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潰れたいちごショートケーキ2

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 今親父は断酒会と病院通いをしながら、警備員の仕事をしている。
 
「調子はどうだい? 親父」
「腐っているより動いていたほうが楽だ。酒のことも考えなくて済むからな」
 牛丼屋で一番安い牛丼を食べている親父のおしんこを指でつまんで口の中にひょいと落とす。
 しゃなりしゃなりと口の中で鳴るおしんこの音に親父の声が混ざる。
「カエデは、どうしている?」
「元気だよ。でも、カエデから親父の話をしない限りは一切こちらから話はしてない」
「そうか。そうだよな」
 丼を手に持ち、かっ込むようにして親父は残りのご飯をたいらげる。
 カエデからあの事件以降親父の話が出たことは一切ない。
 親父が席から立ち上がり、おしんこを手に持って俺と同じようにして口の中にひょいと落とす。
 どことなく、似ている部分があって気味の悪さを感じる時がある。
「じゃあ行くわ。日雇いで忙しいんだ。警備員なんて安い給料でこき使われているよ」
 微かにはにかんだような親父の顔に、よりいっそう深くしわが刻まれていた。
「そう。それじゃあ、また時間ができたら様子見に来る」
「俺は大丈夫だからお前たちはお前たちでちゃんと生きてくれ」
 そう言って足早に親父は牛丼屋を出て行った。
 小さな、小さな背中に見えた。

 カエデの誕生日のためにケーキを買ったが、落とした。夜の交差点に落ちて潰れたケーキの箱を、とっさに拾おうと思っていた。
 街のギラギラした明かりと人ごみの中で。
 
「きゃあ。なんか踏んじゃった。きたなあい」
 カップルの女が交差点の真ん中で叫んだ。
 信号を見ると赤に変わりそうだったので、拾う間もなく俺は人ごみに流されていった。
 バス停の向かい側に牛丼屋が見える。
 しばらく会っていない。そろそろ、親父の様子も見てこないとな、と思いながら、カエデのことを考えていた。
 いちごショートケーキを買いに戻ろうにも、閉店ギリギリで奇跡的に余っていた最後の一個を購入したので、もうないだろう。
 他のケーキ屋を探すにも、このバスで最後だ。諦めて帰るしかない。
 
 バスを待つ。
 白い生クリームに散った赤いイチゴが脳裏に焼きついている。
 きっとあの時親父の影に脅えていたんだろう。
 
「俺たち兄妹だぞ」
「いいの。お兄ちゃんとしたいの。ね? エッチしよう」
 カエデはまるで垢抜けたかのように卒業式の夜、俺を求めてきた。
 今までそんな素振りなんて見せたこともないのに。
「お、おい……」
 カエデは俺の静止を振り切って、ぱっぱと服を脱いでいく。
「ほら、ね?」
「ほらねって言われても」
 カエデは全裸で両手を広げて立っている。
「いや、カエデ、それじゃああまりにもムードが……」
「お兄ちゃん、私の体じゃ勃たないの?」
「カエデ……いや、ホント、なんか、急に言われても異性だと意識してなかったし、反応しないしな」
「じゃあどうすればいいの?そうだ!お兄ちゃんのおちんちん舐めてあげればいいんでしょ?」
「なっ?」
 俺はカエデの言葉にむせそうになった。
「いや、頼むよカエデ。気分が全然乗らない」
 カエデはにじり寄り、俺の手を取り胸に当てる。
「揉んでよ。お兄ちゃん」
 最初は手をカエデの胸に当てていただけだが、ぎこちなく最初の力を入れると、思いのほか柔らかく吸い込まれる感覚にすぐに勃起した。
 やはり抵抗があってスムーズに揉めない。
「なあに?お兄ちゃん女の人の胸触るのはじめてなの?」
「いや、違うんだが……」
(最初の女は見事なまな板状態で揉むものがなかったんだよな……)
 俺がカエデの乳首をつまんでこすりあげると「あん」と甘い声をあげるが、もう勃起して痛いほどになっているのに、まだ最後まで捨てきれない躊躇がある。
 どうしてこんなことをしなければいけないのか、という疑問も拭い去れなかった。
 カエデがズボンを脱がし、トランクスに引っかかるほど勃起した俺のものを出すと「うわあ……凄い。お兄ちゃん私でこんなになったんだね」と言った。
 どことなく情けないような気もして素直に喜べない。
 カエデはひざまずき、俺の勃起したものを口に思いっきり含んだ。ぱくりと。
「いたっ! カエデ! 食べ物じゃないんだから歯立てるなよ」
 その時むっとしたせいだろうか、怒りたい気持ちが今まであったカエデへの躊躇をさらりと洗い流した。
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