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3.王様は火竜の卵を食べたい

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「はぁ?」

 素っ頓狂な叫び声を上げて顔を見合わせるクレメンテ達。
 それを見て男性が畳みかける。

「おふたりとも、このチラシの方ですよね? 何でも屋さんて。それなら僕の相談に乗っていただけないでしょうか。お時間はとらせません!」
「あっ!」

 斡旋所に置いたチラシだ。
 普通は翌日に斡旋所に依頼が来ているか確認して仕事を受けるんだけれど、チラシに書いてある似顔絵でふたりを見つけたのだろう。
 
 ふたりは視線を合わせると頷き合った。
 
 * * *

 話しを聞くために丘の麓から街中の喫茶店に移動した。
 頼んだ珈琲が来るとジョルジョが話し始める。

「そもそもどうして剣を抜くって話になったかなんですが、国王様が昔の勇者の記録を読んでいて『火竜の卵』が大層美味しいという記述を見つけたそうです。それで食べてみたくなったらしく」
「それでどうしてお前に白羽の矢が立ったんだ? ジョルジョはただの料理人だろう」

 竜の卵を料理はできるかもしれないが、竜の卵を取って来るのは難しいだろう。
 活火山の中にいる竜だ。人間じゃ取りになんていけない。
 
「陛下の願いを叶えるべく役人が色々と調べたところ、数十年前の勇者の伝説の記述を見つけたそうです。当時の勇者は竜を退治したことがあるそうで……それでちょっと僕も困っているんですが、当時の勇者と同じ痣がある僕を勇者に任命したらしいのです」

 左の袖をまくると、肘から下に大きな痣があった。

「これが?」
「はい。これ、火傷の痕なんです。僕は料理人で、うっかり料理中の事故でした」

 恥ずかしそうに腕を見せているが、こんな大きな痣になるくらいだから怪我をした当初は相当痛かっただろう。

「ここ、ここがしっぽでここが翼だそうです。そして頭。ドラゴンだそうです」
「見えなくもない……か?」
「うーん」

 クレメンテの言葉に、ブルーノも角度を変えながら何度も見定めて首を傾げている。
 ドラゴンに見ようと思えば見えるけれど、無理やりだ。
 空に浮かぶ雲でいろんな形を想像するのと似ている。

「その痣が勇者の証拠なのか? それより前の勇者も痣があったのか?」

 クレメンテの、疑問にジョルジョがため息を吐く。
 
「先代勇者よりも前は知りません。いたかもしれませんが……」
「ふぅん」
「先代は痣のせいで勇者を押し付けられて大激怒だったそうです」

 突然望んでもいないのに役割を押し付けられたら起こるかもしれないな。
 
「そうなのか? 言い伝えとは随分違うような」

 クレメンテの言葉にブルーノが鞄からパンフレットを取り出して開く。
 この街に来た時に買ったものだ。
 地図とか載っているから役立つかと思って。そこに勇者の伝説も載っていた。
 
「あ、それは観光客用の伝説ですね。前回は鍛冶師だったそうで、当時の王に任命された後、自分で打った剣で旅に出たそうです。剣も練習させられて、すごく苦労したらしいです。無事に帰って来た後、怒り心頭の勇者は剣を王家に献上するよう言われてたのに、それを無視して二度と自分と同じような目にあう人が現れないよう願って丘の上の大岩に刺した後セメントを流し込んだらしいです」
「それは徹底しているな」

 二度と剣を使わせるつもりはないという意思表示だろう。

「そんなこと話してよかったんですか?」

 ブルーノが心配そうに尋ねる。
 クレメンテへ暴言を吐く呪いをかけられているだけで、誰彼構わず暴言は吐かないのだ。

「あ、大丈夫です! 調べればすぐわかることなんで。街の人も知ってます」
「そうなのか」
「それで私達に話というのは何でしょうか? チラシを見てご依頼くださったんですよね?」

 クレメンテはジョルジョの顔を見ると、彼は言い辛そうな表情をしている。

「ええとですね、実はお願いがありまして。剣を抜こうと人々が殺到していて、毎日気が気じゃありません。胃が痛くなる日々でして」
 
 毎日あんなに何人も剣を抜こうとチャレンジしているのだ。
 そのうちセメントが劣化して抜けるかもしれない。
 
「抜けてしまったら僕は火山送りです」

 そうだろう。
 そういえば剣は抜いて小金貨5枚という話だった。抜いた剣はジョルジョに使わせる予定だったのか。

「ですので、剣が抜ける前に剣を壊してもらえませんか?」
「……は?」
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