緒にやった方が楽しいんじゃないかな?」

 彩音は少し遠慮がちにそう言ったのだが、陽は引き下がらない。どうやら彼女にこのゲームを勧める理由は別にあるようだ。陽は続けてこう話す。

「私は彩音ちゃんとやりたいんだよ。いや、彩音ちゃんは、このゲームをするべきだよ!」
「どうして?」

 彩音が不思議そうに首を傾けると、陽がその理由を語り出す。
 陽曰く、このゲームの最大の特徴は、他のユーザーと交流できる点だという。

 つまりゲーム内で他のプレイヤーと交流して、その引っ込み思案と弱気な性格を治そうということのようだ。

「このまま彩音ちゃんが、田舎で人付き合いも禄にせずに、都会の大学生になってしまったら、きっと大学のサークルコンパで強引なチャラ男の押しに負けて、お持ち帰りされた挙げ句に風俗店で働かされて、最後はマグロ漁船に乗せられちゃうよ?!」

「どうして、最後にマグロ漁船!!?」

 彩音は思わずツッコむが、陽はスルーして話を続ける。

「だから、そんな事にならないためにもこのゲームで人と触れ合って、対人コミュニケーション能力を鍛えて、強引なチャラ男に迫られた時に《そこの男のモノをしゃぶってみせろ! 出来ないなら失せろ、三次元!》と言えるようになるんだよ!」

 彩音は、断り方はともかく確かに陽の言うとおりだと思った。

 今までの人生の中で彩音は、他人との交流を避けてきた。それは、自分の中にある引っ込み思案と弱気なこの性格のせいでもあると自分でも分かっていて、克服したいと思っていたからだ。

「これは私がネットで仕入れた情報だけど、都会では彩音ちゃんみたいな美少女には、悪い虫がわんさか寄ってくるはずだから、その対処法を学ぶんだよ!」

 情報ソースがネットという所に少し引っかかったが、陽の言っていることは一理あるように感じられた。なにより自分の事を心配してくれている陽の気持ちが嬉しかった。

「陽ちゃんありがとう! そこまで私の事を心配してくれていたなんて、嬉しいよ! 私、このゲームやってみるよ!」

「うん、よく決意したね」

 陽は笑顔で答える。
 その笑みは、親友が一歩前に踏み出すことを決めた事への嬉しさもあったが、獲物がかかった喜びからくるものでもあった。

 彼女はこのゲームを少し前から、プレイしているが正直少し行き詰まっており、連絡が取りやすい助っ人を求めて、それらしいことを言って彩音を誘ったのである。

(やっぱり、田舎育ちだから純朴で何より人がいいから、すぐに信じてしまう…。これは本当にコミュ力を鍛えさせないとマグロ漁船だよ…。よし! 私がちゃんとサポートしてあげないと!!)

 陽はやや腹黒な所はあるが、幼馴染が不幸になる姿を見たくないと本気で思っているので、彩音を心配する気持ちに嘘はない。そのため彩音が悪い人に引っかからないように、彼女のコミュ力を成長させようと決意を新たにする。

 彩音が陽の言葉を鵜呑みにしたのは、彼女が親友であり幼馴染を信じているからだ。陽の事を信頼しているので、陽が自分を思って行動してくれていることを疑っていないだけである。

 こうして、彩音は陽と共に【トラディシヨン・オンライン】を始めることになった。
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