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3.ある日の放課後のあと~秋瀬side~
しおりを挟む息が弾む。脈がドクドクと速い。視界がうっすら滲む。触らなくても紅潮してるのがわかる。自分は賢い人間だ。馬鹿なことや無駄なことなんてやるはずが無いと思っていた。
なのに、今日の自分はなんと自分らしくなかったのだろう。ただあいつをからかってやるつもりだった。冗談のつもりで口から滑るように出た言葉に、1番狼狽えていたのは実は自分の方だった。
表ではポーカーフェイスを装っていたつもりだが、実際はどうだったのだろうか。その時の自分は、もう自分の感情を隠すことが出来なくなってしまっていたように思う。あぁ、なんて馬鹿なことを口にしてしまったんだろうか。
俺と結婚──
言うんじゃなかった。ただただ後悔しかない。そして、そのあとのあいつの返答が、更に俺の気持ちを落とすことになる。向こうはただの冗談と受けて冗談と返してるだけだろう。自分もそうであるつもりだったし、そうであるべきだった。その時は、もう既にドツボにハマりきってしまっていたのだ。
そのあとどんな会話をしただろうか。なんとなくいつものやりとりをしていた気がするが、正直覚えてない。
唯一、親友に対する同意を求められた時に、自分の感情と関係性について、なんなのだろうかと、真剣に考えてしまった。
親友ってどこからどこまで親友なんだろうか。親友だから一緒にいるのか……親友だから、居心地がいいのか。親友だから、結婚……
いや、おかしい。それは間違ってる。
じゃあこの気持ちは、一体なんなんだ?
考えれば考えるほど頭がぐちゃぐちゃになってきた矢先、クラスメイトの夏木からLINEがきた。
──
なんか落ち込んでんの?
話聞こか?
───
既読にしてしばらく返答に悩んでるとすぐに着信が掛かってきた。
話したら少しは楽になるかも。そう思ってすぐに応答ボタンを押すと、元気な声が返ってきた。
『どないしたん?秋瀬が落ち込むって非常事態ちゃうん。』
「あー、うん。非常事態かもな。」
『えーなんや!秋瀬の非常事態って想像つかへんねんけど。』
「うんまぁ、その、実はさ、ふられたんだよね。」
『…………くぁw背drftgyふじこlp;@:「」!!!!……』
しばらくの沈黙の後に、声にもならない叫び声のようなものが、聞こえ何かワーワーと喚き出したのでボリュームを最小まで下げる。近所迷惑なやつだ。しばらく放っておくと静かになったので、言葉を続けることにした。
「なんかさ、成り行きでポロっと告白した感じになったんだよね。」
『お、おう。』
「自分でもびっくりしちゃってさー、あれ、俺何言ってんだろって思った瞬間、振られてたよね」
『………それは、なんというか、事故……的な?』
「ははっ!いや、ほんそれだわ。」
『あぁ……』
「まぁそこで、冗談だって言えば、冗談で終わってたかもしれないけど。フラれたのが心のほかショック過ぎて、冗談とも返せなくてさー。」
『うん、』
「後悔しかない。」
『そう、やったんか。』
「うん」
『辛かったんやな。』
「うん」
『今でも好きなん?その人のこと』
好きかと聞かれて、好きとはどの好きか一瞬考えて言葉を詰まらせる。
『あぁ堪忍な。デリカシーに欠けとったわ。』
返事が返ってこないことに対して、余計なことを言ってしまったのではないかと狼狽する様子が窺える。
「いや、大丈夫。夏木に話聞いてもらって少し落ち着いた。」
これは本心だ。話しているうちに、窮屈だった胸の辺りが少しだけ和らいだような気がした。
『そうか。それやったら良かったわ。俺なんかで良かったらいくらでも話くらい聞くさかい。』
再び明るい声がスマホ越しから聞こえる。こんな時なんでも打ち明けられる夏木は、俺にとって最高の親友だ。
……そうか。親友とは夏木みたいなやつをいうんだ。
「ありがとう夏木。お前は最高の親友だよ。」
そう素直に伝えてみる。
『なんや秋瀬、いきなり照れるやん。秋瀬こそ、俺にとって最高の親友やで。これからも、末永くよろしゅう頼んます。』
親友だと伝えると親友だと返ってくる。これが親友の関係なのだ。春川は、あの時俺の事を親友だと言ってきたけど、俺は、同じようには答えなかった。俺は、春川のことを親友だと思っていないということか?じゃぁ俺にとって春川は……
『ところで、あいつにはゆうてないん?』
1人でまた考え込みそうになったところへ、夏木が質問してくる。
「ん?あいつって?」
『お前にとってあいつ言うたら春川しかおらんやろ。まさか、俺にゆうて春川にはゆうてないことないやろ。』
俺にとっての優先順位が夏木より春川なことを、夏木は知っているようだった。親友より上とはなんだろうか。
「んー、春川には言ってない。」
『嘘やん。』
「ほんと。」
『え……春川となんかあったん?』
何かあったも何も当事者である。そう答えることも出来ないので、ここは適当に誤魔化すしかない。
「いや?ただ、春川にこんな話したら、当分飯のネタにされそうだからな。」
我ながらいい返答だ。春川はそういうやつなのだ。俺の弱みを見つけると、嬉しそうにそのネタでしばらくウザ絡みをしてくる。
『それは秋瀬、ええ判断したな。』
答えを聞いた夏木は、普段の春川の様子が目に浮かんだのだろう。納得がいった様子が窺えた。
『また辛くなったら、いつでもゆうてや。春川に言えんことは、俺で良かったらゆうてくれてええで。』
「ありがとう、夏木。」
夏木の優しい声が傷心の身に染み渡る。夏木は俺にとって、春川よりも頼りになるし、なんでも話せるやつだ。それでも、俺の中では、何故か春川の方が優先順位が高くて、夏木もそれを知っている。そこで俺は、夏木にある質問を問いかけることにした。
「あのさー、夏木。俺と春川って、親友かな?」
夏木は俺のいきなりな質問に対しても、少し間を置いて真摯に答えてくれる。
『親友かどうかっちゅーんは、当人同士が決めるもんちゃうか?』
確かにそうである。俺と夏木がそうであるように。春川が俺に対してそう思っているように。でも、俺にとって春川は、親友ではないような気がする。俺が黙っていると夏木は、んーと呟いた後、さらに回答を続けてくれた。
『俺から見ると、親友ってより、幼なじみって感じやな。なんや春川と喧嘩でもしたんか?』
いきなり春川との関係性について尋ねたことで喧嘩をしたと思われたようだ。それにしても幼なじみか。思いつかなかったワードに、モヤモヤが少し晴れた気になった。
「いや、そんなんじゃないけど。幼なじみって言われたらそうかもしれない。家が隣でずっと一緒なんだ。」
『そんな前から知り合いなんか。それやったら幼なじみってより兄弟に近いんとちゃうか?秋瀬は春川の面倒ようみとるもんな。』
確かに、春川は俺がいないとダメだと思わせるほどほっとけないやつだった。
「春川は、手のかかる弟だからな。」
俺がそう言うと、その通りだと夏木が笑う。外を見るとすっかり暗闇に包まれている。
「遅くまで相談に乗ってくれてありがとう。そろそろ今日の課題やらないとな。」
『秋瀬がまだ課題終わらせてないの珍しいな。』
「俺のは終わってるんだけど、今日は春川には課題見せてやらなかったから、あいつ終わってないんだよね。」
『早速兄貴ぶりを発揮だな。たまには自分でやらせてもええんちゃう?』
「あいつが1人でやってたら良いんだけど。課題忘れたら放課後あいつ呼び出されるだろ?そしたら一緒に帰れないからな」
『……おう、…そうやな。』
「じゃあそういうことだから、また明日学校で。」
『おん…明日な』
LINEのチャット画面に戻った液晶を眺めながら、弟離れしてないんは、もしかしたら秋瀬の方なんちゃうか?と考える。なにはともあれ、俺にとっても手のかかる弟の春川に早く返信してやらんとな。そう思って、春川のチャットページに戻る。
──
人には触れて欲しくない
悩みもあるから、
明日は秋瀬には
優しくしたり。
───
すぐに既読になり、
──
明日は秋瀬に
優しくする!!!!
───
どう理解したのかはわからないが、力いっぱいの返信が返ってきた。
こうして2人の面倒を見てると、秋瀬も春川も2人とも俺の弟ちゃうか?と、ふと、頭によぎった。
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