85 / 386
第3章 冒険者の少女、新しい力を求める
54話 謎の影、遂に現る・・・
しおりを挟むこの世界には獣人本拠点以外に、各地に生み出される獣人達が集まって小規模や中規模拠点が造られる。
その拠点の奥には、獣人達がどこからか集めた貴重な金属や宝が宝箱に収められており、大手ギルドはもっぱら要塞防衛よりも、貴重品の手に入るそちらの攻略を優先させていた。
とはいえ、拠点にはそれなりの高レベルの魔物がいて、戦力はそれなりに必要になる。
紫音とクリスが話し合いをした次の日、アルトンの街から南東に二日行ったところにあるオーガ野営陣に、大型クラン”龍の牙”がその宝を求めてやってきていた。
”龍の牙”は団員数50名で、”月影”のような突出した個はいないが、総合的な戦力では上である。”龍の牙”はいつも通りの手段で、まず拠点の外にいるオーガを各個撃破させていく。
「よし、次は拠点内部のオーガを殲滅するぞ! そうすれば、宝は俺達のモノだぞ!」
そうクランメンバーを鼓舞したのは、団長のダーレン・ウィンターであり彼は歴戦の猛者で、冒険者ランクSスキルランクAAの実力者であった。
”龍の牙”が拠点内部のオーガと戦闘を仕掛けようとした時、地面に大きな影が三つ現れる。
「何だ!?」
団員達がその影の正体を確かめるため空を見上げると、大きなグリフォンが三体空を飛んでいた。
「馬鹿な……!? どうしてこんな所にグリフォンが、しかも三体も突然現れるんだ!」
彼らが驚くのも無理はなかった。グリフォンが一度に三体も現れることは、今までなかったことだからだ。
すると、グリフォンの背中から全身黒い女性用鎧を着た女魔戦士が、”竜の牙”の後方に飛び降りてきた。
飛び降りてきた女魔戦士の顔は仮面で誰かはわからないが、黒い金属で造られた薙刀のような武器を持つ姿は只者ではないことが解る。
「何者だ、キサマ! 魔王の部下か!?」
「何者って? 聞かなくても解るでしょう? アナタ達を斃すものよ」
ダーレン・ウィンターが黒い女魔戦士に問いかけると、黒い女魔戦士は¥、悪意に満ちた笑みを浮かべそう答えた。
黒い女魔戦士が、薙刀の刃の部分の下に付いた宝玉に魔力を込め掲げると、彼女の前に大きな魔法陣が現れ黒く輝き出す。すると、その中から高レベルのロックゴーレムが現れた。
「さあ、やりなさい。ロックゴーレム!」
その命令を聞いたロックゴーレムは、”龍の牙”を襲い始める。
「さあ、もう一体いくわよ!」
黒い女魔戦士は先程と同じ手順で、もう一体ロックゴーレムを造り出す。
「アナタも行きなさい!」
ロックゴーレムに命令を出すと、彼女は薙刀を高らかに掲げると薙刀の宝玉が赤く輝く。
「オーガ達、アナタ達も攻撃を開始しなさい! そうそう、女は殺しちゃ駄目よ。あとイケメンと素敵なオジサマもね。魔王様はイケメンが大好きだから、お土産にするわ!」
そう指示を出すと、拠点からオーガ達が次々と出てきて、”龍の牙”達を背後から襲い始める。前からロックゴーレム2体、後ろからオーク達に襲われた”龍の牙”団員達は、苦戦を強いられ次々と戦闘不能に追いやられていく。
黒い女魔戦士は高級魔力回復薬を飲みながら、余裕の態度で高みの見物を決めている。
「このままでは、厳しいな……。だが、あの女魔戦士を斃せば魔物への命令が解けて、逃げ出せるかもしれん」
ダーレン・ウィンターは最後の望みをかけ、ロックゴーレムの攻撃を掻い潜り女魔戦士に突進した。
「私を斃せば……って訳ね。いいわ、相手になってあげる」
黒い女魔戦士は飲んでいた薬を捨てると、ダーレン・ウィンターが近づいてくる前に遠隔攻撃を行う。
「いけ! ステュムパリデス!」
そう叫ぶと、彼女の背中とマントの間から六つの金属で造られた物体が、彼を目掛けて飛んでいく。
ダーレン・ウィンターは、オリハルコン製の剣の二刀流でその遠隔武器を全て切り払うと、そのままオーラステップで急接近し鋭い斬撃を連続で繰り出す。
その強力な斬撃に、女魔戦士は防戦一方になり追い込まれていく。
「やはりな! キサマのような召喚士タイプは、近接戦闘スキルは大したことない!」
ダーレン・ウィンターの強力な攻撃の前に、遂に女魔戦士は薙刀を弾かれ、手から放してしまった。
「しまった!?」
「これで、終わりだ!」
ダーレン・ウィンターがそう言葉を発して、武器を失った彼女に剣を振り下ろそうとしたその時―!
彼の剣を持った腕と体に激痛が走り、自分の体を見ると体に先程切り払った金属で造られた物体が六つ刺さっている。
「勝ったと思った? 残念! それはね、私が造ったオリハルコン製の鳥型小型ゴーレムで”ステュムパリデス“っていうの」
ステュムパリデスは彼女が造った、特別製のゴーレムである。ゴーレムだから勿論、自立型で動いて目標に攻撃を行う。
オリハルコン製なので、小型でも強力なダメージをその尖った嘴で与えることが出来る。しかも、鳥型なので空を自由に飛んで、死角から攻撃できるため回避も難しい。
「わざと押されている振りをして、油断させたのよ」
女魔戦士はそう言いながら、瀕死の彼を横目に薙刀を拾い上げる。
「こんなゴーレムがあるとは……、ゴフッ」
ダーレン・ウィンターはその場で血を吐いて、力尽き倒れた。
「団長が……」
絶対的なリーダーであったダーレン・ウィンターが敗れたことで、”龍の牙”の団員達は心を折られ次々と敗れていく……
「さてと、抵抗しないなら殺しはしないわ。さあ、オーガ達! 男性団員を全てあのグリフォンに取り付けられている檻に入れなさい。女性団員は街に帰っていいわよ」
男性団員達にはすでに抵抗できるだけの力はなく、オーガ達に檻の中に運ばれていく。
女性団員達は、連れて行かれる者達に負い目を感じながら抵抗する術もなく、重症のリーダーを連れてその場を去っていった。
「精々、派手に宣伝してね……。人間達が、後方でも油断できなくなったことを……」
その女性たちを見ながら、彼女はそう呟いた。
「魔王様に、いいお土産が出来たわ。さあ、魔王城まで帰るわよ!」
女魔戦士はグリフォンの背中に乗ると、グリフォン達に命令を出し魔王城に帰還するためその場を後にした。
0
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜
蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。
行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー!
※他サイトにて重複掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる