裏バイト:雛芥子館の誘惑

風待芒

文字の大きさ
上 下
3 / 4
活動記録帳「佐々木結羽」

case1‐1

しおりを挟む
 森の奥にひっそりと佇む二階建ての洋館。建てられた時期は分からないが古い建物であり、丁寧な手入れが施されていることが分かる。

 その庭に一台の車が入ってきた。黒塗りのセダンタイプの車はロータリーから玄関まで緩やかに走行し停車した。

 運転席から降りてきたのは黒いスーツに身を包んだ黒髪の青年。彼は慣れた手つきで後部座席側に移動すると、令嬢を扱うような恭しい態度でドアを開けた。

 おずおずとした動作で降り立ったのは濡れ羽色の大人しそうな娘だった。
 歳の頃は二十歳半ば頃だろうか。身につけているものは手を出しやすいリーズナブルな価格帯のブランドスーツ。清潔感のあるフォーマルな服装だが、洋館の雰囲気からするとどうしても庶民といった感じだ。

 それを娘も感じ取っているのか落ち着かない様子で運転手の男を見ている。

 運転手の男はそんな娘の視線を受けてにっこりと微笑んだ。
 着いてくるように促し、洋館へと入っていく。

 遅れて娘もその後を追った。

 案内されたのはホテルの一室のようだった。

 天蓋付きの大きなベッド。その傍にはいささか大きなサイドチェスト。四人掛けのソファに二人掛け、一人用が一つずつ。それを囲む大理石のテーブル。備え付けの低いタンスに、その上には部屋が一望できる大きな鏡。

 何となくそういったこと・・・・・・・をする部屋を彷彿とさせるつくりに娘、佐々木結羽は身を強ばらせた。

「少々お待ちください」

 今となっては胡散臭さしか感じない笑顔の男はそう言うと部屋から出ていった。

 所在なさげに立ちすくんでいると廊下の方から話し声が聞こえてきた。
 男性の声で二人分。

 勢いよく開けられたドアからは屈強な体躯の男が見えた。
 ざんばらの赤毛を緩くオールバックにした髪形。結羽へと視線を向けると、その金の瞳が細められる。

「ほぉ」

 品定めをするような視線に結羽は半歩足を引いた。だが、意を決した面持ちで引いた足を戻す。

 その姿を眺めていた男が満足そうに笑みを深めた。ドアの外で待機していた案内人を振り返る。

「確かに。もう下がってよい」

「では、どうぞごゆるりと」

 深々と一礼するとドアが閉まる。
 二人っきりになった部屋に沈黙が訪れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

処理中です...