242 / 386
第6章 逆襲の魔王軍(仮)
203話 オーク本拠点前
しおりを挟む前日、豪胆なアキの推理漫画のトリックに突き合わされた紫音であったが、睡眠も十分に取れて体調に問題はなかった。
―が、例の二人はあの後深夜まで盛り上がったのか、睡眠不足といった顔をしている。
「アキちゃん、エレナさん、二人共大丈夫?」
「大丈夫です、紫音さん……」
心配した紫音が二人に声をかけるとエレナはそう答えるが、少し眠そうに見えた。
そして、アキからはこのような返事が帰ってくる。
「大丈夫、大丈夫…。クオンちゃん……」
「全然大丈夫じゃないよね?! 私の名前、間違えているよ!?」
紫音は朝からアキに、中々キレのある突っ込みを行う。
「まったくしょうがない、お姉さん達ね……」
ソフィーが呆れた表情で、そう言いながら近づいて来る。
「ソフィーちゃん、私をこの駄目なお姉さん達と一緒にしないで……」
紫音は日頃の自分のダメさを棚に上げて、私は違うといった感じを出す。
「あの二人も、きっとアナタにだけは言われたくないと思っているわよ。それにそんなこと言って、数時間後に駄目なお姉さんになるんでしょう、シオン先輩?」
ソフィーは、少し意地悪な感じで紫音にそう言う。
「ソフィーちゃん、大丈夫だよ。私だって、そう何度も何度も駄目な所は見せないよ。人とは日々成長するモノだからね」
すると、紫音はキメ顔でそう言ったが、ソフィーには振りにしか思えなかった。
駄目なお姉さん達にかわりソフィーが馬車の操縦をして 、“月影”メンバーと合流するために街の外まで馬車を走らせると、そこにはアフラやノエミ達“月影”のメンバーがすでに待っていた。
合流を果たした紫音達が要塞前まで来ると、エスリン率いる護衛部隊が待っている。
「私達も一緒に行きます」
エスリンとの対話のために紫音が馬車の荷台から降りてくる。
「エスリンさん、ありがとうございます」
「気にしないで、これは人類の未来の為なのだから。ところでアキはどうしたの?」
「それが…… 睡眠不足で馬車の中で寝ていまして…… きっと、アキちゃんは今日の事で、眠れなかったんだと思います……」
エスリンの質問に対して紫音は、彼女から目を反らしながら親友をかばう為にそれらしい理由を言って答えた。
彼女もその紫音の態度を見て察したのか、他愛のない会話を少しした後に自分の馬車に戻って行く。紫音達はオーク本拠点に行ったことがある“月影”の馬車を先頭にして、隊列を組んで本拠点に向かった。
その頃、リーベ達の隠れ家では―
「ねえ、魔王様。リズちゃん達から連絡で、今日からオーク本拠点に行くから暫く連絡とれないって来たんだけど、私達は何もしなくていいの? オーク侵攻軍も殲滅されたみたいだし……」
クロエが魔王にこのような意見をしていた。
「そうね……。本拠点を落とされるのは最悪仕方ないとしても、『魔物精製魔法陣』と『魔力吸収宝玉』を人間達に与える訳にはいかないわね……」
そ魔王は漫画を描く手を止めて、少し考えたあとにこう述べる。
「ただ、今の私達にはその余力がない。漫画のスケジュールがギリギリなのよ……」
現状の状況がそれを許さないことも説明した。
「だったら、私が行ってくるよ! 私が本拠点まで行って、『魔物精製魔法陣』の破壊と『魔力吸収宝玉』の回収をしてくるよ!」
それを聞いたクロエがこのように提案すると、魔王はすぐさまその提案を却下する。
「駄目よ。子供のアナタ1人に危険な任務を任せられないわ」
「じゃあ、アンネもクロエお姉ちゃんと一緒にいくの~。二人だから、大丈夫なの~」
その魔王の反対を聞いたアンネが、閃いたとばかりに自分も行くといいだすが、もちろん魔王にすぐに却下さてしまう。
「駄目よ。保護者無しで、子供だけで遠出したら駄目って習ったでしょう?」
二人は子供扱いしてくる魔王にブーブーと不平を鳴らしている。
(とはいえ、『魔物精製魔法陣』と『魔力吸収宝玉』が人間達の手に渡れば、碌な事にならないのは目に見えている……)
魔王は悩んだ末に、一つの決断を下す。
「エマ、クロエ、アンネ。アナタ達3人は今からオーク本拠点に向かって、『魔物精製魔法陣』の破壊と『魔力吸収宝玉』を回収してきてちょうだい。今から準備して向かって、作業を行えば夜には完了するはずだから、向こうで一泊して朝になったら帰ってきなさい」
「人間達と戦わないでいいの?」
魔王の指示を聞いたクロエは、このように質問する。
「大軍同士の戦いとは甘いものじゃないわ。作戦が無ければ、いくら個人が強くても勝てないのよ。そして、その作戦を考える余裕は今の私には無いの……」
そのクロエの質問に魔王はこう答えた。
「ごめんなさいね、エマ。アナタも連日の睡眠不足で辛いだろうけどお願いね」
その後エマに申し訳無さそうに言葉をかける。
「いえ、大丈夫です。では、行ってきます」
エマは、クロエとアンネを引き連れて、一泊する準備をすると隠れ家の秘密通路に待機させているグリフォンに乗って、オーク本拠点に旅立っていった。
その頃、紫音達はオーク本拠点の近くにまで到達していて、”月影”がオーク間引き任務の時に使っているキャンプ地を拠点とすることにして、馬車から本日のキャンプに必要な分の物資を下ろす。
テントを張ってキャンプの準備を行うと、護衛役が周囲を警戒している中でアキがゴーレム作成を開始する。
「暇だね~。どうせなら、オーク本拠点内にいるオークを少しでも倒せないかな?」
アキがゴーレム生成魔法陣に魔力を注ぎ込んでいると、警戒だけで暇を持て余した紫音が側に居たソフィーにこのような事を言ってきた。
その言葉に対してソフィーは、すぐさま能天気なポニーを窘める。
「そんな事できるわけないわ。中にいる敵を一匹だけ釣りだそうとしても、もれなく数十匹付いてくるわよ。下手したら四天王まで出てくるわよ!」
「私のハイパーオーラバスターなら、数十匹ぐらい一網打尽にできるし、そのあと四天王1体だけなら、ここにいるメンバーなら倒せるんじゃないかな?」
ソフィーは紫音のその言葉を聞いて、最初は”また、馬鹿なこと言っているわ”と思ったが、確かに紫音、自分、エスリン、リズ、ミリア、アフラ、ノエミなら四天王を倒せるのではないかと考え直す。
ソフィーがエスリンにその事を相談しようとした時、ミーのレーダーが上空から接近するモノを捉えて「ホ―、ホ―」と鳴いて警告を始める。
「ミーが、南の上空より接近するモノがあるって言ってるッス!」
リズがミーの警告をみんなに報告すると、ノエミや偵察係はすぐさまイーグルアイで南の空を見ると、グリフォンがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「グリフォン1体接近!」
偵察兵が、エスリンに報告すると彼女は戦闘準備の号令をかける。
「全員、戦闘準備!!」
エスリンが戦闘準備の号令をかけると、そこにいた者達は次々と武器を構えて上空の敵に対して戦闘態勢を取った。
0
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜
蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。
行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー!
※他サイトにて重複掲載しています
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~
片海 鏡
ファンタジー
――――主人公の為に世界は回っていない。私はやりたい様にエンディングを目指す
RPG顔負けのやり込み要素満載な恋愛ゲーム《アルカディアの戦姫》の世界へと転生をした男爵令嬢《ミューゼリア》
最初はヒロインの行動を先読みしてラストバトルに備えようと思ったが、私は私だと自覚して大好きな家族を守る為にも違う方法を探そうと決心する。そんなある日、屋敷の敷地にある小さな泉から精霊が現れる。
ヒーロー候補との恋愛はしない。学園生活は行事を除くの全イベントガン無視。聖なるアイテムの捜索はヒロインにおまかせ。ダンジョン攻略よりも、生態調査。ヒロインとは違う行動をしてこそ、掴める勝利がある!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる