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4.助かった
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ザクザクと雪を踏みしめる音が聞こえてきた。
まだ距離はあるが、目を開き静かに音の先を見つめる。
森の中で大きな音を立てるのは位置を教えるようなものだ。そんなのは人間くらいしかいない。
痛みと自分の運命を悟って悄然としていたディンだったが、こんな目に合わせた人間が来たと思うと怒りが込み上げてきた。
きっと仕掛けた罠を確認に来たのだ。
――卑劣な猟師の手にかかるなんて悔しい!死んだふりをして、近づいてきたら首に嚙みついて殺してやる!
「こちちらに何か……なんてこと!」
静かに目を伏せているつもりだったが、駆けてくる足音と人間の声が聞こえると、死んだふり作戦なんて頭の外にポイと追い出されてしまった。
盛大に唸り声をあげて威嚇する。
「今とってあげるから少し待ってください」
――その手にのるか!この野郎!俺の皮を剥ぐ気だな!
若い男の声だった。どこか聞き覚えがある声だと思ったが、怒りで目の前が真っ赤になっていたディンにはすぐに気付けなかった。
男は辛抱強く声をかけ続ける。
「動いたら傷が広がります。手当をしたいだけなのですよ……」
どんなに吠えて脅しても、男は立ち去る気配を見せなかった。
えぐりとるような強烈な痛みに、一際大きく叫び声をあげたとき目の前に兎が飛び出してきた。
兎は鼻をぴくぴくとさせると、何か言いたげな静かな目でディンを見つめてきた。
「お前危ないよ。下がってください」
野兎にまで丁寧な言葉を使う男の声が聞こえてきた。
そこでディンはようやく目が覚めたように正気に戻ったのだった。
急に静かになった狼に驚きながらも、男はそろりそろりと近づいてくる。
「よしよし、そのままですよ。今外しますから。少し痛いです……」
トラバサミに手をかけて一気に開く。外した痛みに声が漏れそうになった。
引き抜いた手に、ゆっくりと男の手が添えられる。男は懐からハンカチを取り出すと丁寧にディンの右腕に巻いた。
「骨は折れていません。よかった……」
金髪の優男。
石の教会で見た司祭だった。
「ここは禁猟区なのです。それなのにこんな物を……。とりあえず木の枝を噛ませて持ち帰りましょう」
言葉が通じているとは思っていないだろう。独り言のように呟くと手ごろな木の枝を探し始めた。
男の姿を見つめていると、いつの間にか遠くに離れていた兎が、ぷぅと声を出した。
もう巣に帰るようだった。ディンは小さくお礼を言うと、兎はもこもこのお尻を見せながら走って行った。
まさか兎に助けられる日がくると思わなかった。
ディンはあの兎のお尻に噛みつかなくて、本当によかったと思ったのだった。
まだ距離はあるが、目を開き静かに音の先を見つめる。
森の中で大きな音を立てるのは位置を教えるようなものだ。そんなのは人間くらいしかいない。
痛みと自分の運命を悟って悄然としていたディンだったが、こんな目に合わせた人間が来たと思うと怒りが込み上げてきた。
きっと仕掛けた罠を確認に来たのだ。
――卑劣な猟師の手にかかるなんて悔しい!死んだふりをして、近づいてきたら首に嚙みついて殺してやる!
「こちちらに何か……なんてこと!」
静かに目を伏せているつもりだったが、駆けてくる足音と人間の声が聞こえると、死んだふり作戦なんて頭の外にポイと追い出されてしまった。
盛大に唸り声をあげて威嚇する。
「今とってあげるから少し待ってください」
――その手にのるか!この野郎!俺の皮を剥ぐ気だな!
若い男の声だった。どこか聞き覚えがある声だと思ったが、怒りで目の前が真っ赤になっていたディンにはすぐに気付けなかった。
男は辛抱強く声をかけ続ける。
「動いたら傷が広がります。手当をしたいだけなのですよ……」
どんなに吠えて脅しても、男は立ち去る気配を見せなかった。
えぐりとるような強烈な痛みに、一際大きく叫び声をあげたとき目の前に兎が飛び出してきた。
兎は鼻をぴくぴくとさせると、何か言いたげな静かな目でディンを見つめてきた。
「お前危ないよ。下がってください」
野兎にまで丁寧な言葉を使う男の声が聞こえてきた。
そこでディンはようやく目が覚めたように正気に戻ったのだった。
急に静かになった狼に驚きながらも、男はそろりそろりと近づいてくる。
「よしよし、そのままですよ。今外しますから。少し痛いです……」
トラバサミに手をかけて一気に開く。外した痛みに声が漏れそうになった。
引き抜いた手に、ゆっくりと男の手が添えられる。男は懐からハンカチを取り出すと丁寧にディンの右腕に巻いた。
「骨は折れていません。よかった……」
金髪の優男。
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「ここは禁猟区なのです。それなのにこんな物を……。とりあえず木の枝を噛ませて持ち帰りましょう」
言葉が通じているとは思っていないだろう。独り言のように呟くと手ごろな木の枝を探し始めた。
男の姿を見つめていると、いつの間にか遠くに離れていた兎が、ぷぅと声を出した。
もう巣に帰るようだった。ディンは小さくお礼を言うと、兎はもこもこのお尻を見せながら走って行った。
まさか兎に助けられる日がくると思わなかった。
ディンはあの兎のお尻に噛みつかなくて、本当によかったと思ったのだった。
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