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〖第52話〗
しおりを挟む泣きながら、誰かに縋るなんてみっともない。そう思ってた。でも、あなたが変えた。あなたを失いたくなかった。余計に嫌われるなんて解っている。
「美雨さん、深呼吸して、話を聞いて。お願いだから話を聞いてよ」
「もう、嘘なんて聴きたくない。あの人と暮らばいい。私を馬鹿にしながら、あの子を描けばいい!」
──────────
いつの間にか、粉雪から大粒の雪が降っていた。ひどい雪だ。雪なんか大嫌いだ。あの日、雪が降らなかったら、真波と会うことはなかった。今日も夜半過ぎに降るっていったのに。雪なんか降らなければ何も知らずにいられた。
「あいつの言葉と俺の言葉、どっちを信じる?」
「───」
「理知的に話そう。何処か喫茶店入ろう? 手袋してこなかったんだね。手がこんなに冷えてる。ごめんね………」
また、パンダになっているのかな。どうでもいいことのはずだったのに。ショーウインドウに映る私は、どう見ても息子に世話される『可哀想』なお母さんだ。
不幸中の幸い、パンダにはなってない。よく考えてみて、指や手に、アイライナーやシャドウがついていないことに気が付いた。そんなことさえ忘れてる。今、こうして真波と一緒に歩くまではここまで自分の見た目に固執していなかった。
私が若くて綺麗だったら胸を張って真波の隣を歩けるのか。せめて、今の年齢でも、誰もが納得する美人だったら、周りからの無言の視線の圧力を感じなくて良かった。
男の人はいいなと思う。どんなおじさんでも、下手したらおじいさんでも、若い女の子を連れていても当たり前のように街を歩く。稀に称賛に値するような映画のようなカップルもいる。
でも、女性は男性のように老いてもなお、心は若々しく、素敵に年を重ねた女の人でも、男の人のように若い恋人を連れているのは、日本ではほとんど見かけない。
真波は歩幅と歩調を合わせて私を庇うように左を歩く。暫くして、入口の雰囲気が良さそうな喫茶店を見つけた。静かなジャズが流れる間接照明の淡いオレンジ色のライトが柔らかな印象の雰囲気のいい店だ。
真波はウインナーコーヒー、私はロイヤルミルクティーを注文した。熱い飲み頃のコーヒーとミルクティーが、丁度いいタイミングで届けられる。
「温かいね。ウインナーコーヒー美味しいよ。一口飲む?」
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