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第1章 少女、冒険者目指して奮闘する。

01.5話 2人の女神(1)

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 紫音はようやくミトゥースに追いつき、暫く無言で彼女の後ろに付いていくが、この気まずい空気に耐えられなくなって、話しかけることにする。

「それにしても、びっくりしました。私は天国の神殿って、雲の上に柱がいっぱい立っている建物だと思っていたので」

 ミトゥースに神様の神殿は、雲の上に建つパルテノン神殿みたいなイメージだと思っていた事を話すと彼女からはこのような言葉が返ってくる。

「何か寒そうな建物のイメージね。でも、あのオフィスは冷暖房完備だから、とっても快適よ。まあ、強いて悪い所を言えば、お姉様と離れ離れな所ね!」

「そうなんですね… 」

 ミトゥースに敬愛するお姉様の事で会話を返されても、紫音にはこのように答えるしかなかった。

 暫く歩くと目的地に近づいたのか、ミトゥースは歩きながら、後ろを着いてくる紫音にこのように注意を促す。

「この先に私の大先輩にあたる、別の世界を管理する素晴らしい女神がおられるの。決して粗相の無いようにね」

「わかりました、粗相の無いように気をつけます」

(この女神様より、もっとすごい女神様ってどんな方だろう。まあ、さっきから話に出ている<お姉様>って、方だと思うけど…)

 とはいえ、ミトゥースが敬愛する女神様である以上、立派な女神様に違いないと思うと、自ずと緊張感が増す。

 そう思いを巡らせながら紫音が、光の通路を歩いていると、目の前に大きく立派な扉が見えてくる。

 扉の前まで来ると、紫音の緊張感は否が応でも増してくる。

(どんな人だろう? 緊張する~)

 紫音が緊張していると、ミトゥースが扉を4回ノックする。

「どうぞお入りなさい」

 すると、扉の中から凛々しい女性の声で、入室を許可する言葉が返ってきたので、

「失礼します」
「しっ 失礼します」

 二人は入室の挨拶をしてから、扉を開けて入室する。

「指示通り、天河紫音を連れてまいりました」

 部屋に入ると、ミトゥースは背筋を伸ばしかしこまった感じで、部屋の主に用件を報告した。

「ご苦労さまです、ミトゥース」

 そう言いながら、その女上司女神様は2人に近づいてきた。

 先輩女神はミトゥースより、さらに見事にパンツスーツを着こなしたまさにできる女上司という女性だった。

 見た目は20代後半といった感じで、立ち姿も凛々しく仕事ができる理想の働く女性という印象を受ける。

(ミトゥース様が、尊敬するのも無理はない素敵な女性だ…。あと、思いっきり影響を受けている!)

 先輩女神を見た紫音はそう思い、自分もその素敵な姿に憧れる。

「始めまして紫音。私は女神フェミニース、あなたの居た世界とは別の世界の管理と、そこにいるミトゥースの教育係を任されている― 」

 そこまで言い終わると、フェミニースはミトゥースのブラウスの首元のボタンが外れていることに気付く。

「ミトゥース、服装はきちんとしなさい。これだから女は仕事を甘く見ている、女は仕事ができないと男達から言われるのです。いいですか? そういう隙を男達に見せてはいけないのです」

 フェミニースはミトゥースのボタンをはめ直しながら、厳しく、そして優しく諭すように注意した。

「はい、申し訳ありませんお姉様」

 そう答えたミトゥースだったが、憧れのフェミニースがすぐ近くにいることが嬉しくて、注意は耳に入っていない。

「職場では先輩と呼びなさい、ミトゥース」

 フェミニースは働く女性としての意識が低い後輩にまた注意するが、

「はい、申し訳ありません。おねえさま~」

 嬉しさの絶頂のミトゥースには、聞こえていなかった。

 紫音は学生時代に、自分も後輩相手に同じように注意していたような気がすると思いつつ、ミトゥースのボタンがこの部屋に入る前まできっちり締められていたことは、黙っておくのが大人の賢い選択だと思った。

 浮かれるミトゥースを放置し、フェミニースは本来の用件を紫音に説明し始めた。

「紫音。アナタがここに連れて来られたということは、アナタが私の試験を合格したということです」

「試験というのは、何の事ですか?」

 当然、紫音は疑問に思い試験について質問する。

「それはあなたが自分の命を捨ててまで他人を守り、そして自分の死よりも女の子の命を心配する、思いやりと正しい心を持っているかという試験です」

 その会話から紫音は、先程のミトゥースとの会話が試験であったことに気付く。

「まさかそんなお人好しの人間が、まだいるとは思わなかったわ」

 さっきまで浮かれていた、ミトゥースが仕事モードに戻ってそう呟いたが、フェミニースの側なので、すぐに表情が緩んでしまう。

「私は紫音が、試験を必ずクリアすると信じていました。だからこそあなたを選んだのですから」

 フェミニースは、さらに説明を続ける。

「ここからが本題なのですが、私の管理する世界にあなたを転生させます。そこで世界が認めるような活躍する女性となって欲しいのです」

 高校生の彼女には、正直世界が認める活躍なんて言われても、雲を掴むような目標であったし、そんな能力などもちろんなかった。

「私はたしかに多くの人の役にたてる立派な女性になりたいと思っていますが、世界が認めるなんて大それたことまでは……」

「紫音、そんな志の低いことでどうするのですか!」

 弱気な紫音を一喝したフェミニースであったが、彼女が不安な表情を浮かべたままであった。

 優秀なフェミニースには、これぐらいの目標で不安がる紫音を理解出来ず、しかも、<紫音を活躍させたい>と意気込みすぎて明らかに説明不足であり、表情を曇らせたままの紫音を見て本人も困ってしまう。

 ここで、先程まで緩んでいたミトゥースが、そんな事など無かったように、<デキる新人OL女神>を見せつけるように補足説明を行う。

「安心しなさい。お姉様が管理する世界は特別だから、普通の高校生のあなたでも努力次第ではそうなれるから」

 ミトゥースが先輩と呼ぶ気がないのか、フェミニースに気に入られている紫音に対抗してなのか、お姉様と呼んで仲が良いアピールをしつつ、更に補足説明をしてくる。

「お姉様の管理する世界は、お姉様が女性でも男性に負けずに活躍できるように、管理者が世界に干渉する事でどうなるかというモデルケースとして、試験的に運用することが大神様から許された世界なの」

 さらに尊敬するお姉様の世界の説明を、誇らしげに続けるミトゥース。

「その世界では女性は、男性にも負けないよう『女神の祝福』という身体強化が付与されるの。但し神として不平等になってはいけないので、心根の正しい男性にもある程度女神の祝福は付与されるわ。さすがはお姉様、なんて慈愛に満ちているのかしら」

 その説明から、ミトゥース様の女性運動思想は、憧れのフェミニース様の影響なのかと納得した紫音だった。

「だから、女性でも男性に負けないくらい魔物退治で、活躍できるようになっているのです。なので、魔物をバンバン倒して、活躍してください」

 フェミニースはさらりと、とんでもないワードを口にしたので、紫音は直ちにそのとんでもワードの意味を質問する。

「魔物? 今、魔物って言いました!?」

 紫音の質問に、フェミニースは彼女を安心させるために、こう付け加えた。

「大丈夫です、紫音。そのために特別な戦闘スキル、そして魔法もあります。だから、魔物をガンガン討伐して、活躍してください」

(女神様、そういうことじゃないです!!)

 紫音はとっさに言いかけた突っ込みを飲み込むと、こう言って魔物と戦うのは無理だと意思表示する。

「私は、死ぬまで平和な日本に住んでいたのです。戦いなんて、ましては魔物とだなんて戦えません!」

 だが、フェミニースは、紫音にこのように聞き返してくる。

「でも、紫音。あなたは、十年間剣術修行をしていたではないですか。それは、先祖のように立派に戦って、人の役に立ちたいと思っていたからではなかったのですか?」

 紫音は女神のその質問にこう答える。

「それは、幼い時はそう思っていましたが……。そもそも、天河天狗流は対人用であって、魔物ようではありません!」

 すると、戦いを拒否し続ける紫音に、フェミニースは息が掛かるくらい顔を近づけた。
 近くで見るフェミニースはとても美しく、同性の紫音でも動揺してしまう。

 その近すぎる2人の姿を見て、紫音よりさらに動揺しているミトゥース。

 それを尻目にフェミニースは、紫音の頬に優しく手を当てると金色に輝く瞳で、紫音の瞳を真っ直ぐに見据え優しく囁いた。

「大丈夫です。あなたならできます、紫音…」

 すると、不思議なことに紫音の心の不安は消え去り、何故か自信が漲ってきた。

「私、頑張って魔物退治して、フェミニース様のご期待に応えてみせます!」

 そして、紫音はこのようなやる気に満ちた返事をしてしまっていた。

 紫音を前向きにさせたフェミニースの行為が、暗示だったのか洗脳だったのかは、まさしく女神のみぞ知ることであった。

 後にこの日のことを、自分の日記にミトゥースが記している。

 <お姉様にあんな至近距離で見つめられて、天河紫音が羨ましかった! でも、私は負けない! あと、今日もお姉様は素敵だった♡♡♡>




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