上 下
117 / 386
第4章 冒険者の少女、新しい力で奮戦する

82話 かしらもじF

しおりを挟む






 時は遡り紫音が、アキと修羅場を終えて部屋で寝ていた日
 紫音がいないため暇になったソフィーは、”月影”のクラン施設に顔を出しに来ていた。

 彼女がクリスを探して団長室に行くと、中から言い争っている声が聞こえてくる。
 ソフィーが団長室に静かに入ると、アフラとクリスが言い合っていた。

「副団長! 私のミトゥトレット返してよ!」
「駄目よ! こんなリスクのある武器、使わせるわけにはいかないわ」

 アフラがクリスに没収された、ミトゥトレットの返品を求めていたが、クリスはアフラの返品要請を却下する。

「私が貰ったモノなんだから!」
「アフラ。あの武器は反動がでかすぎる、多用すべきじゃない」

 スギハラも彼女の身を案じて反対した。

「団長まで、そんなこと言うの!?」

 ソフィーは同席しているカシードに説明を求め、彼はトロール戦での顛末を彼女に説明する。

「私がいない間にそんな事が……」

「それで、昨日までアフラちゃんが丸三日眠っていて、副団長達が彼女のガントレットを危険な武器だと判断して没収したんだよ。それで、朝からずっとこの調子なんだよ」

「アフラ! お姉様や団長の言うことのほうが正しいわ!」
「ソフィーちゃん!? どうしてここに?」

 アフラは突然現れたソフィーに驚きつつも、こう言って彼女にも言葉で噛み付く。

「ソフィーちゃんは、黙っててよ!」

「いくら強力でも、一回使っただけでそんなダメージを受ける武器なんて、使わない方がいいに決まっているじゃない!」

 ソフィーは、アフラの態度に腹が立って言い返す。

「もう、体だって右腕だって大丈夫だよ!」

 アフラは大丈夫なのをアピールするために、右腕をブンブン回したりパンチを打ってみたりする。

「アフラ……」
「え!?」

 アフラは突然後ろから声をかけられ振り向くと、そこには今まで気配を消していたノエミが部屋の壁際に立っていた。

 そして、ノエミは彼女が振り向くと同時にバナナを投げてくる。

「アフラ…、そのバナナあげる……」

 アフラはその飛んできたバナナを、反射的に右手で掴もうとするが、上手く掴めずに下に落してしまう。

「ありゃ……」

 アフラは掴めずにそんな声を出すと、床に落としてしまったバナナを拾い上げる。

「どこが、大丈夫なのよ! 掴めていないじゃない!」
「今のは、不意を突かれたからだよ!」
「いつものアナタなら掴めていたわよ」

 ソフィーが、アフラにそう言って睨み付ける。

「それは……」

 アフラは周りを見ると、みんながソフィーの意見を肯定するように頷いて、自分の右手の違和感を認めるとクリスは彼女にこう告げる。

「暫く様子を見るために預かることにするから、その間リハビリでもしてなさい」
「はい……、モグモグ……」

 アフラはバナナを食べながら、その決定に対して頷く。

「ところで、ソフィー。アナタどうしてこんな所にいるの?」

「シオン・アマカワが、誰かに会いに行くって、昨日からどこかに行ってしまったんです。だからお姉様に会いに来ました!」

(そう、シオンはオータム801氏に会いに行ったのね……。私の方はカードゲーム作者と結局アポを取ることが出来なかった。シオン、頼みはアナタだけよ)

 クリスは抱きつこうとしてくるソフィーの頭を押さえて、近付かせないようにしながらそう考えていた。

 時は現在に戻り紫音がアキの過去の話を聞き終わった次の日、朝食を終えて二人がのんびりしていると、外から馬車の走ってくる音が聞こえ、暫くするとカリナが部屋に入ってくる。

「先生、お待たせしました! 新刊が刷り上がったのをお持ちしましたよ」

 アキは新刊を受け取ると、急いで持ってきてくれたカリナにお礼を言う。

「カリナさん、ありがとうございます。これで、ナタリーさんやフィオナ様に会いに行けます」

「カリナさん、お茶をどうぞ」

 紫音が急いで持ってきてくれたカリナに、一息ついてもらうためにお茶を出す。

「シオンさん、ありがとうございます」

 カリナはお茶を飲んで一息つくと、アルトンの街の話をする。

「いやー、それにしても昨日からアルトンの街は大騒ぎでしたよ。何でも、今日フラム要塞に侵攻してくるリザード軍を率いる四天王が二人も来るそうで、もう冒険者達は大騒ぎですよ。最近では参加していなかった、クランまで参加するとかで多くの冒険者が要塞に向かっていましたよ。リタイアした私としては、是非無事で帰ってきて欲しいと思いました」

「そうなんですか。それは大変ですね……」

 アキは新刊のチェックをしながらそう相槌を打つ。

「ところで、シオンさんは今回の要塞防衛戦は参加しないんですか? まあ、ここからではもう間に合わないとは思いますが……」

 カリナがそう言って、紫音を見ると

「あわわわ……」

 紫音がお茶を持ったまま、そう言葉にならない声を出して顔面蒼白で固まっている。


(やってしまったのですね、シオンさん!?)
(やっちゃったんだね、紫音ちゃん!!)

 二人は紫音のその姿を見てすぐさま察した。

「どっ、どうしようアキちゃん!? 私急いで要塞に行かないと!!」

 紫音は慌てて、武器を取ると腰に差して屋敷を飛び出そうとする。

「紫音ちゃん落ち着いて! ここは田舎だから、次の定期馬車はまだまだ先だよ! カリナさん、馬車を借りていいですか!?」

「はい、使ってください!」
「ありがとう、カリナさん! 紫音ちゃん着いてきて!」

 アキはカリナに礼をすると、外に置いてあるカリナが乗ってきた馬車の御者台に乗り込む。

「詩音ちゃん乗って!」

 紫音もカリナに礼をすると、急いで馬車に乗り込む。

「紫音ちゃん、飛ばすからしっかり捕まっていて!」
「うん!」

 アキは馬に鞭を打つと馬車を走らせる。

「アキちゃん、間に合うかな!?」

 紫音がアキに質問するとアキはこう答える。

「やるしかないでしょう? それに、この周辺は私の走り慣れたホーム。速さなら誰にも負けないよ!」

 アキは馬にムチを打ち続け馬車をさらに加速させる。

「アキちゃん、スピード出し過ぎじゃない? もう少しでカーブがあるよ、曲がり切れるの?」

「私のハチマルイチ(801)号は、一度スピードが落ちると再び加速するのに時間がかかる。このスピードを維持しながらコーナーを曲がるわ」

「アキちゃん、そんな事出来るの!?」

 紫音の質問にアキは自信ありげにこう答えた。

「大丈夫! やり方は漫画で見たから!! 見せてあげる、腐女子屋ドリフトを!」

 もちろんそんな答えに安心できるわけもなく、紫音はアキにすぐさまツッコミを入れる。
「アキちゃん、腐女子屋ドリフトって何!? 嫌な予感しかしないよ!?」

 アキのハチマルイチは、two-horse cart(二頭立て)から叩き出される2hp(馬力)のパワーで、コーナーの入り口を目指して加速していく。

「今だ……、溝走り!」

 ハチマルイチが、コーナーに入った時、アキは馬車の内側の前輪をコーナーの溝に落す。
 溝に車輪を引っ掛けながら走ることにより、ハチマルイチは遠心力に負けずに高速でコーナーを曲がっていく!

 はずもなく、引っ掛けた車輪は衝撃に耐えきれずに壊れてしまう。

「あ~れ~!!」

 カーブの途中でアキは車輪の外れた衝撃により、御者台から遠心力で外側に飛ばされる。
 車輪の壊れた馬車は、そのまま地面を速度が落ちるまで擦りながら進み何とか止まる。

 壊れた馬車の荷台部分から、紫音は急いで駆け寄ってきたカリナに無事救出される。

「大丈夫ですか、シオンさん?!」
「わ、私はなんとか……。アキちゃんは?!」

「ワタシも無事だよ~」

 アキはカーブの外側にあった茂みに、突き刺さった状態で声を出していた。

 御者台から投げ出された所に、運良く茂みがあったためそれがクッションとなって大怪我に至らなかったようだ。

「つい不運と踊っちまったぜ……」

 !?

 そう言った彼女の表情は茂みに刺さったままなのでわからないが、恐らく不良漫画みたいな顔をしているに違いない。

「そんな余裕があるってことは、大丈夫そうですね」

 カリナは茂みに突き刺さったアキを引っ張り出しながらそう言った。

 今回の事故で紫音はHP-10、アキはHP-30のダメージを受けた。
(※馬好きの皆様、馬は2頭共無事です、ご安心ください)

 ちなみに500メートルぐらいしか進んでいない。


 次回予告
「オッス、ワタシ紫音。遂にリザード軍が攻めてきたぞ。みんな、私が行くまで持ちこたえてくれ! 次回、”間に合え、紫音! リザード軍襲来!!” 絶対見てくれよな!」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。  行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー! ※他サイトにて重複掲載しています

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

処理中です...