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第7章 少女新たなる力を手に入れる

258話 密約 その2

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 ミレーヌは三年前の話をする。

「三年前に私は防がれるのがわかっていたが、王の命令で無傷の魔王に『メテオ』を放ち、案の定魔王にマジックシールドで防がれてしまった。私のメテオは王都前のコンテーヌ平原をクレーター群に変えただけだった…」

 そこから先は、ミレーヌはメテオを放った反動で気を失っていて詳しくは知らないので、アリシアが三年前を思い出して当時の城での話を始めた。

「その後に魔王が、ミレーヌ様のメテオに対する報復で、王城にメテオによる隕石群を落としたのを、王宮魔術士達が総出でマジックシールドを張って防ぎました。ですが、お父様は魔王の力に怯えた貴族達の懇願で騎士団に帰還命令を出して…」

 そして、騎士団は王命により、前線で戦っていた冒険者達を見捨てて撤退して、結果冒険者達に多くの犠牲が出て、人間側の戦力が大幅に下がることになる。

「そして、魔王は騎士団が近づいて来た時に、もう一度王城にメテオを使用し、そのため私を含めた王宮魔術士達はマジックシールドで防ぐことになり、MPを使い果たして騎士団の援護が出来なかった…」

 ミレーヌが当時の事を悔しそうな表情で、語りながら続きを語り続ける。

「魔王はそのまま続けて騎士団と戦闘に入り、騎士団を壊滅まで追い込んだのだ…」

「メテオを放って、MPを大量に消費した後に騎士団を壊滅させるなんて、まさに化け物ですね…」

 アキはヤオイのオロチを倒した紫音なら、いい勝負をすると計算していたが、その魔王の話を聞かされ険しい顔でそう答えることになってしまう。

(はうぅぅ…。魔王って、そんなに強いの……)

 だが、何より一番魔王の話に怯えているのは、ヘタレポニーであった。

 紫音は前述のアキと同じで、新しい自分用の女神武器と【無念無想】を会得した自分なら、あるいは魔王を倒せるのではと甘い考えを持っていた。しかし、魔王の実力を聞かされた彼女は、すっかり意気消沈してしまう。

「今話した通り、私と魔王とでは戦闘力が違いすぎるのに、そのような密約を持ちかけてきたのだ。こちらにとっては、有り難い内容だがな…」

 ミレーヌの説明を一通り聞いたアキは、確かに魔王側には何メリットも無いおかしな密約だと思った。

「多分この密約には、何か真の目的がありますよね…」
「アキ君もそう思うか? では、敵の真の目的は何か解るかい?」
「そこまでは…」

 さすがのアキも判断材料が少ないために、今はそう答えるしか無かった。

 三人は取り敢えず聞きたかった話は聞いたので、明日の戦いに備えて今日はこれで自分の部屋に帰って休むことにする。

 魔王の話を聞いた紫音は、その強さに少し自信を無くしてしまい、元気のない顔で部屋に戻って行く。

 翌朝―
 紫音一行は朝食を済ませると、戦いの準備をして玄関に集合する。

 玄関に最後に現れたアリシアは、青い服の上に白銀の鎧を装着して、腰には彼女の憧れの存在であるセシリアの残した女神武器『キャリブランド』を腰につけて、左手には同じく女神武器の盾『プリドゥエブル』を装備している。

「テンプレ姫騎士装備、キターーーー(゚∀゚)ーーーー!!」

 アキはアリシアの装備を見ると、そう言ってテンションを妙に上げる。

「これは、屈強なオーガ相手に”くっ、ころ”からの、“即堕ち2コマ”の流れになるかもしれない!!」

「”くっ、ころ”? “即堕ち2コマ”? それは、何のことですか、アキさん?」

 アリシアは、一人テンションが上がるアキに謎の言葉について質問するが、彼女は自分の世界に浸って話を聞いていないのか答えない。

「さあ、要塞に行こうか!」

 紫音はそんな親友を尻目に、出発の号令をかける。
 一同はアリシアの用意した馬車と、屋敷にある馬車に乗り込んで要塞に出発する。
 要塞に到着するとユーウェインが、アリシアの出迎えにやってきた。

「アリシア様、お待ちしていました」

「カムラード様、みなさんの足を引っ張らないようにがんばります」

 アリシアがそう答えて、ユーウェインと少し話し合っていると、リディアとクリスが紫音の所にやってきて、彼女をアリシアから離れた所に連れて行く。

 そして、二人は紫音にこのような頼みをしてくる。

「シオンさんに、お願いしたい事があるのだけど…」
「私にできることなら」

 紫音はリディアの前置きに、そのように返事をすると彼女は少し声を小さくして、本題を話し始める。

「実はアリシア様の事なのだけど、シオンさんから前線で戦わないように、上手く説得して欲しいの」

「それは、一体どういうことですか?」

 リディアの少し遠回しの言い方に、まだ少し話が把握出来ていない紫音に、クリスが説明を補足する。

「アリシア様は、今回が初めての実戦でしょう? ソフィーを護衛につけてはいるけど、やはり、あの方が前線でいるとみんな心配で気が散ってしまうの。つまりは、足を引っ張るということね。そこで、今回アリシア様には安全な後方で居てもらうように、アナタから上手くお願いして欲しいの」

 リディアは国に仕えている立場上、アリシアを足手まといとは言えずに言葉を濁したが、冒険者のクリスには関係ないので、合理的な彼女はズバリと理由を言ってくる。

「シオンさんは、アリシア様と大変仲がいいとリズから以前聞いたことがあったから……それで、シオンさんが言ってくれれば、アリシア様も素直に従ってくれるのではと思ったの」

 つまりは、自分達がそのように言えば角が立つので、親しい紫音にアリシアに後方にいるようにお願いして欲しいということであった。

 確かに、紫音も初めて参加した時は途中で気を失ったり、緊張状態が続いたためにテンションがおかしくなったりしている。

 しかも、今回は紫音が初めて参加した時よりも、敵の総数も四天王の数も増え、更にリーベや三義姉妹もいる。

 確実に激戦となるこの戦いでは、アリシアでなくても初心者が参加するのは、とても厳しいであろう。

「わかりました。アリシア様には、私からお願いしてみます」

 紫音も初心者のアリシアが前線で戦うのは、危ないと思い二つ返事で二人の頼みを引き受ける。

 戦いの時が近づき緊張しているアリシアに、紫音は近づくとさっそく説得を開始した。

「えーと、アリシア。少しいいかな?」
「はっ、はい。シオン様…、何で…しょうか?」

 そう返事をしたアリシアの声は、緊張で少し震えて、言葉も上手く紡げていなかった。

「今回の戦いはとても危険だから、初心者のアリシアは後方で待機していたほうがいいよ」

 紫音はストレートにそう言って、アリシアに後方でいるようにと伝える。

「シオン様…。つまり、シオン様は初陣のわたくしは、足手まといだとおっしゃりたいのですか? ご安心ください。わたくしは冒険者育成高等学校での成績は飛び級卒業できるほど優秀でしたし、実戦訓練もちゃんと数十時間こなしています。それに、セシリア様の女神武器だってあります! 確かに、強敵との実戦は初めてですが、足を引っ張るような真似はしません!」

 アリシアは先程までの緊張が嘘のように、後方にいるように勧めてくる紫音に対して饒舌に反論してくる。

 それは、王妹として皆と一緒に前線で戦いたいという責任感からでもあるが、何よりも紫音と一緒に戦いたいという想いからである。

 アリシアは決意に満ちた瞳で紫音を見つめながら、彼女の再三の説得に対して、首を縦に振ろうとしない。

 そこに、サングラスを掛けたアキもとい、ネゴシエーター”ロール・スイス”が話に割って入ってくる。

「アリシア様。私からも少しいいですか?」
「アキさん、何でしょうか? わたくしを説得しようとしても無駄ですよ?」

(どうして、アキさんはサングラスを掛けているのでしょうか?)

 アリシアは説得に来たアキに、そう牽制の言葉を言いながら、心の中ではこう思っていた。


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