氷雨と猫と君〖完結〗

華周夏

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〖第9話〗

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『みゃあみゃあ』と二匹は可愛らしい声で鳴いて、ご飯をねだる。

 私は以前、

『家ではゆっくり休んで下さい』

 と会社の後輩から誕生日にプレゼントされたシルクの部屋着を着る。一日のリセット。おはぎとだいふく二匹にご飯をあげ、やっと自分用のご飯を簡単につくり、至福のお風呂。

 キャンドルライトと、お気に入りの入浴剤。バスソルトで疲れを癒し、お風呂あがりにお水を飲んで、寝る前のストレッチ。

「おはぎ、だいふく、寂しかったね。いっぱい遊ぼうか」

 二匹には毎日たくさん話しかけ、たくさん遊ぶ。パソコンでデータ確認している間も足にじゃれ、ベッドに仰向けに横になると、二匹はするするとベッドにもぐり、私の左右首すじに頭をのせ眠る。温かな、いのちの重みがいとおしく思えた。

 そして私の鼓動を聞きたがる直樹がいた。彼が家に来る日もやっぱり私が料理を作って、映画を見て、抱き合った。いつも繰り返す、ルーティン。

 おはぎとだいふくの扱いは最後までなれなかった。

「可愛いんだけど、無理に扱ったら怪我させちゃいそうじゃん。こんな柔らかくて、小さいのに」

 彼は猫のサイズを解っていない。家の子は猫で言ったらモンスターサイズだ。ちょっと太っているのもあるが、そもそものサイズが規格外なのだ。

 そのことを伝えても、『可愛いね』と繰り返し、優しく二匹を撫でる目は、家に来た誰よりも優しかった。

   ***

 降りだしてから、急に強さを増した雨に私のマスカラは落ちてみっともないことになっていると思う。アイライナーもきっと溶けて流れた。

 明日は休み。帰り道、コンビニエンスストアでチューハイのストロング缶のロングを三本買う。もう、外見なんか気にしない。

私はアルコールは強い。日本酒一升は楽に飲める。それに私は缶チューハイを片手で開けられる妙技がある。飲みながら帰った。いつの間にか辺りは雪が積もっていた。

「綺麗だな──」

『綺麗な指だな。俺、美雨の指が好き。白くて、細くて。やさしい爪も。桜貝だな。薄いピンク』

食器を洗い終わったばかりの左手の薬指に口づけられる。

「きらきら光るもの、贈るから。待ってて」

信じてた。確証のない『待ってて』を待っていた。
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