妖精の園

華周夏

文字の大きさ
上 下
27 / 77

【第22+α話】《眠る》二人

しおりを挟む

レガートはフィルの髪を一束持ち、口づけた。

《私の花嫁に、なって欲しかったな。お前が、欲しかった。お前は偽りがない。美しい金の髪に林檎のような口唇。愛らしい顔立ちだ。お前は私が翁に扮していたときも何も変わらなかった。それに私がずっと欲しかった言葉を、まるで見てきたようにくれる。お前がいとしい。この気持ちを伝えたら、お前も嫌悪するのだろうか。私を好きになってくれとは言わない。ただ、嫌わないでくれ…けれど、もう諦めなければな。私もお前もつらくなるだけだ…もう、今のままではいられない》 

レガートは潤んだ声でそう言い、そっとフィルを抱き寄せた。
 

『……レガートは私の初恋なの。ずっとレガートが好きだよ』

 
という、儚いフィルの告白にレガートは胸を痛めた。

想いが通じても、許されない。

この手で自分の想いもフィルの想いも握り潰すのか。

レガートは初めて運命を憎んだ。

叶わないものがある、望んでも得られないものがある。そんなことはとうに解ってきたはずなのに。あの娘を失い、痛いほどレガートは自分は醜いと思い知った。
だから余計にレガートは背筋を伸ばした。 けれど、フィルだけはそのままのレガートを「高貴で美しい」と言った。
今、フィルはレガートを親鳥が雛を守るようにレガートを胸に抱く。
泣きながら眠るフィルがいとしい。
そしてあまりにも憐れだ。

【外から来たものは王様のもの】

王様が目覚めた今、掟は絶対。そして王様が『花婿』を指名した今、今夜で全てが終わりだ。 

『フィル』

……そう名前を呼ぶだけでレガート苦しくなる。もう、フィルを想ってはいけない。『さよなら』の意味も込めてレガートはフィルに口づけた。

『眠る』フィルは涙が溢れてとまらなかった。



 朝、目覚めるとレガートが、お茶を飲みながら椅子に腰掛け空を見ている。
心なしか面持ちが暗い。 
そんな最中フィルは伸びをして目を擦りながらレガートに『おはよう』と言った。昨日に比べずっと強い日差しがレガートの白い肌を照らす。
フィルは目が覚めても最初寝たふりをしてレガートを見つめていた。
綺麗なひとだと思う。けれどフィルを見つめるレガートの瞳にはいつものような光がない。

フィルは昨日、『眠った』時にレガートから聞いた言葉が、耳から離れない。

呟くような言葉が胸を締めつける。
忘れられない。忘れたくない。あの時、素直に想いだけでも伝えるべきだったんだろうか。
通じあえたと思える瞬間は確かにあった。


『お前がいとしい』


とあの時レガートは確かに言った。嬉しいと同時に涙がとまらなかった。

修練が終わっても、花嫁になっても胸の中の金色の灯りは消えないとフィルは思う。
けれど、レガートはフィルが起きていたことを知らない。

レガートの臆病な告白を聞いていて、触れるだけの口づけを交わしたこともフィルは知らないと思っている。
フィルは『いつか』伝えようと思った。不確かな『いつか』レガートに恋をしていた。それは、レガートも同じだった。想いが過去に変わる前に伝えたい。

いつか。
そう、いつか。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨
ファンタジー
――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】 12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます! 双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。 召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。 国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。 妹のお守りは、もうごめん――。 全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。 「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」 内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。 ※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。 【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

処理中です...