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君の隣は愉しい⑥《ナラタケ》
しおりを挟む図書室でしか会えない君
会うことを必要としない君
『隣いい?』
『構わないけど、本読んでるだけだぞ』
この子は、生食不可。
といってもキノコは食べる時ほぼ全部火を通した方がいいらしい。
(ギリギリ、マッシュルームは生食OKらしいけど、やっぱりキノコは基本生食は向かないらしい)
ページの端のマークは、これはお椀マーク!食用キノコ。
名前は君は何て言うの?なんてね。君の正体は知ってるよ。
『ナラタケ』
お祖母ちゃんが豚汁にいれてたなあ。
でも、山でこの子を採るときは
『オリミキ』
『オリミキ』って言ってた。
キノコ汁、美味しかったなあ。
頭の中でしかもう描けない、
味や
香りや
温もり。
お祖母ちゃんの、東北訛りのあったかい方言。
僕はあそこだと、生きていられた。
呼吸ができた。
雪が振る、豪雪地帯。
熊も、狸も、猪もでる。
戸締まり厳重
掘りごたつの夕べ
甘酒を飲みながら。
お父さんの実家なのに、お父さんは
『ホームにでも早く入ればいい。親父もお袋も。これだから田舎の年寄りは』
と、吐き捨てるように、馬鹿にしていっていた。
田舎の何が悪いのか。
確かに不便で、急な病気や怪我なら命に関わる。
でも、心の豊かさってある。父も母も貧しい。品性が貧しい。
持ち物のブランド?住んでるところ?天変地異が起こってみなよ。ヒエラルキーの一番上は第一次産業じゃないか。
お祖母ちゃんもお祖父ちゃんも、無理やり認知症だってことにされて、その専門の、ホームに無理やり入れられた。
ずっと『帰りたい』っていっていた。
普通に話すテープをお医者さんに聞かせても、
『いったり来たりをくりかえすんですよ』の一点張りだった。
悔しくて
悔しくて
悔しくて
お祖父ちゃんが心臓で逝って
元気をなくしたお祖母ちゃんが『お墓参り』という名目で、看護師と一緒にならと、外出許可をもらって、家に帰った。キノコ汁を作ってくれた。
変わらない味。いつもの味。
そして、後から聞いた話。
お祖父ちゃんも、お祖母ちゃんも認知症じゃなかった。ホームの院長と父の何らかの忖度があったらしい。
帰りたい
帰りたい
あの山に
あの河に
49日の法事の帰りに田舎にある道の駅に寄ってもらった。
ナラタケを買った。
両親には呆れられた。
泣きながらキノコ入りの祖父母に教わった豚汁を作った。
さよなら。さよなら。
守れなくて、ごめん。
…………………………………………
「ほら、ハンカチ」
「え?」
「泣いてる。やるから。泣いていいから。よっぽどだろ?凛太郎がそんな顔するなんて。ナラタケアレルギー?」
「大好きだったひとが教えてくれた料理。ナラタケとかをいれた豚汁。美味しかったんだ。自分で作っても、味がしなくて、泣きながら食べたよ」
「そうか。でも、凛太郎が大好きだったひとは、喜んでるよ。だって、俺なら嬉しいから。忘れられてないって。存在も、教えた料理も」
君は続けた。
だからさ、ナラタケを思い出しても哀しくなくなったら、その美味しい豚汁、俺に作ってくれよ。
君は通りすぎるひとがきっと変な目でみてるんだろうと知りつつ、泣き止まない僕の背中を撫でてくれた。
優しいな、君の手はあったかいな。
僕はこんなあったかい手をしたひとを祖父母以外知らない。
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