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第7章 少女新たなる力を手に入れる

253話 王妹様の新しい護衛役

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 前回のあらすじ
 フィオナとそして、ソフィーと別れることになった紫音は、少し寂しい気分になった。

 #####

 明日のオーガ戦に備えて訓練を続けた紫音達は、夕食の前にアリシアによって食堂に集められるとある人物を紹介される。

「今日より、わたくしの護衛として行動を共にしてもらう、ソフィー・ディアーニュさんです!」

「ツンツンお姉さん。これは、なんの茶番ッスか…」

 リズがアリシアに護衛役として、改めて紹介されたソフィーにツッコミを入れた。

「それは、こっちのセリフよ!」

 ソフィーが帰還そうそう切れの良いツッコミを披露する。

「ソフィーちゃん! また一緒にいられるんだね!!」
「ソフィーお姉さん…」

 紫音とミリアは、再びソフィーと一緒にいられる喜びに、感極まって思わず彼女に抱きついてしまう。

「ちょっと、アナタ達、いきなり…、しょうがないわね…」

 ソフィーは抱きつかれたことに、最初は迷惑そうな感じでいたが、二人の自分との再会に喜ぶ気持ちを嬉しく思い暫く抱きつかれたままでいた。

 そして、その横でアリシアが、目の前で紫音が別の女の子に抱きつくのを見て、当然少し不満そうな表情でいる。

 落ち着いた二人が、彼女から離れて元の位置に戻ると、ソフィーが事の顛末を語りだす。
 それは、3時間前に遡る。

 ソフィーがフィオナの見送りと紫音達との別れを終え、久しぶりに”クラン”の自室に帰ってきて、荷物の入った大鞄を置くと荷解きもせずにクリスに会いに行く。

 すると、クリスは団長室でスギハラ、カシードと共に、誰か偉い人と会話しているとのことだった。

 ソフィーがその間、久しぶりにアフラやノエミと話をしていると、カシードが3人を団長室まで来るようにと呼びに来る。彼のその表情はいつにもなく緊張に包まれていた。

 3人がカシードの後に付いて、団長室に来ると室内は緊張に包まれており、ソファーにはスギハラ、クリス、対面にはミレーヌ、アリシアが座っていた。そして、アリシアの後ろには当然レイチェルが控えている。

「3人を連れてきました」
「ご苦労」

 カシードの報告を受けたスギハラがそう答えると、ミレーヌが3人に説明を始めた。

「まずは、紹介と行こう。私とレイチェルの事は知っているだろうから、割愛させてもらう。こちらにおられるのが、この国の王妹殿下であるアリシア・アースライト様だ」

「お初にお目にかかります。アリシア・アースライトです。よろしくお願いします」

 アリシアはスカートの裾を掴んで、カーテシーで優雅に挨拶する。

「えー!? そんな偉い人なのー」

 アフラがアリシアの周りを物珍しそうな感じで、彼女を見ながらうろつき出す。

「アフラ、失礼よ! すみません、アリシア様」

 クリスがアフラを叱りつけ、アリシアに謝罪する。
 ミレーヌは、咳払いをして場の空気を元に戻すと説明を再開した。

「では、本題に入ろうか。実は明日のオーガの要塞侵攻作戦から、アリシア様が参加することになり、それに伴い新米冒険者である彼女を護衛する役目を、君達“月影”から出向という形で、一名派遣してもらうことになったのだ」

 そして、クリスがここからは”クラン”内の話になるので、説明を引き継いで続けることになる。

「そこで、同性の方が良いということになって、アナタ達3人の中から選ぶことになったのよ。私と団長、カシードは総合能力から満場一致で、“ソフィー”アナタをと思っているわ」

「まあ、私も君なら能力、人柄的に問題ないし、ミリアちゃんも懐いているから、良いと思う。ただし、これ以上ミリアちゃんと距離を縮めて、私のミリアちゃんを奪ったら許さんけどな」

 ミレーヌは、冗談なのか本気なのか解らない事を最後に口走った。

「えー!? お姉様! 私は今日帰ってきたばかりなんですよ!? アフラで良いじゃないですか。この子、最近ゴーレムを倒して、大活躍ですよ!」

 もちろん、ソフィーは渋ってアフラを推薦する。

「わたしー? いいよ、別に!」

「駄目よ。アフラに護衛が務まると思っているの? 護衛を忘れて、他のことに気を取られるに決まっているわ。ノエミはあんな性格だから、アリシア様と意思疎通が出来ないし、アナタしかいないのよ」

「でも……」

 ソフィーが更に渋ると、いつぞや見たやり取りが行われる。

「㋗:わかったわ。じゃあ、アフラに頼むことにするわ」
「㋐:私がやるよー!」

「㋕:俺がやりますよ、副団長!」
「㋜:いや、俺がやるよ!」

「㋨:わたしが……」
「㋞:お姉さま! やっぱり、私がやります!」

「一同:どうぞ、どうぞ」
「㋞:……」

「今回の依頼は、国からの依頼だからギャラが高い。君の頑張りで、このクランの財政が潤って、新しい設備や装備を買うことができる。頼んだぞ、ソフィー」

 スギハラがそう期待を述べると、クリスが続いてソフィーに言葉をかける。

「ソフィー、頼んだわよ。高額のギャラを宛にして、新しい馬車をもうツケで購入したの。だから、しっかり依頼を果たしてね」

「俺も前回の戦いで壊れた盾の代わりに、新しい盾をツケで買ったから頼むよ!」

 続いてカシードも言葉を掛けてくるが、その内容はやはり報酬を宛にした購入の話であった。

 こうして、一同はソフィーに次々と依頼達成とそれによる報酬への期待を言葉にして、彼女を送り出す。

「万年金欠クランの財政のために頼んだぞ、ソフィー!」

「頼んだわよ、馬車― ソフィー!」
「頼んだよ、タワーシール― ソフィーちゃん」

「がんばってね…、私の新しいダガーちゃん」
「頼んだよー、ご馳走ちゃん!」

「団長以外、私の名前を購入したい物で呼ぼうとしないでよ! あとアフラとノエミは、ちゃんと言い直しなさいよ!!」

 こうして、ソフィーは高額報酬の為にアリシアの護衛役として、再び紫音PTに戻ることになった。

「まあ、こうなるとは思っていたッス」

 ソフィーから、事の顛末を聞いたリズがそう呟いた。

「リズちゃんもそう思っていた?」

 アキはそんなリズにそう声をかける。

「だって、冒険者初心者のアリシア様を私達のPTで、戦闘中に誰がサポートするのかって話ッスよね」

 いざ戦闘となれば、紫音とレイチェルはアタッカーで前に出なければならない。
 リズ、ミリア、エレナ、不定期的に参加するアキも後衛職なのでサポートには向かない。

 それに条件としても、誰でもいいわけではなく身元と能力が信頼できて、尚且同性が望ましい。

 ―となれば、能力と家柄が良くてミレーヌの覚えもよく、アリシアとも多少面識のあるソフィーになるのは容易に推測できた。

 騎士団から派遣されてくる可能性もあったが、それなら昨日あたり来るはずである。
 アキとリズは以上のことから、恐らく90%ぐらいでソフィーになるであろうと予測していた。

「それに、国の依頼を資金難の”月影”、しかも、利に聡いクリスさんが断るわけないッス」

「流石、リズちゃんいい読みしているね♪」
「恐縮ッス」

 アキはリズにそう言葉を掛けながら、彼女の聡明さを改めて感じ取る。
 リズはソフィーに、このような事を尋ねた。

「ツンデレお姉さん、今どんな気持ちッスか? 何も考えずにあんないい感じのお別れシーンをおこなったその日に戻って来ることになった、今の気持ちはどんな気持ちッスか?」

 リズはジト目のままだが、口元は明らかにニヤついており、ここぞとばかりに明らかにソフィーを煽っていた。

(どうして、この子はすぐに煽るんだろう…)

 一同がそう思っていると、ソフィーは体を小刻みに揺らしながらこう答える。

「どういう気持ですって…? こういう気持ちよ!!」

 ソフィーは怒りに任せて、肩から掛けていた大鞄を力任せにリズに投げつけた。

「当たりはしないッス!!」

 だが、リズは軽やかにその女神の大鞄を回避すると、運悪く側にいたミリアの足元に大鞄はドスンと大きな音を立てて落下する。

「はぅぅぅ…、うぅ…」

 当然ミリアは飛んできた大鞄にびっくりして、半泣きになってしまう。
 そして、更に運が悪いことにミレーヌが帰ってきており、その泣きそうになっている可愛い姪の姿を見て静かにキレる。

「おい…、ツンデレにジト目…。私の可愛いミリアちゃんに何してくれてんだ?! 鞄が当たって、ミリアちゃんが怪我したらどうしてくれるんだ!? この事が原因でミリアちゃんが鞄を嫌いになって、大きなリュックを背負うようになって、動物娘と動物園に冒険の旅に出ることになったらどうしてくれるんだ!?」

 ミレーヌは、まず入り口近くにいたリズの頭を掴み、素早く移動するとソフィーの頭を掴む。

「「イタタタタ!!」」

 右手にソフィー、左手にリズをアイアンクローで持ち上げて、仁王立ちするミレーヌの姿はまるでオーガを連想させる。

 親友と優しくしてくれるお姉さんが、敬愛する叔母にアイアンクローされている姿を見て、怯えているミリアのその横には、同じく怯える憧れのお姉さんがいた。


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