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第4章 冒険者の少女、新しい力で奮戦する
82話 かしらもじF
しおりを挟む時は遡り紫音が、アキと修羅場を終えて部屋で寝ていた日
紫音がいないため暇になったソフィーは、”月影”のクラン施設に顔を出しに来ていた。
彼女がクリスを探して団長室に行くと、中から言い争っている声が聞こえてくる。
ソフィーが団長室に静かに入ると、アフラとクリスが言い合っていた。
「副団長! 私のミトゥトレット返してよ!」
「駄目よ! こんなリスクのある武器、使わせるわけにはいかないわ」
アフラがクリスに没収された、ミトゥトレットの返品を求めていたが、クリスはアフラの返品要請を却下する。
「私が貰ったモノなんだから!」
「アフラ。あの武器は反動がでかすぎる、多用すべきじゃない」
スギハラも彼女の身を案じて反対した。
「団長まで、そんなこと言うの!?」
ソフィーは同席しているカシードに説明を求め、彼はトロール戦での顛末を彼女に説明する。
「私がいない間にそんな事が……」
「それで、昨日までアフラちゃんが丸三日眠っていて、副団長達が彼女のガントレットを危険な武器だと判断して没収したんだよ。それで、朝からずっとこの調子なんだよ」
「アフラ! お姉様や団長の言うことのほうが正しいわ!」
「ソフィーちゃん!? どうしてここに?」
アフラは突然現れたソフィーに驚きつつも、こう言って彼女にも言葉で噛み付く。
「ソフィーちゃんは、黙っててよ!」
「いくら強力でも、一回使っただけでそんなダメージを受ける武器なんて、使わない方がいいに決まっているじゃない!」
ソフィーは、アフラの態度に腹が立って言い返す。
「もう、体だって右腕だって大丈夫だよ!」
アフラは大丈夫なのをアピールするために、右腕をブンブン回したりパンチを打ってみたりする。
「アフラ……」
「え!?」
アフラは突然後ろから声をかけられ振り向くと、そこには今まで気配を消していたノエミが部屋の壁際に立っていた。
そして、ノエミは彼女が振り向くと同時にバナナを投げてくる。
「アフラ…、そのバナナあげる……」
アフラはその飛んできたバナナを、反射的に右手で掴もうとするが、上手く掴めずに下に落してしまう。
「ありゃ……」
アフラは掴めずにそんな声を出すと、床に落としてしまったバナナを拾い上げる。
「どこが、大丈夫なのよ! 掴めていないじゃない!」
「今のは、不意を突かれたからだよ!」
「いつものアナタなら掴めていたわよ」
ソフィーが、アフラにそう言って睨み付ける。
「それは……」
アフラは周りを見ると、みんながソフィーの意見を肯定するように頷いて、自分の右手の違和感を認めるとクリスは彼女にこう告げる。
「暫く様子を見るために預かることにするから、その間リハビリでもしてなさい」
「はい……、モグモグ……」
アフラはバナナを食べながら、その決定に対して頷く。
「ところで、ソフィー。アナタどうしてこんな所にいるの?」
「シオン・アマカワが、誰かに会いに行くって、昨日からどこかに行ってしまったんです。だからお姉様に会いに来ました!」
(そう、シオンはオータム801氏に会いに行ったのね……。私の方はカードゲーム作者と結局アポを取ることが出来なかった。シオン、頼みはアナタだけよ)
クリスは抱きつこうとしてくるソフィーの頭を押さえて、近付かせないようにしながらそう考えていた。
時は現在に戻り紫音がアキの過去の話を聞き終わった次の日、朝食を終えて二人がのんびりしていると、外から馬車の走ってくる音が聞こえ、暫くするとカリナが部屋に入ってくる。
「先生、お待たせしました! 新刊が刷り上がったのをお持ちしましたよ」
アキは新刊を受け取ると、急いで持ってきてくれたカリナにお礼を言う。
「カリナさん、ありがとうございます。これで、ナタリーさんやフィオナ様に会いに行けます」
「カリナさん、お茶をどうぞ」
紫音が急いで持ってきてくれたカリナに、一息ついてもらうためにお茶を出す。
「シオンさん、ありがとうございます」
カリナはお茶を飲んで一息つくと、アルトンの街の話をする。
「いやー、それにしても昨日からアルトンの街は大騒ぎでしたよ。何でも、今日フラム要塞に侵攻してくるリザード軍を率いる四天王が二人も来るそうで、もう冒険者達は大騒ぎですよ。最近では参加していなかった、クランまで参加するとかで多くの冒険者が要塞に向かっていましたよ。リタイアした私としては、是非無事で帰ってきて欲しいと思いました」
「そうなんですか。それは大変ですね……」
アキは新刊のチェックをしながらそう相槌を打つ。
「ところで、シオンさんは今回の要塞防衛戦は参加しないんですか? まあ、ここからではもう間に合わないとは思いますが……」
カリナがそう言って、紫音を見ると
「あわわわ……」
紫音がお茶を持ったまま、そう言葉にならない声を出して顔面蒼白で固まっている。
(やってしまったのですね、シオンさん!?)
(やっちゃったんだね、紫音ちゃん!!)
二人は紫音のその姿を見てすぐさま察した。
「どっ、どうしようアキちゃん!? 私急いで要塞に行かないと!!」
紫音は慌てて、武器を取ると腰に差して屋敷を飛び出そうとする。
「紫音ちゃん落ち着いて! ここは田舎だから、次の定期馬車はまだまだ先だよ! カリナさん、馬車を借りていいですか!?」
「はい、使ってください!」
「ありがとう、カリナさん! 紫音ちゃん着いてきて!」
アキはカリナに礼をすると、外に置いてあるカリナが乗ってきた馬車の御者台に乗り込む。
「詩音ちゃん乗って!」
紫音もカリナに礼をすると、急いで馬車に乗り込む。
「紫音ちゃん、飛ばすからしっかり捕まっていて!」
「うん!」
アキは馬に鞭を打つと馬車を走らせる。
「アキちゃん、間に合うかな!?」
紫音がアキに質問するとアキはこう答える。
「やるしかないでしょう? それに、この周辺は私の走り慣れたホーム。速さなら誰にも負けないよ!」
アキは馬にムチを打ち続け馬車をさらに加速させる。
「アキちゃん、スピード出し過ぎじゃない? もう少しでカーブがあるよ、曲がり切れるの?」
「私のハチマルイチ(801)号は、一度スピードが落ちると再び加速するのに時間がかかる。このスピードを維持しながらコーナーを曲がるわ」
「アキちゃん、そんな事出来るの!?」
紫音の質問にアキは自信ありげにこう答えた。
「大丈夫! やり方は漫画で見たから!! 見せてあげる、腐女子屋ドリフトを!」
もちろんそんな答えに安心できるわけもなく、紫音はアキにすぐさまツッコミを入れる。
「アキちゃん、腐女子屋ドリフトって何!? 嫌な予感しかしないよ!?」
アキのハチマルイチは、two-horse cart(二頭立て)から叩き出される2hp(馬力)のパワーで、コーナーの入り口を目指して加速していく。
「今だ……、溝走り!」
ハチマルイチが、コーナーに入った時、アキは馬車の内側の前輪をコーナーの溝に落す。
溝に車輪を引っ掛けながら走ることにより、ハチマルイチは遠心力に負けずに高速でコーナーを曲がっていく!
はずもなく、引っ掛けた車輪は衝撃に耐えきれずに壊れてしまう。
「あ~れ~!!」
カーブの途中でアキは車輪の外れた衝撃により、御者台から遠心力で外側に飛ばされる。
車輪の壊れた馬車は、そのまま地面を速度が落ちるまで擦りながら進み何とか止まる。
壊れた馬車の荷台部分から、紫音は急いで駆け寄ってきたカリナに無事救出される。
「大丈夫ですか、シオンさん?!」
「わ、私はなんとか……。アキちゃんは?!」
「ワタシも無事だよ~」
アキはカーブの外側にあった茂みに、突き刺さった状態で声を出していた。
御者台から投げ出された所に、運良く茂みがあったためそれがクッションとなって大怪我に至らなかったようだ。
「つい不運と踊っちまったぜ……」
!?
そう言った彼女の表情は茂みに刺さったままなのでわからないが、恐らく不良漫画みたいな顔をしているに違いない。
「そんな余裕があるってことは、大丈夫そうですね」
カリナは茂みに突き刺さったアキを引っ張り出しながらそう言った。
今回の事故で紫音はHP-10、アキはHP-30のダメージを受けた。
(※馬好きの皆様、馬は2頭共無事です、ご安心ください)
ちなみに500メートルぐらいしか進んでいない。
次回予告
「オッス、ワタシ紫音。遂にリザード軍が攻めてきたぞ。みんな、私が行くまで持ちこたえてくれ! 次回、”間に合え、紫音! リザード軍襲来!!” 絶対見てくれよな!」
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