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蛙の王子様8

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 朝ディンが森のパトロールから帰ると、知らない人がいた。
 薄い色の金髪を短く刈り上げた、背の高い男性だ。
 体格はディランの方ががっちりとしているけれど、背はこの男性の方が高かった。
 剣を握っているところから、朝の鍛錬をしていたようだ。着ているものからしても、騎士の方だろう。

「おはようございます。あなたは、王子様の騎士の人?」

 話しかけられた方は一瞬目を奪われた様子だったが、すぐにディンに向かって小さく頷いた。

「おはようございます。殿下の護衛を任されておりますヨルゲンです」
 
 ディンは抱えていた友達の兎を地面に下ろして、パトロールのついでに摘んできたハーブの籠を持ち直す。
 兎はディンが狼の姿の時は近寄ってこないが、こうして人間の姿の時は抱き上げることも許してくれる。
 もふもふとした手触りと、暖かさが好きでよく抱っこさせてもらっていた。

「ディンだよ。いつ来たの? 気が付かなかった」
 
 兎が鼻をひくひくと動かす。
 ディンは、籠の中から青草を取り出すと兎の口元に持っていく。

「昨日の夜にディラン殿に案内していただいていました。教会の方に泊まらせていただいたので、ご挨拶がおくれましたが殿下を保護していただきありがとうございました」
「いえいえ」

 信じてなかったわけじゃないけれど、本当に蛙は王子様だったようだ。
 ディンは立ち上がりヨルゲンを見上げる。

「たまたまだよ。ところで、これから朝食だから一緒に食べるんでしょう? 王子様には会った?」
「はい。ご一緒させていただきます。殿下は身支度中でしたのでまだです。ところでその兎……」

 蛙が朝の身支度って何だ? 服でも着るの?
 
「何?」
「食べるんですか?」
「はぁっ?」

 ディンは足元にいる兎を急いで手で押して草むらに追いやると、ヨルゲンを睨みつけた。
 とんだ食いしん坊だ。
 
「食べないけど」
「そうですかぁ」

 ディンは「残念だなぁ、食べ応えありそうなのに」と未練がましく呟くヨルゲンを睨みつけながら、家へと入って行く。
 ヨルゲンも後を着いてきた。
 
 食堂へ入ると、今度は王子の側にまた知らない男性が立っていた。
 今度は黒髪の、顔色の悪い細身の男性だった。神経質そうな顔をしていて、目の下に濃いクマができている。
 年齢は20歳をいくつか過ぎた程度だ。さっきが護衛なのだから、こっちが乳兄弟だろうとあたりをつけて挨拶をする。

「ディンです」
「ステファンです。殿下のお世話をさせていただいております。昨日は殿下が危険なところを助けていただきありがとうございました」
「いえいえ」
 
 ステファンは珍しく、ディンの容姿に見惚れない人間だった。
 籠をロイに渡すと、いつもの席に座る。

「聞けば、梟と野獣に襲われそうだったところを助けていただいたとか」
「……」
 
 ディンの表情が無表情になる。
 野獣って何ですか。

 王子が気絶していた間の事は詳しくは話していなかったが、勝手にディンが助けたと勘違いしてくれているらしい。
 
「おお、ディンよ。聞いたぞ、神託を受けたそうだな。そなた神子であったのか。付き人などと言ってすまなかったな」
「神託?」
「しばらくすれば元に戻ると言われたと聞いた」

 どうやらオリヴァーはディンが神子で、女神を言葉を聞いたという説明をしたようだ。
 神の声を聞くのは位の高い聖職者か、それ以外だと神子しかいない。
 王子はディンの様子から位の高い聖職者ではないと判断したようだ。
 
 オリヴァーは、王子を蛙から人間に戻すことができない以上、エーディン様の言葉として時間が経てば戻ることを伝えることにしたようだ。
 
「あ、うん」

 急にただの居候から神子にジョブチェンジだ。

「それなのですが神子様、しばらくとはどれくらいなのでしょうか?」
「しばらくはしばらくだよ」

 ディンが目を泳がせる。
 ステファンが肩を落として溜息を吐き出す。

「左様ですか……」
「ステファン気落ちするでない。戻るとわかったのだから良いであろう」
「そうですがクリスティーネ様に申し訳がたちません」
「クリスティーネ様?」

 また新しい女性の名前にディンの興味がそそられた。
 
「はい。実は殿下と公爵家のご息女クリスティーネ様は近くご成婚される予定なのです」
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