302 / 386
第8章 少女新たなる力で無双する(予定)
260話 オーガ侵攻軍、到着
しおりを挟むユーウェインによる戦う者達への鼓舞が始まる。
「今日この場にいる、勇敢なる兵士と多勢の有志の冒険者諸君! 共に命をかけて戦うことに感謝する。この戦いにはこの国の……いや、人類の未来が懸かっている! 今回アリシア様が後方から我らの戦いを見守ってくださる事になった」
一同は四騎将の側に凛と佇むアリシアに目がいく。
「よって、我らはアリシア様に、無様な戦いを見せる訳にはいかない。だが、無理な戦いをしろと言っているわけではない。各々が全力を尽くせば、おのずと勇姿を見せる事ができるであろう。だが、オーガは強敵で苦しい戦いになる。だから、敢えて言うおう”死ぬな”と!」
ユーウェインの激励が終わると、いつもの通りそこに居る者たちは、これから行われるオーガとの激戦に挑むために自らを奮い立たせる雄叫びを上げる!
―が、紫音は相変わらず小さな声で「おー!」と鬨の声をあげた。
紫音達が要塞の外に向かおうとするとアリシアが声を掛けに来る。
「シオン様、みなさん。ご武運を…」
紫音達はその言葉に対して、頷きで答えると緊張感を漂わせながら、それぞれの持ち場に向かう。
アリシアが緊張した表情で城壁の上に登ると、ゴーレムを造り出しているアキの姿を見つけて彼女に近寄る。
「いでよ、ロックゴーレム!」
アキがそう言いながら、魔力を込めたエメトロッドを天に掲げると、城壁の下にある魔法陣からロックゴーレムが出現した。
出現したロックゴーレムは、アキの趣味によって全身は丸みを帯びており、可愛い丸い目が二つと何故か猫耳も付いている。
その姿は見た者達が”かわいい”と評して、少し和んでしまう姿をしている。
「アキさんの造ったゴーレム、かわいいですね」
アリシアがそう言いながら、アキに近づいてくる。
「ありがとう、アリシア様。やっぱり、見た目はかわいいほうがいいですからね」
アキは満足そうに自分の造ったロックゴーレムを見ながら、アリシアにそう答えると索敵係が遠くに見えるオーガ軍の姿を発見して要塞中に知らせる。
「遂に来たか。各員戦闘配置!」
その報告を受けたユーウェインは、堀の近くで配置に付いている冒険者達に号令を出す。
今回の堀の縁出口を担当するのは、右端からエスリン、タイロン、ユーウェイン、スギハラ、レイチェルとなってなり、紫音、ソフィー、アフラは遊軍として、少し離れたところで、戦況を窺っていた。
オーガは別名“鬼人”と呼ばれる種族で、その呼び名の通り鬼のような屈強な巨軀で、頭からは数本の角が生えている。
大きさは2メートルから4メートルぐらいで、パワーとスピードの両方を兼ね備えた強敵であった。
紫音は瞑想を始める事にする、自分の性格上オーガが近くに来てからでは、心が落ち着かずに、<無我の境地>に至れないとわかっているからである。
彼女はソフィーとアフラに頼んで、自分の前に立って盾になって貰うと、目を瞑り自分の胸の前で左右の手を組み、人差し指を立てて合わせる<普賢三摩耶印>を結ぶと、瞑想に入る。
信頼できる二人が盾になってくれているので、紫音は安心して心を落ち着かせる事ができて、<無念無想>に到達して<無我の境地>に至ることができた。
「ソフィーちゃん、アフラちゃん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
二人が紫音の声を聞いて、振り返って後ろにいる紫音を見ると、彼女の顔からは緊張が消えて、冷静な表情をしている。
更に纏う雰囲気が、今までと違って穏やかではあるが力強さを感じた。
「ふぇ~、シオンさんいつもと何か雰囲気が違うね」
アフラは彼女から感じ取ったことをそのまま口にする。
(これが、あのダメダメなシオン先輩なの!?)
ソフィーは紫音の変化に、驚きと共に少し戸惑ってしまう。
「シオン先輩。これが、修行の成果なの?」
「そう、これが修行で得た<無念無想>だよ」
いつもならドヤ顔で答える紫音が、穏やかな悟りを得たような表情でそう答える。
(これなら、今回の戦いは期待できそうね)
近くで紫音の様子を見に来ていたクリスは、彼女の雰囲気を見てそう感じ取ると黙って自分の持ち場に戻ることにした。
オーガ軍は要塞の空堀の手前500メートルに到着すると、行軍を止めて四天王二人の号令を受けて隊列を組み始める。
そして、上空からグリフォンに乗ったリーベ(真悠子)とサタナエル(エマ)が、四天王の側に飛び降りた。
<今回はあの二人だけか?>
スギハラが少し離れた持ち場から、ユーウェインの女神の栞にそう連絡してくると、彼はこう返信する。
<油断は禁物だぞ。やつらなら、残り二人を伏兵として、どこかに伏せている可能性はあるからな>
ユーウェインは、スギハラにそう返信を返したが、本心では戦いにくい幼いケルベロス(クロエ)とヘラ(アンネ)がこのまま出てこないことを願い、多くの者達も同じ考えからそう願っていた。
その頃、その二人はアルトンの街にある魔王軍秘密の隠れ家で、魔王の命令で待機しておりクロエは少し複雑な心境でいる。
それは彼女の心の中で、家族同然の真悠子やエマと一緒に戦いたいという気持ちと、友達になったリズやミリアと戦わずに済んだという安堵の気持ちとがせめぎ合い、葛藤していたからであった。
「ヒマなの~」
そんなクロエと違って、幼いアンネは暇を持て余し、オコジョのぬいぐるみを抱えてソファーに座り、足を前後に振りながらそう呟く。
暇そうにしているアンネに、魔王はこのような提案をする。
「そうね、おままごとでもしましょうか」
魔王が”ままごと”の提案をしたのは、ヒマを持て余したままにしておくと、二人が戦場に行ってしまうかもと考えたからであった。
「うわ~い、おままごとするの~。アンネがお母さん役で~魔王様がお父さん役~、クロエお姉ちゃんは子供役なの~。フェンリルは、飼っている犬役をするの~」
「わん!」
フェンリルはかわいい尻尾を振りながら、嬉しそうに鳴く。
「フェンリル、それでいいの!? 狼なのに犬役をするんだよ? 嬉しそうに鳴いて、オマエには狼のプライドがないの!?」
「わん!」
クロエのツッコミを理解していないのか、フェンリルは先程と同じようにかわいい尻尾を振りながら、彼女に向かって嬉しそうに鳴いた。
0
お気に入りに追加
739
あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」
なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。
授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生
そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』
仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。
魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。
常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。
ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。
カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中
タイトルを
「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」
から変更しました。

辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる