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初恋の味はチョコレート・アイス
〖第6話〗
しおりを挟む「オミ、オミ会いたかったよ。もう、会えないと思っていたから──」
会いたかった。生きていてくれて涙がでた。しがみついて、惟臣の華奢な胸に手を回し、抱きしめて泣いた。
惟臣は身長はスラリと高く、でも少し華奢だ。色は蒼白くて、綺麗な顔立ちは変わっていなかった。
「ごめん。あの時、小さな時、車を無理にでも降りてれば、こんな偶然待たなくても済んだのに」
「それは命の分かれ目だよ。僕が発作を起こした時、偶々神社にお参りした帰りの車で通りかかったのが僕の執刀医で、担当のお医者さん。でも、あの山を離れても、僕は君に、何となくまた会える気がしてた。それでこの学校とはね。少し前から由梨がいることを知ってたよ。グラウンドを走る由梨を見てた。一目で解った。陸上部だろ?僕には縁遠い世界だからね。挙げ句、幽霊ときたもんだ。嫌になる」
「………ごめん」
「ただの八つ当たり………少し、黙って」
目を瞑ると、口唇が降りてくる。チョコレートの甘い味が口に広がる。私の腕は自然と惟臣の首に絡まる。
「とろけそう、本当はチョコレート食べちゃった?」
「少し前にチョコレートアイスクリームを食べたんだ。購買のアイス売場にもあるんだよ。あれ、好き。後から一緒に食べない?あの赤いパッケージ。入院してる時に週に一度の楽しみだった。──由梨、好きだよ。ずっと会いたかった。でも、自信がなかった。今日も実を言うと偶然じゃない。仕組んだ」
昇降口の下駄箱で、君が置いた袋をチラッとみた。僕は誰もいなくなった昇降口で、
袋を開けた。
メッセージカード、時間だけ書き換えたカードだけ佐々木君の下駄箱に入れたんだ。
オミが笑う、悲しそうに。
「もうすぐ本命が来るよ、由梨。さよなら。会えて嬉しかった。これ、チョコ。好きな人が出来て、良かったね」
オミは私から視線を移し踵を返す。
幕が、降りる。
惟臣は淡く笑って私に手を振った。
二度と会わない、そんな顔をしてる。私は惟臣の首に手を回し背伸びをして惟臣に無理矢理キスをした。
たまたま開いたドア。 男子仲間を連れてきた光太郎くんたちの 『おーっ!!』 と言う野太い歓声が上がる。
「ごめん、光太郎くん。好きな人、見つけた」
オミの味はチョコレート味。私も同じ味になりたい。オミの味が今、とても欲しい。
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