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14.神明裁判
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私は昼食を食べ終わるとすぐに大司教の部屋へ向かった。
ノックをすると応えがあり、部屋の中へと入る。
「聖女ディアーナ、どうなさったのか?」
大司教は私を見ると立ち上がり、優しい笑顔で迎えてくれた。
大司教は老年の男性だ。少しだけぽっちゃりとして、柔和な顔をしているけれど瞳には思慮深さがある。私が聖女になった時は司教だったからこの10年で出世したのだ。
私は勧められるまま、椅子に座ると目の前に座る大司教の顔を見つめた。
「お忙しいところ申し訳ありません。実は、男爵夫人についてどうなったかお教えいただきたく存じます」
「ああ、ちょうど聖女ディアーナにも伝えねばと思っていたところです」
私は表情を引き締めた。
大司教は机の引き出しから数枚の紙を取り出すと私に渡してくれた。
「これは……調査内容ですか?」
「そうです。普通は記録を貰うことはありませんが、今回は修道女も被害にあいましたから」
私は上から順に目を通していく。
それに合わせるように、大司教も事件について語ってくれる。
「どうやら、遺体の数は少なくとも50体はあるそうです。あなたが言っていた通り、殺人の目的は夫人の個人的な理由だったようです。なんと愚かな……。執事や従僕、侍女、他にも実行犯として下働きの男達数名が取り調べを受け、刑が確定しています」
私は名前とその横に並ぶ刑罰の種類に小さく息を吐きだした。
犯罪者だとわかっていても、胃の中に石を詰め込まれたかのように重い。
「刑は……、執行されたのですね」
大司教は静かに頷き、瞳をふせた。
「続きですが、彼らは主に孤児やスラムの子を選んでいたようですね。仕事を与えるとか、そういう言葉で城へ連れてきたそうです。ですが、それを繰り返せば気付く者もいます。誘い出すことが難しくなって、彼らは標的を移動民族や旅人に変えたようですね」
「気付いた人もいたのですね……」
そう呟いたが、大司教は静かに瞬きを繰り返すだけだった。
「孤児院の院長も気が付いていたのでしょうか?」
「調査では知らなかったと言っているようです」
私が夫人の城に連れていかれる時、院長は女性の名前を出して元気かと聞いていた。
本当は夫人の裏の顔に気付いていて、気付かない振りをしていたの? それとも信じたくなかったのかもしれない。
気が付いていても、孤児院の院長ひとりでは何もできなかっただろう。
睨まれて寄付金を減らされても困ると思ったかもしれない。
想像はできるけれど、本当のところは私がいくら考えたところで何もわからないのだ。それに、この事が院長の心に何か刺さっているのであれば、これから先院長は別の方法で捌きを受け続けるだけだ。
女神様方の敬虔な信徒であればなおさら。
「さて、肝心の男爵夫人ですが、犯行は否定しているようですね」
「えっ!」
私は目を見開いた。
「こんなに証拠が残っているのにですか?」
「全て使用人が勝手にしたことと言っているそうです」
「嘘です。私は、彼女が指示しているのを見ました!」
大司教は静かに頷くだけだ。
「もちろん、信じられてはいませんが」
「そうですよね」
全て使用人の計画犯行したことだなんて無理がある。
私はほっと息を吐いた。
「ですが被害者のうち、家族からの訴えが出ている者は何人もいません」
それは、被害者の多くが孤児や旅人だからだろう。
「骨も、戦争があった時代の物だろうと言っているそうです。古い城ですから、戦時中に埋められたものだろうと」
「……」
「ですから罰金刑が妥当なのではと言う声もあるようです」
「罰金⁉ そんな、何人も手にかけているのですよ⁉」
罰金刑はその名の通り、お金を払って罪が許される刑だ。
そんな簡単なもので許されてしまうの?
私だって殺されそうになったのに!
平民だったら、多分、もっと違う刑になっているはずだ。
「そういう声があるというだけです。そう決まったわけではありませんから落ち着いて」
「……使用人達だって、夫人の指示がなければ罪を犯さなかったでしょう」
「……」
大司教は何も答えない。
この部分については話すつもりはないようだった。
淡々と少し冷たく感じるほど冷静に話を続ける。
「彼女は貴族です。罰金とはいえ、刑を受けた場合貴族社会からはそれなりの扱いを受けることになるでしょう」
貴族社会から爪弾き者になるということだろうか? 貴族のことはよくわからない。
それは夫人にとっては辛く苦しいことかもしれない。
でも、そんなことで許されてしまっていいの?
「あなたが被害に遭いそうになったと公表したら刑は変わるでしょう」
「私が? 聖女だと?」
私は内側から込み上げる不愉快な気持ちを押さえつけるように、唾をぐっと飲みこんだ。
聖女だと言ったから刑が変わるなんて、なんだか納得できないと思ってしまうのは私が未熟だから……?
「そんな事、言えません」
私を害そうとしたと知られたら、今度は過剰に夫人が批判されるだろう。行き過ぎた刑も私は望んでいない。
それに、批判の的はきっと騎士団にも向かう。
それは嫌だ。
私の心を見透かすように、大司教が口を開いた。
「どのような刑を望んでいるのですか?」
私は殺されそうになった時「断頭台送りにしてやる」と叫んだ。
あの時は自分が殺されそうだったから。憎くて悔しくてそう叫んだ。
けれど、私の存在が刑に影響を与えて本当に極刑が下された時、私はその事実を受け止め切れるだろうか?
結局、夫人が受ける刑罰に対して私は全く覚悟なんて出来てなかったのだ。
「わ、私の望みは、彼女が正しく罰を受けること、です……。それが罰金刑なのであれば、そうなのでしょう……」
本当に?
城で聞いた泣き声が蘇る。
彼女たちの無念はそれで晴れる?
彼女に正しく罰を受けてもらうには?
「……いえ、大司教様」
私は一旦言葉を区切り、唇を湿らせた。
「神明裁判をすることは可能でしょうか?」
大司教はゆっくりと瞬きをすると頷いた。
「良いでしょう」
俯き、ぎゅっと握りしめた私に大司教が続ける。
「あなたは女神ディアーナより『見定めなさい』と言われたそうですね。これもその一つなのでしょう」
――見定めなさい。
自分で言った言葉が重くのしかかった。
* * *
神明裁判は、女神様方の奇跡を頼りに罪を見分ける方法だ。
他の裁判と違い、司教や大司教が執り行う。
聖都では煮え立った湯に手を入れて、火傷をしなければ無罪、火傷をした場合は有罪と判断されるのだ。
お湯に手を入れるなんて火傷するに決まってるって思うじゃない? でもね、女神様はちゃんと見てるらしくて火傷をしない人もいるのだ。
だから、絶対に罪を犯してないという人は、自らそれを望むこともある。
神様のお墨付きをもらえるわけだからね。
ただ、あくまでわかるのは罪を犯したか、犯していないか。
その先の刑罰を決めるのは人間の役割だ。
だから神明裁判で有罪となっても、彼女の刑罰は変わらないかもしれない。
でも、私はやる意味はあると思ってる。だって、ただの罰金刑じゃきっとそのうち忘れ去られてしまう。でも神明裁判によって有罪となったら? きっと皆が女神様方を信仰している限りずっと忘れられない。
その日は青々とした空が高く広がっている日だった。
まるで空に吸い込まれそうなくらい美しい。
女神様方が見ている。
何故だか私はそう感じた。
大聖堂は静かな熱気に包まれていた。
石壁はひんやりとした冷気を運び、いっそ寒いと感じるくらいなのに。
周りにいる人達が固唾を飲んで見守っている。
私は普段よりも儀式的な僧服に身を包み、薄いベールを頭からかぶると大司教の隣に立った。
跪き頭を下げる男爵夫人を見下ろす。
美しい黒髪はそのままだが、頬がこけて青白い顔色をしている。これから起こることに怯えているように見えた。
大司教に促され、夫人が顔を上げたタイミングで私もベールを上げた。
夫人と視線が交わり、彼女の顔がみるみると血の気を失っていくのを見た。
* * *
私は大聖堂の自室前の廊下を歩いていた。
堅苦しいベールを脱ぐと息を吐きだす。
この後どうなるかはわからないけれど、私がすべきことは全て終わったと思う。
私は窓に寄りかかり、遠くに見える王都の街並みを眺めた。
「お疲れ様でした」
「セレス様」
聖女セレスは30歳近くの落ち着いた大人の女性だ。
白い肌にはうっすらとそばかすが浮いた、一見素朴な印象のある女性だが彼女の魅力は外見だけではない。
ブラウンの瞳はいたわりの光をたたえて私を見つめていた。
「緊張したし疲れたわぁ」
「そうですよね。ゆっくり休んでくださいね」
穏やかに微笑む聖女セレスに、私は気になっていたことを聞くことにした。
「ねぇ、女神セレス様はどうお思いなのかしら? これで良かったのかしら……」
「さぁ、私はただ女神様のお言葉を伝えているだけですから」
困ったように首を傾げる聖女セレス。
「予言を聞いて行動するのは私達人間です。女神様は、ただ伝えるだけです」
「……そうよね」
サーマのことも、夫人のことも。
行動したのは私で、その結果が今だ。
聖女を引退するため旅に出たのに、なんだか思いがけない方向に転がったな。
なんとなく、感慨深いものを感じて私は景色を見つめていると聖女セレスが隣に立った。
「ところで聖女ディアーナ、あなた向きの予言を賜ったのですが?」
「へ?」
私向き? ってどういうこと?
目をパチパチとさせて聖女セレスを見つめるが、セレスは微笑むだけ。
その笑顔を見ていると、私は枯渇していた気力がむくむくと湧き上がるのを感じた。
そうだ、そうだった!
私、後継者見つけに行かなきゃいけないんだったわ!
そして引退して、絶対結婚するんだから!
「聞かせて!」
私の言葉を聞いて、聖女セレスはさらににっこりと微笑みをたたえたのだった。
END
ノックをすると応えがあり、部屋の中へと入る。
「聖女ディアーナ、どうなさったのか?」
大司教は私を見ると立ち上がり、優しい笑顔で迎えてくれた。
大司教は老年の男性だ。少しだけぽっちゃりとして、柔和な顔をしているけれど瞳には思慮深さがある。私が聖女になった時は司教だったからこの10年で出世したのだ。
私は勧められるまま、椅子に座ると目の前に座る大司教の顔を見つめた。
「お忙しいところ申し訳ありません。実は、男爵夫人についてどうなったかお教えいただきたく存じます」
「ああ、ちょうど聖女ディアーナにも伝えねばと思っていたところです」
私は表情を引き締めた。
大司教は机の引き出しから数枚の紙を取り出すと私に渡してくれた。
「これは……調査内容ですか?」
「そうです。普通は記録を貰うことはありませんが、今回は修道女も被害にあいましたから」
私は上から順に目を通していく。
それに合わせるように、大司教も事件について語ってくれる。
「どうやら、遺体の数は少なくとも50体はあるそうです。あなたが言っていた通り、殺人の目的は夫人の個人的な理由だったようです。なんと愚かな……。執事や従僕、侍女、他にも実行犯として下働きの男達数名が取り調べを受け、刑が確定しています」
私は名前とその横に並ぶ刑罰の種類に小さく息を吐きだした。
犯罪者だとわかっていても、胃の中に石を詰め込まれたかのように重い。
「刑は……、執行されたのですね」
大司教は静かに頷き、瞳をふせた。
「続きですが、彼らは主に孤児やスラムの子を選んでいたようですね。仕事を与えるとか、そういう言葉で城へ連れてきたそうです。ですが、それを繰り返せば気付く者もいます。誘い出すことが難しくなって、彼らは標的を移動民族や旅人に変えたようですね」
「気付いた人もいたのですね……」
そう呟いたが、大司教は静かに瞬きを繰り返すだけだった。
「孤児院の院長も気が付いていたのでしょうか?」
「調査では知らなかったと言っているようです」
私が夫人の城に連れていかれる時、院長は女性の名前を出して元気かと聞いていた。
本当は夫人の裏の顔に気付いていて、気付かない振りをしていたの? それとも信じたくなかったのかもしれない。
気が付いていても、孤児院の院長ひとりでは何もできなかっただろう。
睨まれて寄付金を減らされても困ると思ったかもしれない。
想像はできるけれど、本当のところは私がいくら考えたところで何もわからないのだ。それに、この事が院長の心に何か刺さっているのであれば、これから先院長は別の方法で捌きを受け続けるだけだ。
女神様方の敬虔な信徒であればなおさら。
「さて、肝心の男爵夫人ですが、犯行は否定しているようですね」
「えっ!」
私は目を見開いた。
「こんなに証拠が残っているのにですか?」
「全て使用人が勝手にしたことと言っているそうです」
「嘘です。私は、彼女が指示しているのを見ました!」
大司教は静かに頷くだけだ。
「もちろん、信じられてはいませんが」
「そうですよね」
全て使用人の計画犯行したことだなんて無理がある。
私はほっと息を吐いた。
「ですが被害者のうち、家族からの訴えが出ている者は何人もいません」
それは、被害者の多くが孤児や旅人だからだろう。
「骨も、戦争があった時代の物だろうと言っているそうです。古い城ですから、戦時中に埋められたものだろうと」
「……」
「ですから罰金刑が妥当なのではと言う声もあるようです」
「罰金⁉ そんな、何人も手にかけているのですよ⁉」
罰金刑はその名の通り、お金を払って罪が許される刑だ。
そんな簡単なもので許されてしまうの?
私だって殺されそうになったのに!
平民だったら、多分、もっと違う刑になっているはずだ。
「そういう声があるというだけです。そう決まったわけではありませんから落ち着いて」
「……使用人達だって、夫人の指示がなければ罪を犯さなかったでしょう」
「……」
大司教は何も答えない。
この部分については話すつもりはないようだった。
淡々と少し冷たく感じるほど冷静に話を続ける。
「彼女は貴族です。罰金とはいえ、刑を受けた場合貴族社会からはそれなりの扱いを受けることになるでしょう」
貴族社会から爪弾き者になるということだろうか? 貴族のことはよくわからない。
それは夫人にとっては辛く苦しいことかもしれない。
でも、そんなことで許されてしまっていいの?
「あなたが被害に遭いそうになったと公表したら刑は変わるでしょう」
「私が? 聖女だと?」
私は内側から込み上げる不愉快な気持ちを押さえつけるように、唾をぐっと飲みこんだ。
聖女だと言ったから刑が変わるなんて、なんだか納得できないと思ってしまうのは私が未熟だから……?
「そんな事、言えません」
私を害そうとしたと知られたら、今度は過剰に夫人が批判されるだろう。行き過ぎた刑も私は望んでいない。
それに、批判の的はきっと騎士団にも向かう。
それは嫌だ。
私の心を見透かすように、大司教が口を開いた。
「どのような刑を望んでいるのですか?」
私は殺されそうになった時「断頭台送りにしてやる」と叫んだ。
あの時は自分が殺されそうだったから。憎くて悔しくてそう叫んだ。
けれど、私の存在が刑に影響を与えて本当に極刑が下された時、私はその事実を受け止め切れるだろうか?
結局、夫人が受ける刑罰に対して私は全く覚悟なんて出来てなかったのだ。
「わ、私の望みは、彼女が正しく罰を受けること、です……。それが罰金刑なのであれば、そうなのでしょう……」
本当に?
城で聞いた泣き声が蘇る。
彼女たちの無念はそれで晴れる?
彼女に正しく罰を受けてもらうには?
「……いえ、大司教様」
私は一旦言葉を区切り、唇を湿らせた。
「神明裁判をすることは可能でしょうか?」
大司教はゆっくりと瞬きをすると頷いた。
「良いでしょう」
俯き、ぎゅっと握りしめた私に大司教が続ける。
「あなたは女神ディアーナより『見定めなさい』と言われたそうですね。これもその一つなのでしょう」
――見定めなさい。
自分で言った言葉が重くのしかかった。
* * *
神明裁判は、女神様方の奇跡を頼りに罪を見分ける方法だ。
他の裁判と違い、司教や大司教が執り行う。
聖都では煮え立った湯に手を入れて、火傷をしなければ無罪、火傷をした場合は有罪と判断されるのだ。
お湯に手を入れるなんて火傷するに決まってるって思うじゃない? でもね、女神様はちゃんと見てるらしくて火傷をしない人もいるのだ。
だから、絶対に罪を犯してないという人は、自らそれを望むこともある。
神様のお墨付きをもらえるわけだからね。
ただ、あくまでわかるのは罪を犯したか、犯していないか。
その先の刑罰を決めるのは人間の役割だ。
だから神明裁判で有罪となっても、彼女の刑罰は変わらないかもしれない。
でも、私はやる意味はあると思ってる。だって、ただの罰金刑じゃきっとそのうち忘れ去られてしまう。でも神明裁判によって有罪となったら? きっと皆が女神様方を信仰している限りずっと忘れられない。
その日は青々とした空が高く広がっている日だった。
まるで空に吸い込まれそうなくらい美しい。
女神様方が見ている。
何故だか私はそう感じた。
大聖堂は静かな熱気に包まれていた。
石壁はひんやりとした冷気を運び、いっそ寒いと感じるくらいなのに。
周りにいる人達が固唾を飲んで見守っている。
私は普段よりも儀式的な僧服に身を包み、薄いベールを頭からかぶると大司教の隣に立った。
跪き頭を下げる男爵夫人を見下ろす。
美しい黒髪はそのままだが、頬がこけて青白い顔色をしている。これから起こることに怯えているように見えた。
大司教に促され、夫人が顔を上げたタイミングで私もベールを上げた。
夫人と視線が交わり、彼女の顔がみるみると血の気を失っていくのを見た。
* * *
私は大聖堂の自室前の廊下を歩いていた。
堅苦しいベールを脱ぐと息を吐きだす。
この後どうなるかはわからないけれど、私がすべきことは全て終わったと思う。
私は窓に寄りかかり、遠くに見える王都の街並みを眺めた。
「お疲れ様でした」
「セレス様」
聖女セレスは30歳近くの落ち着いた大人の女性だ。
白い肌にはうっすらとそばかすが浮いた、一見素朴な印象のある女性だが彼女の魅力は外見だけではない。
ブラウンの瞳はいたわりの光をたたえて私を見つめていた。
「緊張したし疲れたわぁ」
「そうですよね。ゆっくり休んでくださいね」
穏やかに微笑む聖女セレスに、私は気になっていたことを聞くことにした。
「ねぇ、女神セレス様はどうお思いなのかしら? これで良かったのかしら……」
「さぁ、私はただ女神様のお言葉を伝えているだけですから」
困ったように首を傾げる聖女セレス。
「予言を聞いて行動するのは私達人間です。女神様は、ただ伝えるだけです」
「……そうよね」
サーマのことも、夫人のことも。
行動したのは私で、その結果が今だ。
聖女を引退するため旅に出たのに、なんだか思いがけない方向に転がったな。
なんとなく、感慨深いものを感じて私は景色を見つめていると聖女セレスが隣に立った。
「ところで聖女ディアーナ、あなた向きの予言を賜ったのですが?」
「へ?」
私向き? ってどういうこと?
目をパチパチとさせて聖女セレスを見つめるが、セレスは微笑むだけ。
その笑顔を見ていると、私は枯渇していた気力がむくむくと湧き上がるのを感じた。
そうだ、そうだった!
私、後継者見つけに行かなきゃいけないんだったわ!
そして引退して、絶対結婚するんだから!
「聞かせて!」
私の言葉を聞いて、聖女セレスはさらににっこりと微笑みをたたえたのだった。
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