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21.結婚しましょう
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「……は? え?」
アルバートが目を白黒させて驚いている。
突然の言葉に理解が追いついていないようだった。
「ですから、結婚しましょう。旦那様はロックバーグ子爵の屋敷の事をご存じですか? ボロボロだったのに、今ではすっかり綺麗に直っているでしょう。あれは私の姉の持参金で直しました」
「そ、それは知っているけれど……」
「私と結婚をすれば、十分な金額が手に入ります。足りなければ父から融資を頼みましょう。父は断りませんよ。伯爵家に恩を売れるならいくらでも出すはずです」
アルバートは開いた口がふさがらない状態だった。
ぽかんとした表情で、さっきまでとは別の意味で呆然としている。
「い、言ってる意味はわかったよ、でも、そんな、急に……」
「わかっています。急ですよね。でも結婚って急なものじゃないですか?」
頭のまわっていないアルバートに、知ったかぶりで適当なことを言うエヴァ。
了承さえしてもらえればいいのだ。
だってエヴァはアルバートを愛しているから。
どんな形でも手に入るならいいじゃない? 愛は、きっと後からゆっくりと作ることだってできるはず。
エヴァは少しからかうようにアルバートに言った。
「なんて顔をなさってるのですか、旦那様」
「え?」
「結婚を申し込みされたご令嬢みたいに真っ赤ですよ」
「そ、それはそうなるだろう!」
からかわれたのに気が付いたのか、咳ばらいをすると真面目な顔をする。
「んんっ、とにかく今はしっかりと考えられないんだ。まずは弁護士にその契約が正式なものかを確認するよ」
「ええ。必要な事です」
「それから、払う場合の支払い方法を考えるよ。期限もいつかわからない。差し迫っているわけじゃないかもしれない。分割ができるかも。銀行から融資を受けることもできるかもしれないしね……」
「そうかもしれませんが……」
エヴァはどうして先ほどの結婚の申し込みをなかったことにしようとしているのかと、ふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。
こちらがどんな思いでプロポーズしたのか!
「どうして結婚のことを避けようとするのです? 私がどんな気持ちでプロポーズしたと思ってらっしゃるの?」
「そ、それは……。でも君をお金で買うような真似はできないよ!」
「お金で買うのは旦那様じゃありません! 私が旦那様をお金で買うんですよ!」
「た、確かにそうだけど……。僕の気持ちも考えてくれよ……」
弱弱しく呟かれた声に、エヴァはガツンと頭を殴られたような気持になった。
「そ、そんなに嫌でしたの?」
絶対にエヴァとは結婚したくないくらい嫌われていたのだろうか?
だったら何もかも、自分の独り相撲だったということになる。
結婚の申し込みは、エヴァだってアルバートが少しくらいは自分に好意を持っていると思ったからできたのだ。
いくらなんでも、自分を嫌っている人とはエヴァも結婚したくない。
すると、青ざめたエヴァの顔色を見たアルバートが大袈裟に手を振って否定した。
「違うよ! 嫌いじゃない。嫌いなわけないじゃないか。だからこそ……」
「じゃあいいじゃありませんか!」
何か言いかけていたアルバートを遮り、エヴァが前のめりに言葉を重ねる。
「僕にも恰好つけさせて欲しいんだよ……」
「言ってる意味がわかりませんわ」
「そうだよね……」
そう言うと、アルバートはガクッと肩を落とした。
「そ、そういえば」
「なんです?」
「さっき足りなければ君のお父君が、融資をしてくれると言っていたと思うけれど……」
「言いました」
「じゃあ、その、例えば今君のお父君からお借りすることはできるのだろうか?」
「……往生際が悪いですよ」
眉間に皺を寄せてじろりとねめつけるエヴァに、眉を下げるアルバート。
「旦那様、良い事をお教えいたします」
「何かな?」
身構えた様子のアルバート。
「融資は利子をつけて返さなければいけないんですよ」
「当然だね」
「でも持参金は返さなくてもいいんです」
アルバートが目を白黒させて驚いている。
突然の言葉に理解が追いついていないようだった。
「ですから、結婚しましょう。旦那様はロックバーグ子爵の屋敷の事をご存じですか? ボロボロだったのに、今ではすっかり綺麗に直っているでしょう。あれは私の姉の持参金で直しました」
「そ、それは知っているけれど……」
「私と結婚をすれば、十分な金額が手に入ります。足りなければ父から融資を頼みましょう。父は断りませんよ。伯爵家に恩を売れるならいくらでも出すはずです」
アルバートは開いた口がふさがらない状態だった。
ぽかんとした表情で、さっきまでとは別の意味で呆然としている。
「い、言ってる意味はわかったよ、でも、そんな、急に……」
「わかっています。急ですよね。でも結婚って急なものじゃないですか?」
頭のまわっていないアルバートに、知ったかぶりで適当なことを言うエヴァ。
了承さえしてもらえればいいのだ。
だってエヴァはアルバートを愛しているから。
どんな形でも手に入るならいいじゃない? 愛は、きっと後からゆっくりと作ることだってできるはず。
エヴァは少しからかうようにアルバートに言った。
「なんて顔をなさってるのですか、旦那様」
「え?」
「結婚を申し込みされたご令嬢みたいに真っ赤ですよ」
「そ、それはそうなるだろう!」
からかわれたのに気が付いたのか、咳ばらいをすると真面目な顔をする。
「んんっ、とにかく今はしっかりと考えられないんだ。まずは弁護士にその契約が正式なものかを確認するよ」
「ええ。必要な事です」
「それから、払う場合の支払い方法を考えるよ。期限もいつかわからない。差し迫っているわけじゃないかもしれない。分割ができるかも。銀行から融資を受けることもできるかもしれないしね……」
「そうかもしれませんが……」
エヴァはどうして先ほどの結婚の申し込みをなかったことにしようとしているのかと、ふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。
こちらがどんな思いでプロポーズしたのか!
「どうして結婚のことを避けようとするのです? 私がどんな気持ちでプロポーズしたと思ってらっしゃるの?」
「そ、それは……。でも君をお金で買うような真似はできないよ!」
「お金で買うのは旦那様じゃありません! 私が旦那様をお金で買うんですよ!」
「た、確かにそうだけど……。僕の気持ちも考えてくれよ……」
弱弱しく呟かれた声に、エヴァはガツンと頭を殴られたような気持になった。
「そ、そんなに嫌でしたの?」
絶対にエヴァとは結婚したくないくらい嫌われていたのだろうか?
だったら何もかも、自分の独り相撲だったということになる。
結婚の申し込みは、エヴァだってアルバートが少しくらいは自分に好意を持っていると思ったからできたのだ。
いくらなんでも、自分を嫌っている人とはエヴァも結婚したくない。
すると、青ざめたエヴァの顔色を見たアルバートが大袈裟に手を振って否定した。
「違うよ! 嫌いじゃない。嫌いなわけないじゃないか。だからこそ……」
「じゃあいいじゃありませんか!」
何か言いかけていたアルバートを遮り、エヴァが前のめりに言葉を重ねる。
「僕にも恰好つけさせて欲しいんだよ……」
「言ってる意味がわかりませんわ」
「そうだよね……」
そう言うと、アルバートはガクッと肩を落とした。
「そ、そういえば」
「なんです?」
「さっき足りなければ君のお父君が、融資をしてくれると言っていたと思うけれど……」
「言いました」
「じゃあ、その、例えば今君のお父君からお借りすることはできるのだろうか?」
「……往生際が悪いですよ」
眉間に皺を寄せてじろりとねめつけるエヴァに、眉を下げるアルバート。
「旦那様、良い事をお教えいたします」
「何かな?」
身構えた様子のアルバート。
「融資は利子をつけて返さなければいけないんですよ」
「当然だね」
「でも持参金は返さなくてもいいんです」
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