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〖第25話〗
しおりを挟む「真波くん? 素敵な女の子の、恵理子ちゃんって言ったっけ。あの子をモデルに絵を描いてたんでしょ? 描き終わったの?」
「あ、ううん………描いてないんだ」
多分嘘だ。あの子を抱いて、あの子を描いたんだろう。そのくらい彼の声には不思議な後ろめたさがある。
「どうして電話なんかしてきたの? 彼女は大切にしなさい。私に電話していたのを彼女が知ったら彼女は嫌な気持ちになることくらいわかるでしょう? 直接痛い目に合うのはあなたよ」
「だって美雨さん、俺なんかすぐに面白いアクシデントの過去にして、忘れようとするでしょ?」
「真波くんが忘れてたんじゃないかと思ってたけど」
「………恵理子は、あの後すぐ帰ってもらった。ちゃんと話をして関係は清算した。言いにくいけど、美雨さんに電話する前に、遊びの友達の女の子達とも関係は全部きれいにした。けじめだと思って」
『何のけじめなのかしら。あの子は彼女じゃないの?私を嘲笑った可愛い、脚の長い、綺麗な子』喉まででかかった問いを飲み込んで、「けじめ?」とだけ言った。真波は、何がしたいのだろう。
「………俺、小さい頃からさ、好きな物や人しかうまく描けない。他の画題でも、絵は好きだから、描くけどね。美大にいかせてもらっても、やっぱりそれは変わらなかったんだ。高校卒業して、一人暮らしして、SNSで描いた絵をアップしたらバズって。描けば、描くだけ売れていい気になってた。お酒飲みながら、大切な依頼の絵を描いてた。ある日さ、警察から電話があったんだ。………家族がさ、事故で死んだって。もらい事故で、皆いなくなった。父さんと妹は、眠ってるみたいだった。でも、母さんだけ損傷が激しいって、最後のお別れも出来なかったよ。独りになってから、まともに絵が描けなくなった。毎日毎日思い出すんだ。小学生の時に全国で金賞取って、家族皆に褒めてもらって。お祝いでさ、ケーキ、モンブラン。キャンドル灯して、息を吹くと真っ暗になるでしょ? あんなに幸せだったのに、一瞬で真っ暗。独りぼっち。あの風景を思い出すと、もう、描けなくなるんだ」
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