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第1章 少女、冒険者目指して奮闘する。

17話 旅立ちの前

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 ここまで読み続けて頂いている方なら、すでに察していると思われますが
 前回、最後に

「紫音が兵器となり、戦争に祈りを捧げる死の司祭となる―」と書きましたが、

 検討を重ねた結果、この娘の性格ではもう一回ぐらい転生させるか、口の悪い海兵隊の鬼軍曹に鍛えてもらうわないと無理だという結論に至りましたので、今回もゆるゆるとした話になることをご了承ください。


 #####


 悲劇の事件が起きて、紫音がプリンに癒やされ部屋に戻ってくると、事件の話が伝わったアリシアから心配の通信が送られてきた。

 ”学校の規則がなければ、わたくしが直接会ってシオン様をお慰めするのに……”

 アリシアは、大変残念そうな声でこのような言葉を送ってきた。

 彼女の通う【冒険者育成高等学校】は、国が運営する即戦力となる冒険者を育てる施設で入学者は朝から晩まで訓練を受ける。

 休日も一ヶ月の間に一日しか与えられない。
 そのため休日の多くを聖墓への墓参りに費やしたアリシアは、暫くは外出できない状態であった。

 アリシアとの会話の後、紫音は就寝時間までオーラ技の練習をする。
 練習を終え、部屋に戻りシャワーを浴びて今日という日に早く別れを告げようとベッドに入ろうとする。


 すると、部屋の扉を誰かがノックしたので、紫音は誰か来たのかと思って扉に近づく。

「誰ですか? エレナさん?」

 紫音がノブを引き、扉を開けると扉の前に立っていたのは、アリシアだった。

「アリシア!?」
「来ちゃった……」

 紫音が驚いていると、頬を赤く染めながらアリシアがそう言うと、紫音はすぐさま危険を察知して扉を閉めようとする。

 ―が、アリシアもすぐさま反応して、扉に足を挟んで閉められないようにしてから、部屋の内部に向かって扉を押してきた。

「シオン様、どうして扉を閉めようとするのですか!? せっかく会いに来たのに、ひどいじゃないですか!?」

 アリシアは笑顔でそう言いながら、紫音が閉めようとする扉を徐々に押してこじ開けてくる。

(成長したのは私だけじゃない、アリシアもちゃんと成長しているんだ……)

 少し感心しながら必死に扉を閉めようとするが、腕力の差は相変わらず彼女の方が上だった。

「シオン様とスギハラ様の決闘のお話を聞いて、心配で寮を抜け出して来たというのに酷いです! というか、エレナさんってどなたですか?! どのような関係ですか!!?」

「PTメンバーだよ! 誰かさんと違ってグイグイ来ない、お淑やかなお嬢様タイプだよ!」
 
 その瞬間、扉の開閉勝負はアリシアが勝ったが、部屋の内部に向かって扉を押していたので、そのまま勢い余って部屋になだれ込んでしまう。

 その騒ぎを聞きつけたエレナと宿屋の主人が、紫音の部屋まで来ると部屋の中に見えた光景は、綺麗な金髪をした見た目は完璧のお姫様風の美少女と、重なって倒れている紫音の姿であった。

 駆けつけた二人は「あっ、すみません」と言って、扉を閉めようとする。
 紫音は何とか二人の誤解を解き、アリシアを紹介した。

「友達のアリシアです」

 紫音がそう紹介すると、

「わたくし、シオン様の初めての親友にて、盟友のアリシア・アースライトです」

 と、カーテシーで完璧かつ優雅な自己紹介をした。さすがは王族、外面は完璧だ。

「アリシア様と気付かず、ご無礼をどうかお許しください」

 アリシアの名前を聞いた途端、エレナと主人はその場ですぐさま跪く。

「御二人とも、頭を上げてください。今のわたくしは冒険者育成高等学校に通う一生徒、そしてシオン様の親友のアリシアです。これからもシオン様のことをよろしくお願いします」

 ”どうですか、わたくしシオン様に恥をかかせない見事な振る舞いをしましたよ。これぞまさしく正妻力!”

 アリシアはそういう表情で紫音を見たが、もちろん紫音にその想いは通じなかった。

 そして、その後ほどなくレイチェルに回収され寮に連行されるアリシア。
 後日アリシアは、規則を破ったことを学校でひどく叱られたらしい。

“わざわざ来てくれてありがとう。とても、嬉しかったよ”

 紫音は、女神の栞を取り出すと、アリシアの栞に送る。

「シオンさんが、アリシア様とお知合いだったなんてびっくりしました」
「すみません。驚かせることになると思って黙っていました……」

「はい、凄くびっくりしました。でも、アリシア様って、気品があって凄く素敵な方でしたね」

「あ……、はい。そうですね…」

 紫音は、そう答えるしかなかった。
 下手に本当のことを言って、王族侮辱罪とかになっては困るからだ。
 こうして、長い1日がようやく過ぎる。

 翌日、朝練を終えた紫音に思わぬ来客が訪問してきた。。

「シオン君。昨日のことは、私にも責任があるんだ。昨日のことは本当にすまなかった!」

 昨日の話を聞いたユーウェインが、わざわざ前線の要塞から謝りに来たのだ。

「昨日のことは、私にも責任のあることなので頭を上げてください」

 紫音のその言葉にユーウェインは、申し訳無さそうに続ける。

「そうか、すまない。この借りはいずれ返させてもらうよ。それとアイツの名誉のために言わせて欲しいのだが、アイツは女性に対して恥をかかせるようなことをするようなやつではないんだ。アレは本当に事故だったと分かってやってほしい」

 そう言うと、ユーウェインは再び頭を下げた。

「分かっていますから、あの人がそんな事するような人じゃないってことは。これ以上命の恩人であるユーウェインさんに頭を下げられるのは、こっちが困ります」

 紫音は初めて冒険者組合に行った時に、荒くれ冒険者から助けてくれた時から、スギハラのことは良い人だと思っていたからだ。

 ユーウェインは、最後に紫音に一礼するとその場を後にする。。
 そして、彼が次に向かったのは、スギハラが立ち上げた【クラン・月影】の本拠地であった。

 本拠地は、大規模討伐任務の出発準備で慌ただしい。

「すまんな、忙しい時に」

「いや、構わないさ。うちには優秀な副団長がいるからな。彼女が仕切ってくれるから、俺は暇なんだ」

 スギハラは、久しぶりに会う友人にそう答えた。

「昨日のことはすまなかったな。お前にも彼女にも迷惑をかけてしまった」

「別に俺に謝る必要はねえよ。アレは俺があの子を女の子だって、見抜けなかったのが悪いんだ。俺に謝るより彼女に謝れよ」

「彼女には、もう先に謝ってきたよ」

「そうか…。それより、さすがお前が認めた娘だな。数ヶ月でかなりできるようになっていたぜ。俺の雪月花も防がれちまった」

 スギハラがそこまで言うと、副団長のクリスティーナ=スウィンフォード(クリス)が彼を呼びに来る。

 彼女は三年前のクラン立ち上げ時からのメンバーで、冒険者ランクはB。
 金髪碧眼で容姿端麗、冷静沈着、頭脳明晰のクールな印象を受ける女性で、そのためクランの中でも男女問わず人気があった。

「団長、そろそろ出発準備完了です」
「わかった。すまないユーウェイン、今日はここまでだ」
「ああ、気をつけてな」
 
 そう言うとスギハラはその場を後にして、クリスもユーウェインに一礼すると後を追って歩き出す。

「よーし、お前ら気合い入れていくぞ!」
「団長、あの娘のことはどうするんですか?!」

 スギハラが出発する前に団員を鼓舞すると、団員から質問が飛ぶ。

「その件は、俺が悪いからこれ以上は無しだ!」

「団長がやられたままなんて、このままじゃこのクランの名に傷がついたままになりますよ!」

 その答えに団員から、当然このような言葉が返ってくる。

「そこまでだ、今は受けた依頼に集中しろ! これでこの任務まで失敗したら、それこそクランの名に傷をつけることになるぞ!」

 副団長のクリスが凛とした態度で団員達にそう告げた。
 すると、女性団員から黄色い歓声が飛ぶ。

「そこ五月蝿い!」

 クリスが女性団員を嗜めるとさらに歓声が上がり、彼女はその歓声に頭を抱える。
 こうして、クラン月影は任務に出発した。

 その頃、紫音は村への交通手段を尋ねていた。

「そういえば、パロムの村まではやっぱり馬車で行くんですか?」
「はい、町から町への定期便を乗り継いでいきます」
「どれくらいかかるんですか?」

「そうですね、上手く乗り継げれば三日で着くと思います」

 紫音の質問にエレナが答えると、紫音は“三日”という言葉に反応する。

(三日も馬車で……、これは!)

「三夜連続深夜馬車だけの旅ですね! 最後日はキング・オブ・深夜馬車・パロム号が出てくるんですね! これは熱い展開になりそうですね!!」

「深夜馬車?」

 エレナには紫音が、何を言っているか解らなかった……

 次回、ついに無双回!


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