66 / 386
第2章 新米冒険者、異世界で奮闘する。
41話 手土産を持って
しおりを挟む紫音とミレーヌ、眠っているエルフィを乗せた馬車は洋菓子屋の前に停まった。
「シオン君、少し待っていてくれ。手土産を買ってくるから」
(よかった、殴り込みじゃなかったんだ。そうだよね、ミレーヌ様みたいな肩書の偉い人が、姪が泣かされそうになったからって、そんな事をするわけないよね……)
ミレーヌの言葉を聞いた紫音は、”ホッ”と安堵する。
てっきり彼女が可愛いミリアちゃんを虐めた”月影”(主にソフィー)に、殴り込みに行くと思っていたからだ。
だが、手土産を持っていくということは、そういうことでは無いようだ。
「待ってください、私もコートを借りたお礼に何か買っていきます」
紫音はミレーヌを追って馬車から降りると、一緒にケーキ屋に入りケーキを五つほど買うと馬車に戻ってきた。
「では、行こうか」
再び馬車は動き出し、クラン”月影”の本拠地に向かう。
クランの本拠地は大きな施設のため、街の居住区ではなく郊外にある。
これは、”月影”の本拠地だけではない。
馬車の中で紫音は、ミレーヌに昨日からの疑問を投げかけた。
「ミレーヌ様はミリアちゃんの要塞防衛戦には、絶対反対を貫くと思っていました」
「そうだな、正直今も反対ではある。だが、ミリアちゃんが冒険者を続けるなら、危険な戦いは避けられない。なら、今回のことはいい機会かもしれないと思ってね……。それに、昔から言うではないか、“可愛い子には、旅をさせろ”や、“マンティコアは子供を谷に落として、戻ってきたものだけ育てる”と……」
(最後の諺は聞いたこと無いけど、つまり敢えて厳しくして試練を与えるということかな? ミレーヌ様も厳しい時は厳しいみたい…)
ミレーヌの決意ともいうべき言葉を聞いた紫音は心の中で感心する。
「ただ私はマンティコアじゃないから、谷の下にクッションを置いてミリアちゃんが落ちても大丈夫なようにするけどな!」
だが、彼女は親指を立てて、キリッという表情でそう言い放った!
(あっ、やっぱり大甘なのか……。すると、あの手土産は”月影“の人に、そのクッション役になって貰うためなのかな?)
紫音はそのように推察してみる。
しばらく馬車に揺られていると、馬車は”月影”の本拠地に到着した。
「着いたな。さあ、行こうか」
ミレーヌは手土産を片手に、紫音は手土産とコートを両手で持って馬車を降りる。
“月影”の本拠地施設に入ると、団員の1人が近づいてきて用件を訪ねてきたので、ミレーヌは毅然とした態度で答えた。
「スギハラに会いに来た。彼は団長室かね?」
「はっ……、はい! そうであります!」
団員はミレーヌ相手に緊張しているようだ。
「では、勝手に会いに行くから、君は作業を続けたまえ」
ミレーヌの話しを聞いた団員は、「はっ!」と返事をすると慌てて作業に戻っていった。
「では、団長室に行こうか」
ミレーヌは、勝手知ったる様子で団長室に向かって歩いていく。
どうやら、何回かここへは着ているようだった。
団長室と書かれた扉の前に立つと、ミレーヌは深呼吸を一回する。
「オラァ! スギハラはいるか!!!」
そして、その言葉とともに扉を勢いよく蹴ると、扉は大きな音と共に勢いよく派手に開いた!
(えええーーーーー!!)
紫音は突然のミレーヌの暴挙に驚く。
「えっ!? なっ何!?」
部屋の中にいたスギハラも、突然の出来事にさすがに驚いている。
団長室には、要塞防衛戦の打ち合わせをしていたスギハラ、クリス、カシード、ソフィー、アフラがいて、一同も突然の出来事に虚を突かれ驚いていた。
「何の……御用でしょうか、ミレーヌ様?」
何とかいち早く冷静になったクリスが、ミレーヌに近づいてきて用向きを伺う。
「何の用だと!? お前達が私との約束を破ったから、ここに来ているんだろうが!」
ミレーヌは怒りの表情でクリスの問いに答えた。
「約束を破ったとは……一体、どういう事ですか?」
スギハラは全く覚えがないといった感じでミレーヌに質問する。
そのスギハラにミレーヌは、態とらしく大きくため息をついた後に説明を始めた。
「忘れたのか!? 三年前の約束を! お前がこのクランを立ち上げる時に、私の所に資金の援助を頼みに来た時に約束しただろうが! 援助する代わりに将来、私の可愛い姪のミリアちゃんが敵対クランにいた時は、ミリアちゃんにだけは手を出さないと!」
「はい、そう約束しましたが…。約束通り手は出していませんよ?」
スギハラの弁解を聞いたミレーヌは、更に怒りを増してこう言い放つ。
「だったら! 何でこのツンデレツインテールに、ミリアちゃんが二回も泣かされそうになってんだ!?」
そして、ミレーヌは件のソフィーの頭をアイアンクローで掴む。
「いたたたたたっ!」
さすがのソフィーも、まさかいきなりアイナックローをされるとは思っていなかったので、回避できずにその鉄の爪の獲物となってしまう。
「いや、本当に知りませんよ!?」
スギハラは昨日遠くから見ていたので、大きめの帽子を被って顔が見えづらかったミリアを認識していなかった。
「何をしらばくれているんだ! 居ただろうが一昨日と昨日、シオン君と一緒に!」
そこまで、怒り狂っていたミレーヌではあったが
「私より少し薄い青い髪の色で、髪は少しカールしていて~、大人しそうだけど聡明な感じのする、すごく可愛らしい表情の大きな帽子を被った魔法使いの少女が~」
一転してデレデレの表情になって可愛い姪の説明をする。
「「「「あの子かーーーー!!!!」」」」
スギハラ、クリス、カシード、ソフィーは、その説明で一瞬にして頭にミリアの顔が思い浮かんだ。
「まあ聞いた話によるとカシード君とアフラ君は、ミリアちゃんを助けてくれたそうだからその礼をしよう。これはその御礼のドーナツだ」
ミレーヌは右手にソフィーを掴んだまま、左手でドーナツの入った箱をカシードに渡す。
「あ、ありがとうございます…」
「ドーナツ!!」
カシードがドーナツを受け取ると、アフラがそう言いながらカシードに近寄ってきたので、彼は状況がそれどころではなかったので彼女にそのままドーナツの入った箱を渡した。
「まあ、君も後で謝ったみたいだからこれで許してやろう」
ミレーヌは涙目のソフィーを開放する。
アフラがドーナツを頬張りながら、黙ってドーナツを1つ差し出すとソフィーは、まだ少し涙目のまま受け取ったドーナツを口にした。
0
お気に入りに追加
724
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる