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〖第81話〗
しおりを挟む苦笑いした真波はアンティークのベロアの凝った箱を私に差し出した。
「開けてみて」
そう、嬉しそうに真波は、私を急かす。そんな真波が可愛らしくて、ずっと見ていたいと思う。
思いきって開けた中身は、琥珀と金鎖のネックレスだった。涙型に滑っぽく研磨されたの琥珀のネックレストップと金鎖の鎖。
そして、雫のように琥珀をあしらった金鎖のアンクレット。取り敢えず、ダイニングの机の椅子から、モコモコの履き心地の良い靴下を脱いで、ラグに座りこみ、真波にアンクレットをつけて貰う。ネックレスも。
「きらきらして、遠い国の踊り子のさんみたい。裸足で歩くと綺麗な音がするのね。本当に綺麗」
「夕焼け空の色だね。やっぱり似合う。たまたま大学の裏にあるアンティークの貴金属扱ってるお店で、綺麗だなって思ってさ。店主さんに『絶対本当に好きな人ができたら買いに来るんで、売らないで下さい』って言って、少し前に買いに行った時『随分お待ちしました』なんて言われちゃった。絵にも出てるよ。恥ずかしいな。もう少し飲もう?」
その言葉に絵を玄関に飾ろうと思案する私と、カフスボタンをそっと撫でる真波が席について、シャンパンのグラスを重ねた。
「絵も実物も綺麗な色だね。あれ?ペンダントトップの中に虫がいる」
「あ、気づいた?中に蜂がいるよ。昔の時間と一緒に閉じ込められてしまった蜂。身につけるときは俺だと思ってつけて。どんな時でも、美雨さんを守るよ、俺がいつでも美雨さんが好きだし、俺は何処にいても美雨さんを見つけるよ。あ、外、氷雨だ。美雨さんだ。雪になんかならなければいいのに」
真波はかなり酔っていた。酔いで、頬を赤く染め、愉しそうに私だけを見つめて饒舌になり、柔らかな笑顔を浮かべる真波が好きだと思った。
「真波、あなたが好きだよ。ずっと………一緒にいれたらいいね」
「変なの、美雨さん。ずっと、一緒にいようね、じゃないの?」
「そうだね、真波が正しいね」
切なくなる。でも私はまるく微笑む。テーブル越しのキスはもどかしい。チョコアイスケーキの味と真波の味がした。後頭部を支える大きな熱い手と長い指に胸が苦しくなった。真波に本気な私と、多分『恋』に本気な真波。辛いなと思った。
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