11 / 386
第1章 少女、冒険者目指して奮闘する。
03.5話 異世界到着
しおりを挟むその主要街道まで辿り着くと行き先を示す立て看板が立っていたが、まずはその後ろの景色に目を奪われてしまう。
目の前に広がる平原に存在する、いくつものクレーター群。
多数の隕石が落ちたのか、これが魔物との戦いの跡なのかは分からなかったが、異世界の危険性を改めて認識する思いだった。
紫音は心が不安で折れる前に、気持ちを切り替えて立て看板に目を移す。
すると、一つ目に【北・グリース村】、二つ目に【南・王都フェミース】と書かれていたので、北と南を見てみる。
北には何も見えなかったが、南には遠くに立派な城と城下町が見えた。
(あれが王都フェミース… )
そう思いながら、三つ目を確認する。
【西・聖墓(立入禁止)】と書いてあった。
紫音はその看板の文字を見て、一瞬にして血の気が引いて青ざめる。
転送されたとはいえ、【聖墓(立入禁止)】に入ったことがばれてしまえば、不法侵入の罪で法律次第では最悪『死刑』になってしまうかも知れない。
彼女は<立入禁止>の文字を見なかったことにして、一人言い訳のようにこう発言する。
「私のような田舎育ちには、いきなり都会の王都は怖いから、北のグリース村に行こう!」
紫音は逃げるように早足で、その場を離れてグリース村に歩き出す。
街道の道幅は広いが、元の世界のように路面は舗装されておらず、土や砂利が露出している。
だが、踏みしめられているため、田舎育ちの紫音には歩きにくいことはなく、快適とはいかないが順調に歩みを進めることが出来た。
大きな街道に出て、村の方角も知ることができ犯行現場からも離れた紫音は、少し心に余裕が出た事もあって、腰についている鞄の中身の確認とその中に入っているフェミニースのくれたガイドブックを読みながら歩くことにする。
「でもこの鞄、そんなに大きくないけど収納大丈夫かな。まあ戦闘には、邪魔にならないけど」
鞄を開けるとその中には、目薬ぐらいの大きさの三種類の薬瓶がそれぞれ五本、小さな財布が一つ、とても小さな寝袋のようなものが一つ、そして小さな冊子が入っていた。
(この小さな冊子がガイドブック? 文字が小さくて読みにくそう…)
そう思いながら、指で摘んで鞄から取り出す。
すると鞄から出た途端、小さな冊子が普通のサイズのガイドブックになった。
どうやら、不思議な力で鞄に収めたものは小さくなるらしい。
「ということは、この目薬も寝袋も袋も取り出すとちゃんとした大きさになるんだ」
紫音は気分を入れ変えて、さっそくガイドブックを読み始める。
「えーと、“まずこのガイドブックが入っていた鞄は【女神の小鞄】といって、鞄の入り口に入る大きさの物なら、生物以外は小さくして収納することができます。但し重さは変わらないので気をつけるように。続いて財布にはこの世界のお金が20万ミース入っています、1ミース1円なので計画的に使ってください”」
紫音がガイドブックをそこまで読むと、前から複数の馬の歩く音と馬車の走る音が聴こえてきた。
「馬車だ! 始めてみたよ!」
流石に田舎育ちの紫音とはいえ、馬車を見るのは初めてであり、馬車での移動を見た彼女は、ここが異世界である事を改めて実感する。
紫音が邪魔にならないように道から少し離れて歩いていると、前から白馬に乗った騎士を先頭に豪華な馬車が近づいてきた。
先頭を歩く白馬に乗った騎士が、紫音に気づき声を掛けてくる。
「道を開けてくれて感謝する」
そう礼儀正しく、一礼して通り過ぎていった。
騎士への返礼に頭を下げた紫音がちらっとその騎士を見ると、金髪で少し長髪の誠実そうな爽やかイケメンだ。
(すごいイケメン…、それに声もすごく格好良かった。アキちゃんが勧めてくれたゲームに出てきそうな人だったな……)
イケメンで一度痛い目を見ている紫音は、それ以上の思考をストップして、再びガイドブックに目を移し少し早足で歩き始める。
少し早足なのは、先程の一団に【聖墓(立入禁止)】の件を知られたら不味いという、後ろめたさであった。
「隊長、先程何故わざわざあの者に声をかけたのですか?」
しばらく進んだところで、先程の白馬に乗った騎士に馬車を操っている騎士が質問してくる。
「あの少年には、なにか運命じみたものを感じたからかな……」
(あの黒い髪と瞳、それに腰につけていた東方国の武器【刀】、アイツと同郷かもしれないからな)
隊長と呼ばれた騎士は親友の事を思い出しながらそう答えた。
紫音が男の子に間違われたのも仕方がない。
ポニーテールは男性もするし、服装は丈夫さ優先の体のラインの出ない冒険者服、下も動きやすい半ズボンにタイツ、お洒落のかけらもない機能性重視のブーツとすね当て、紫音自慢のAAサイズも鉄の胸当てで見えないという、フェミニース様の活躍する女性コーデだったからである。
あと紫音が声を出さなかったのも原因だ。
男の子と間違えられた紫音は、そんな事も露知らずにガイドブックを見ながら、街道を歩いていた。
紫音は少しでもこの世界の情報を得るために、ガイドブックをさらに読み進める。
「三種類の薬は赤が回復薬・黄がオーラ回復薬・緑は万能治療薬です、危なくなったら使いなさい。その寝袋は【女神の寝袋】で広げればさらに大きくなり、あらゆる環境下で安眠を約束してくれます」
(女神シリーズ高性能過ぎる!)
と思いながら続きを読む。
「この世界の魔物は、倒すと魔石という石に変わります。強い魔物であればあるほど、高純度な魔石を多く落とします。それを回収し教会に売ることで収入を得るといいでしょう」
なるほど、そうやって稼いでいくシステムなのかと感心しつつ次を読む。
「そうやって集められた魔石は、各町にあるフェミニース教会にある【女神の炉】で【魔石電気】という、あなたの世界で言えば電気に近いものに変えられ、各家庭に送られ人々の生活を助けます」
「この世界にも電気みたいなものがあるんだ―― 電気あるの!?」
紫音は異世界らしからぬ設定に、ひとり突っ込んだが
「楽ができるならいいか、えーと続き続きと… 」
家電製品に囲まれて暮らしてきた彼女には、むしろ喜ばしい情報なのでよしとした。
「旅をする時はできるだけ大きな道を歩きなさい、魔物に襲われにくくなります。あと、女の子の一人旅は危険です、男の子のふりをしなさい。もっと知りたければ、自分で調べなさい。それもまた、あなたが目指す<できる女性>になるためです。最後にあなたの未来に祝福がありますように。 フェミニース」
「フェミニース様……、ありがとうございます」
ガイドブックを胸に当て、眼を瞑り胸の中で再び感謝する紫音であった。
そして目を開けた時、自分がガイドブックを読むのに夢中で街道を大きく逸れて森の近くまで来ていた事に気付く。
10
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜
蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。
行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー!
※他サイトにて重複掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる