氷雨と猫と君〖完結〗

華周夏

文字の大きさ
上 下
67 / 94

〖第67話〗

しおりを挟む

「どうしたの?」

「なんでもないのよ」

 クローゼットを取り敢えず空にして真波は、合否判定を私に出していく。靴や鞄もどんどん仕分けていく。お気に入りで、これから着るか着ないか。冠婚葬祭用の服は体型が変わった時用のストックを一着。真波は、

『これ使う?』
『これは、要らないかな』

 顔を上げず作業を続ける。延々と続く作業。

「感慨深いわね。自分の好きな人が私の似合う服を判別してるなんて。少しだけ、何か、いいわね」

私の服やアイテムを見て、

「これ、毎年どう片付けてたの?」

「本当はリサイクルショップに出したかったけど、近くにないから、地域のバザーに」

「美雨さん!勿体ないよ!バザーが悪いとは言わないよ。けど、美雨さんの服とか、バックとか、状態いいし、流行りだし、ハイブランドだし。アプリで売ったらおはぎとだいふくのご馳走どころかポイントにかえて、コンビニで豪遊出来るよ!やってみたかったんでしょ?夜遅くまで働いてた時期があったって。この前一緒にお風呂に入ってて言ってたこと、引っかかってた。コンビニの灯りが遠くに見えたって。利用させてもらってるって感じだったって。対等な関係ではなかったって………」

 係長時代、報連相も解らない何も出来ない、しようともしないくせに権利ばかり振りかざす部下と、上司のパワハラの板挟みで会社をやめようかと思っていた。直樹とは知り合う前だった。

 毎日終電で帰れたらいい方。電車がない時は歩いた。ひたすら。一時間かかった。まだここに住む前の頃だ。

「メイクは崩れて、隈が出てた社畜の女には、男の店員も女の店員も冷たかったわ。ぞんざいに扱われて。おでんの注文もろくに聴いてくれなかった。悔しくて悔しくて、手袋もしていない手に、おでんだけが温かくて。その頃まだおはぎとだいふくもいなかった。涙が込み上げてきて、家に着く頃は、おでんも皆、冷めていてね。蒟蒻だけがあったかくって、玄関で膝をついて、座り込んでおでんを食べたの」

 ここまでくるのに、時間がかかった。どう乗り越えたかなんて覚えていない。毎日が必死で、生きるのが精一杯だった。ただ、今の私のブレーンの部下は私が一から育てた部下だ。右も左も解らないひよこたちも、今は軍鶏になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

処理中です...