295 / 386
第7章 少女新たなる力を手に入れる
253話 王妹様の新しい護衛役
しおりを挟む前回のあらすじ
フィオナとそして、ソフィーと別れることになった紫音は、少し寂しい気分になった。
#####
明日のオーガ戦に備えて訓練を続けた紫音達は、夕食の前にアリシアによって食堂に集められるとある人物を紹介される。
「今日より、わたくしの護衛として行動を共にしてもらう、ソフィー・ディアーニュさんです!」
「ツンツンお姉さん。これは、なんの茶番ッスか…」
リズがアリシアに護衛役として、改めて紹介されたソフィーにツッコミを入れた。
「それは、こっちのセリフよ!」
ソフィーが帰還そうそう切れの良いツッコミを披露する。
「ソフィーちゃん! また一緒にいられるんだね!!」
「ソフィーお姉さん…」
紫音とミリアは、再びソフィーと一緒にいられる喜びに、感極まって思わず彼女に抱きついてしまう。
「ちょっと、アナタ達、いきなり…、しょうがないわね…」
ソフィーは抱きつかれたことに、最初は迷惑そうな感じでいたが、二人の自分との再会に喜ぶ気持ちを嬉しく思い暫く抱きつかれたままでいた。
そして、その横でアリシアが、目の前で紫音が別の女の子に抱きつくのを見て、当然少し不満そうな表情でいる。
落ち着いた二人が、彼女から離れて元の位置に戻ると、ソフィーが事の顛末を語りだす。
それは、3時間前に遡る。
ソフィーがフィオナの見送りと紫音達との別れを終え、久しぶりに”クラン”の自室に帰ってきて、荷物の入った大鞄を置くと荷解きもせずにクリスに会いに行く。
すると、クリスは団長室でスギハラ、カシードと共に、誰か偉い人と会話しているとのことだった。
ソフィーがその間、久しぶりにアフラやノエミと話をしていると、カシードが3人を団長室まで来るようにと呼びに来る。彼のその表情はいつにもなく緊張に包まれていた。
3人がカシードの後に付いて、団長室に来ると室内は緊張に包まれており、ソファーにはスギハラ、クリス、対面にはミレーヌ、アリシアが座っていた。そして、アリシアの後ろには当然レイチェルが控えている。
「3人を連れてきました」
「ご苦労」
カシードの報告を受けたスギハラがそう答えると、ミレーヌが3人に説明を始めた。
「まずは、紹介と行こう。私とレイチェルの事は知っているだろうから、割愛させてもらう。こちらにおられるのが、この国の王妹殿下であるアリシア・アースライト様だ」
「お初にお目にかかります。アリシア・アースライトです。よろしくお願いします」
アリシアはスカートの裾を掴んで、カーテシーで優雅に挨拶する。
「えー!? そんな偉い人なのー」
アフラがアリシアの周りを物珍しそうな感じで、彼女を見ながらうろつき出す。
「アフラ、失礼よ! すみません、アリシア様」
クリスがアフラを叱りつけ、アリシアに謝罪する。
ミレーヌは、咳払いをして場の空気を元に戻すと説明を再開した。
「では、本題に入ろうか。実は明日のオーガの要塞侵攻作戦から、アリシア様が参加することになり、それに伴い新米冒険者である彼女を護衛する役目を、君達“月影”から出向という形で、一名派遣してもらうことになったのだ」
そして、クリスがここからは”クラン”内の話になるので、説明を引き継いで続けることになる。
「そこで、同性の方が良いということになって、アナタ達3人の中から選ぶことになったのよ。私と団長、カシードは総合能力から満場一致で、“ソフィー”アナタをと思っているわ」
「まあ、私も君なら能力、人柄的に問題ないし、ミリアちゃんも懐いているから、良いと思う。ただし、これ以上ミリアちゃんと距離を縮めて、私のミリアちゃんを奪ったら許さんけどな」
ミレーヌは、冗談なのか本気なのか解らない事を最後に口走った。
「えー!? お姉様! 私は今日帰ってきたばかりなんですよ!? アフラで良いじゃないですか。この子、最近ゴーレムを倒して、大活躍ですよ!」
もちろん、ソフィーは渋ってアフラを推薦する。
「わたしー? いいよ、別に!」
「駄目よ。アフラに護衛が務まると思っているの? 護衛を忘れて、他のことに気を取られるに決まっているわ。ノエミはあんな性格だから、アリシア様と意思疎通が出来ないし、アナタしかいないのよ」
「でも……」
ソフィーが更に渋ると、いつぞや見たやり取りが行われる。
「㋗:わかったわ。じゃあ、アフラに頼むことにするわ」
「㋐:私がやるよー!」
「㋕:俺がやりますよ、副団長!」
「㋜:いや、俺がやるよ!」
「㋨:わたしが……」
「㋞:お姉さま! やっぱり、私がやります!」
「一同:どうぞ、どうぞ」
「㋞:……」
「今回の依頼は、国からの依頼だからギャラが高い。君の頑張りで、このクランの財政が潤って、新しい設備や装備を買うことができる。頼んだぞ、ソフィー」
スギハラがそう期待を述べると、クリスが続いてソフィーに言葉をかける。
「ソフィー、頼んだわよ。高額のギャラを宛にして、新しい馬車をもうツケで購入したの。だから、しっかり依頼を果たしてね」
「俺も前回の戦いで壊れた盾の代わりに、新しい盾をツケで買ったから頼むよ!」
続いてカシードも言葉を掛けてくるが、その内容はやはり報酬を宛にした購入の話であった。
こうして、一同はソフィーに次々と依頼達成とそれによる報酬への期待を言葉にして、彼女を送り出す。
「万年金欠クランの財政のために頼んだぞ、ソフィー!」
「頼んだわよ、馬車― ソフィー!」
「頼んだよ、タワーシール― ソフィーちゃん」
「がんばってね…、私の新しいダガーちゃん」
「頼んだよー、ご馳走ちゃん!」
「団長以外、私の名前を購入したい物で呼ぼうとしないでよ! あとアフラとノエミは、ちゃんと言い直しなさいよ!!」
こうして、ソフィーは高額報酬の為にアリシアの護衛役として、再び紫音PTに戻ることになった。
「まあ、こうなるとは思っていたッス」
ソフィーから、事の顛末を聞いたリズがそう呟いた。
「リズちゃんもそう思っていた?」
アキはそんなリズにそう声をかける。
「だって、冒険者初心者のアリシア様を私達のPTで、戦闘中に誰がサポートするのかって話ッスよね」
いざ戦闘となれば、紫音とレイチェルはアタッカーで前に出なければならない。
リズ、ミリア、エレナ、不定期的に参加するアキも後衛職なのでサポートには向かない。
それに条件としても、誰でもいいわけではなく身元と能力が信頼できて、尚且同性が望ましい。
―となれば、能力と家柄が良くてミレーヌの覚えもよく、アリシアとも多少面識のあるソフィーになるのは容易に推測できた。
騎士団から派遣されてくる可能性もあったが、それなら昨日あたり来るはずである。
アキとリズは以上のことから、恐らく90%ぐらいでソフィーになるであろうと予測していた。
「それに、国の依頼を資金難の”月影”、しかも、利に聡いクリスさんが断るわけないッス」
「流石、リズちゃんいい読みしているね♪」
「恐縮ッス」
アキはリズにそう言葉を掛けながら、彼女の聡明さを改めて感じ取る。
リズはソフィーに、このような事を尋ねた。
「ツンデレお姉さん、今どんな気持ちッスか? 何も考えずにあんないい感じのお別れシーンをおこなったその日に戻って来ることになった、今の気持ちはどんな気持ちッスか?」
リズはジト目のままだが、口元は明らかにニヤついており、ここぞとばかりに明らかにソフィーを煽っていた。
(どうして、この子はすぐに煽るんだろう…)
一同がそう思っていると、ソフィーは体を小刻みに揺らしながらこう答える。
「どういう気持ですって…? こういう気持ちよ!!」
ソフィーは怒りに任せて、肩から掛けていた大鞄を力任せにリズに投げつけた。
「当たりはしないッス!!」
だが、リズは軽やかにその女神の大鞄を回避すると、運悪く側にいたミリアの足元に大鞄はドスンと大きな音を立てて落下する。
「はぅぅぅ…、うぅ…」
当然ミリアは飛んできた大鞄にびっくりして、半泣きになってしまう。
そして、更に運が悪いことにミレーヌが帰ってきており、その泣きそうになっている可愛い姪の姿を見て静かにキレる。
「おい…、ツンデレにジト目…。私の可愛いミリアちゃんに何してくれてんだ?! 鞄が当たって、ミリアちゃんが怪我したらどうしてくれるんだ!? この事が原因でミリアちゃんが鞄を嫌いになって、大きなリュックを背負うようになって、動物娘と動物園に冒険の旅に出ることになったらどうしてくれるんだ!?」
ミレーヌは、まず入り口近くにいたリズの頭を掴み、素早く移動するとソフィーの頭を掴む。
「「イタタタタ!!」」
右手にソフィー、左手にリズをアイアンクローで持ち上げて、仁王立ちするミレーヌの姿はまるでオーガを連想させる。
親友と優しくしてくれるお姉さんが、敬愛する叔母にアイアンクローされている姿を見て、怯えているミリアのその横には、同じく怯える憧れのお姉さんがいた。
0
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~
片海 鏡
ファンタジー
――――主人公の為に世界は回っていない。私はやりたい様にエンディングを目指す
RPG顔負けのやり込み要素満載な恋愛ゲーム《アルカディアの戦姫》の世界へと転生をした男爵令嬢《ミューゼリア》
最初はヒロインの行動を先読みしてラストバトルに備えようと思ったが、私は私だと自覚して大好きな家族を守る為にも違う方法を探そうと決心する。そんなある日、屋敷の敷地にある小さな泉から精霊が現れる。
ヒーロー候補との恋愛はしない。学園生活は行事を除くの全イベントガン無視。聖なるアイテムの捜索はヒロインにおまかせ。ダンジョン攻略よりも、生態調査。ヒロインとは違う行動をしてこそ、掴める勝利がある!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる