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第四章「月光苺」

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「どこかで元気に過ごせているならいいのだけど」
 ふらつきそうになる足を叱責して顔を上げると澄んだ碧と視線が絡んだ。身を乗り出したプリメラがスカーレットへ一歩進み出る。
「困っていることがあったらどんな事でも力になりたいと思っているの」
 真に迫った声はさるご令嬢ではなく目の前にいるスカーレットに向けられているようだった。
 気付いたのか、どうして、どうやって。驚いて目を瞬かせているとプリメラは冷静になったのか引き下がる。
「いきなりこんな話、困るわよね」
 あの頃の聡明さも、優しさも憧れた頃と変わらない。逸る鼓動はいつの間にか落ち着き、スカーレットは自然と頬が緩むのを感じた。
「いいえ」
 彼女が、あくまでもさる令嬢の心配をしていると言うのなら、自分もそれを踏まえるべきだろう。
「プリメラ様にそこまで気にかけて頂いているのです」
 胸に手を当て、スカーレットは微笑んだ。
「そのご令嬢も心強いことでしょう」
 。そう装って言葉を返す。
 事実、スカーレット自身がプリメラの言葉を心強く思っているのだ。気にかけてくれる人がいる。いつでも力になる、その言葉を他でもないプリメラが言ってくれたのが何より嬉しい。
「そう思って下さるかしら」
「はい」 
 力強く頷き返すとプリメラも安堵したのか緊張をほどいたようだった。
「なら、いいの」
 スカーレットの笑みに何か思うところがあったのか、碧の瞳が揺れる。
 どうかしたのかと尋ねる前にプリメラはスカーレットの手をとった。
「お会いできて良かった」
 いつか、彼女にありのままの自分で再会できたらいい。それが叶ったなら、何があったのか、どうしていたのかを話そう。出来れば麗らかな午後に紅茶の香りの中で。
「こちらこそ」
 そんないつかを願ってスカーレットは握る手に力を込めた。
 プリメラもそれに応じると名残惜しそうにほどく。どうやらそろそろ帰らなければならないらしい。
 本棚の森に消えていく背中を見送っていると近づいてくる足音に気付いた。その方向に視線を向けるとオズがひょっこりと顔を出す。
「レティ」
「オズ様」
 見計らったかのような登場だ。だが、本当に偶然だったようでオズはきょろきょろと周囲を見渡している。
「誰かと話してた?」
 素直にサールスード公爵令嬢と話していたことを言ってもいいのだが、湧き出る悪戯心のままにスカーレットは人差し指を唇にあてた。
「内緒です」
 訝しげに首を傾げるオズだったが追及するつもりは無いらしい。
「もう時間ですか?」
 オズがなぜここに居るのかそれを考えた結果、その問いがスカーレットの口を突いた。
 ここを訪れてから二時間以上は確実に経過している。帰るから自分を探しに来たのだろうか。そう考えてのことだったが、オズは首を横に振った。
「見かけたから声掛けただけ」
 その言葉に偽りは無いのだろう。スカーレットの目にはオズの頬が心做しかつやつやしているように見える。彼も彼でお目当ての本を見つけて読書にふけっていたであろう事が推察された。
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