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38.痛いのも苦しいのも嫌

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「叫ばれる前に口塞いどいて。」

 1人がそう言って、後ろから口を塞がれる。何これ?なにがどうなってこんなことになったの?冬月くんは???

 訳がわからないままなんとか拘束から抜け出そうともがいていると、お腹の辺りでガチャカチャと音が鳴る。やがてシュルッという音とともに、お腹の圧迫感から開放される。

 目の前の男は今しがた引き抜いたそれを僕の顔の近くまで持ってくる。半分に折り畳み、1度弛ませたと思った瞬間、

 ──バチンッ!!!

 大きな音がなり目の前で破裂する。僕は恐怖で全身が硬直した。

「痛いの、嫌だよね?」

 そう言われて、僕は何度も頭を縦に降った。「暴れないし騒がないって約束出来る?」顔を覗かれて訊ねられる。痛いのも辛いのも勘弁して欲しい。僕はまた頭を数回縦に振った。

「もう解放していいよ。なーんでも言うこときいてくれるらしいから。」

 その言葉を聞いて、後ろの男は「なんだよ、無理やりの方が燃えるのに…」とか言いながら舌打ちをして、目の前の男の命令に素直に従って僕の拘束を解く。体の自由を得た僕は、大きくため息をついた。

「今から何があっても全部君の同意があったってことになるけど、それでいいよね?」

 僕の前に立つ男が言う。冗談じゃない。痛いのも苦しいのも嫌なのに、僕がそんなことに同意するわけないだろ。

「嫌だ。」

 僕は相手の顔をはっきり見てそう答えた。相手の眉間がピクっと動く。「痛い目見たいの?」そう言ってまた僕のベルトで脅そうとしてくる。

「痛いのも苦しいのも嫌。僕が嫌だと思うものは全部嫌だって言ってんの。」

 僕は臆することなく、目の前の男にそう言ってのける。前の男は面倒くさそうな顔をして、後ろの男に顎で指示を出す。後ろの男は嬉しそうに僕の体をまた拘束しようとしてきた。

 僕はサッと身を交して入口のドアの方に逃げる。最初は突然の事で避けられなかったけど、体の小さな僕はその分身軽だ。僕を欺いている相手の隙だらけの動きから逃げるなんて簡単だ。

 ただ相手は二人。ドアまでまだ距離がある。ここからは、心理勝負になる。

「僕は、暴れない、騒がない。と約束したはずだよ。逃げないとは言ってない。」

 そう言いながら少しづつドアの方へ後ずさる。見苦しい言い訳だが、ここは、こっちのペースに引き込む方が勝ちだ。僕は毎日秋瀬とこの勝負をしているんだ。負けないぞ。もうすぐ鍵のところに手が触れる。これを回せば逃げられる…

「おい東雲しの・・!早くしろ!」

 ……え、

 一瞬の油断が僕の負けを確定させてしまった。手をぐいっと引っ張られ、今度は様式トイレの上に座らせられてしまう。そんな現実を置き去りに僕は頭を項垂れ、先程の言葉を頭の中で何度も反芻しようとしてた。あいつ今なんて?思い出そうとしても、肝心なところが聞こえなかった。

 僕が何も言わずに黙っているのを見て、命令をしている方の男は拘束する男に僕のベルトを渡す。僕は後ろ手にベルトでしっかり締められてしまった。

 命令していた男は、僕の前髪を引き上げると、「せっかく優しくしてやろうと思ったのに。もうお前いらねぇわ。」と僕の顔に唾を吐いてきた。なんて不潔で下品なやつなんだろう。目の中に入りそうになって、僕は不快な顔をした。

東雲しののめ、好きにしていいよ。」

 今度はちゃんと聴こえた。嘘だ。なんで今あいつの名前をここで聞くことになってるの?僕は、あいつから逃げてここにいるはずなのに。逃げて…?僕はなんで逃げてるの?東雲は、僕の担任で、担任は……

 急に胸の奥から酸っぱいものがあがってくる感覚に襲われた。お昼に食べすぎたこともあって、そのまま僕は前方に不消化のものをぶちまけた。

 二人はそれに驚き、一瞬たじろいだ。この隙に逃げられたかもしれないが、僕はまだ気持ち悪くて、腹の中のものを全て吐き出してしまいたい衝動に駆られた。

 僕が嗚咽を繰り返していると二人は唖然としていたが、ドンドンと扉を叩く音が聴こえた。
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